38 アモの仕事Ⅱ-1
ようやく辺りが明るくなると起き出して歩き始めた。
あの後結局、アレコレ考えてよく眠れなかったので眠い。
遠慮なくあくびを連発しながら歩く。
「朝ご飯はどうするの」
「お昼前には村に着きますからー、そこで食べましょう。村で仕事をするので、今夜は泊まりになるかと思いますー」
なるほど。
街道を逸れたのは、その仕事があったからか。
いつもながらアモはマイペースだ。そしてこちらから訊かないと説明はしてくれない。
昼ご飯はパンと水よりはましなご飯が期待できるかな。でもアモは『村』と言ったから、期待薄か。村だと食堂も無さそうだし。
それにしても昼までファルタが我慢できるのかな、と振り返ると、当然のごとく勝手に手持ちのパンを食べながら歩いていた。
アモの言ったとおり昼前に村へ辿り着いた。
村のだいぶ手前から、麦っぽいものの畑が続いている。収穫は終わったのか既に穂は無かったけれど、雑に並んだ切り株が畑感を出している。
この畑の状態を見ただけで、農業レベルは低そうだとわかる。
おそらく雑穀の畑だろう。あのもそもそしたパンの材料だと思われる。
もうちょっと美味しいものを作れば良いのにと思うが、食味改善の品種改良なんて贅沢には手が届かない世界なのだ。
それ以前に収穫量を増やす改良すらおぼつかない様子なのだから。
畑の土もまるで泥沼かと思うような有様で微かに異臭さえ感じる。どう見てもたいした収穫は望めそうにない。
見ただけで分かるこの貧しさでは、昼食は期待するだけ無駄だろう。
そう思っていたのだが―――
雑に建てられた木製の門を抜けて村に入ると、意外な景色が展開していた。
街道から外れた僻地の村とは思えない小綺麗な家が並んでいる。
なんなら今まで寄ったどの町よりも立派と言ってもいいくらいだ。
村の中を歩く人の服も目の粗い毛織物ではなく、色とりどりだ。
さっきまでの荒れ果てた畑の光景からは想像もできない繁栄ぶりにびっくりだ。
いったいどこから来たのか、旅人らしき人々も散見される。商人なのか大きな荷物を持つ人もいる。
こんな僻地の村で何を商うのか謎だ。と思うが、珍しい特産物でもあるのだろうか。
物珍しくて辺りをキョロキョロ見回しながら歩く私の横で、アモはなにやら難しげな顔をしている。
ファルタはと見ると、普段の無表情に不愉快が加わった仏頂面だ。
その理由がわからず、私は首を捻った。
アモは真っ直ぐ村の中央を目指した。
そこには広場があり、例のごとく祠があり、真新しい家が建ち並んでいた。
中でもひときわ大きくものものしい建物に向かう。どうやらここが目的地らしい。
大きな建物は村長の家だった。
今現在、村長の家に招かれて饗応を受けている。
饗応なんて大げさっぽいけれど、この世界の食事事情からしたらまさに大盤振る舞いと言っていい。
なにしろあのもそもそした雑穀パンではなく、たぶん小麦の白いパンがテーブルに出ているのだ。
その他に、肉の入ったシチュー、彩り鮮やかな野菜、山盛りの果物。
なんという贅沢!
村の大きさは今まで通ってきた村々とさほど変わらないのに、この違いはすごい。
予想外に豪華な昼食を前に、うさんくさい表情の村長がアモに依頼の話を始めた。
村長はでっぷり太った中年男だ。
ごちそうを並べておきながら勧めもせず、尊大な態度でアモに用件を話し始めた。
もちろん私たちのことは無視だ。
別に無視されるのは構わないが、食べ物を前にしてファルタが切れるんじゃないかという方が心配だ。
ところがチラリと横のファルタを見ると、鼻の頭にシワを寄せてゴミでも見るような目で並べられた豪勢な料理を睨んでいる。
一体どういうことだろう。
まさか毒でも入っているとか……
「……で村の周りで真夜中になると怪しい光が立つというのだ」
ファルタに気を取られている間に村長の話は進んでいた。
「まあそれで、アモに依頼すべきだという話になってなあ」
「怪しい光ですか」
光ってもしかしたら昨夜私が見たやつだろうか。
「そう。光るだけで何をするわけでもない。ただこうゆらゆらと光って見える。女子供が怖がるのでななんとかしてほしいとうことなのだ」
「そうですか」
アモの声が低い。
ファルタだけじゃなくアモも不機嫌だ。
今までほとんど感情の起伏がないようだったアモにしては珍しい。
確かに村長は威張った感じだけどここまで不快をあらわにするほどだろうか。
「では村人の話を聞いてきます」
いきなりアモが立ち上がった。
え?
食事はどうするの?
とあっけにとられていたらファルタも立ち上がる。
えええ?
ファルタが食べようとしないなんてある?
「そう慌てずとも……」
さすがに村長も驚いた様子で引き止めようとしたけれど、アモは構わず部屋を出ていく。
私は焦って後を追った。
そのまま村長の家を出て村の中を歩く。
「ねえどうしたの。何か怪しいことでもあった?」
アモに問いかけても返事がない。
村の中じゃ話せないってことだろうか。
まさか本当に毒を盛られていたとかはではないよね。
アモは村人に話を聞くでもなく歩いていく。
村はそれほど大きいわけではなくてやがて端に辿り着いた。
さっき入ってきた側と違って、こちら側は立派な門がありあたりに立ち並ぶ家も装飾が施されている。
門の外の道もまっすぐに整理されて、荷車を馬に引かせた商人たちが出入りしていた。
そして道の両側に青々とした麦畑が広がっている。
反対側と随分格差があるなあ。
こっちが正門ってことなのかな。
それにしても麦がびっくりするほど実っている。




