36 旅の続き
朝食には鯵の開きが出た。鯵かどうかはわからないけれど。
魚の開きを焼いたものと、薄い野菜スープとパン。
ほかほかのご飯があったら最高だったのだが。
もそもそした雑穀パンに鯵の開きとは、故郷日本ではまずお目にかかれない取り合わせだ。そしてもちろん味も残念だった。
「うーーん……」
残念さ加減に唸っていると
「食わないなら貰うぞ」
とファルタが物欲しげな目で私の鯵を狙う。
昨夜は食堂のスープを鍋ごと飲み干してしまう勢いだったので、今朝は開きは三枚までと釘を刺されている。パンのお代わりも三回までだ。
「結構です」
ぴしゃりと言ってファルタを牽制する。
鯵は美味しいのだ。取り合わせがいまいちすぎるだけで。
食べ足りないとぼやくファルタは、宿屋街を抜けた先にあった広場で屋台に直行した。
食事の付かない宿もあるのだろう。屋台で腹ごしらえしている旅人は結構いた。
アモは広場の真ん中にある伝え石の置かれた建物に向かう。
「一緒に行ってもいい?」
「かまいませんよー、でも、伝え石の声は二人では聞けませんけど」
なんと。テレパシーっぽいものなのか。
「ええと……私でも使えるかな、その伝え石」
「ううん……わからないですー」
やってみるしかないな。
できなかったら仕方ない。それだけのことだ。
「まず簡単なことを訊いてみるといいですー。天気とか」
アモがアドバイスをくれた。
「なるほど。どうやって聞けばいいの」
「石に手を置いて、普通に訊きます。口に出しても良いし、出さなくても良いです」
謎テクノロジーだな。
魔法があるくらいだから、そんなものなのだろうか。
物理法則も違うし。
魔法と言えば、初日に見たきりお目にかかっていない。
生活魔法とか便利なものも見たことがないし、どんな魔法があって誰が使ってるんだろう。
後でアモに訊いてみよう。
アモと二人で広場の真ん中にある大きめの祠に入る。
この町の祠は多角形のタイプで、各辺に入り口が付いている。私たちの他にも、行商人らしき人が出入りしていた。
祠の中は薄暗く、真ん中に石が置かれた台座がある。石はコノンノで見たアモの石より少し大きいくらいだ。町の規模に応じた大きさなのだろうか。
アモは石に指先を当て、じっと目を瞑っている。
私もそれに習って手を当て、『明日の天気は晴れですか』と心で唱えてみた。
『……』
何も起きない。
もう一度―――
『……』
へんじがない。ただのいしのようだ。
訊き方が悪いのか、それとも私には反応しないのか。
どちらにせよ、石はうんともすんとも言わなかった。
がっかりはしたけれど、仕方ない。
どうしても知りたいことがあれば、アモに訊いて貰えば良い。
どのみちこの町程度の伝え石では、たいした情報があるとも思えない。
大きな街の伝え石は多くの問いに答えられるとアモは言っていた。ネットに繋がっていないPCみたいなものなのだろう。
アモが情報を収集し終わり、ファルタがとりあえず腹を満たしたら出発だ。
昨日と代わり映えしない退屈な道が続く。
河川沿いに造られた土手道で、時折舟を曳く馬や人に出会う。やはり舟の速度はだいぶ遅そうだ。
大きな荷を担いだ行商人とすれ違い、稀に身軽そうな旅人が追い越してゆく。
その誰もが、私たちに好奇の目を向ける。
それも仕方ない。相当奇妙な組み合わせであろうことはわかっている。
あまり見かけない―――少なくとも今まで一人も出会ったことがない―――ふわふわの金髪の女。
この辺では変わった装束の女。
極めつけは、ばかでかい剣を背に担いだ超美形。
誰が見たって妙ちくりんな一行だ。
実際正体はもっと奇天烈なのだけれど。
なにしろ、仙女にオカルト術師に竜人族だ。
オール人外―――
アモが人外なのはかは微妙なところだが。
「ねえアモ」
そういえば―――と疑問に思っていたことを口に出してみる。
「この世界には、人間以外の生きものもいるのかな」
「それはいますよー。馬とか魚とかー、魔物も」
訊き方が悪かった。
「そうじゃなくて……ええと、言葉が通じるような相手ってこと」
「言葉が通じるのは人間だけですー」
そういう括り方か。
「普通のヒトじゃなくて……仙女とか竜人とかいるなら、例えば猫耳メイドとか」
「ねこみみ……めいど?」
しまった。
つい口が滑っていらない単語を付けてしまった。
「こう……猫みたいな耳がある人間というか……」
頭の上に掌を立ててぴこぴこやってみる。
「はあ……?」
思いっきり首を傾げられてしまった。
「尻尾の生えた人とか、耳が長くて美形で長生きとか、小柄でずんぐりむっくりで力の強い人とか」
エルフやドワーフの特徴を身振り手振り混じりで表現してみるも―――
「サヤさんは想像力豊かですねー」
なんかビミョーに子供っぽいと言われてませんか。
どうやら獣人もエルフもいないらしい。
14じゃなくて7か。過去にプレイしたゲームが頭に浮かぶ。
あのナンバリングタイトルでは獣人はあまり出て来なかったような気がする。やたら出てきたのはWeb小説だ。
男主人公ハーレムありだったら絶対的に定番だった。それこそが猫耳メイドだ。
「じゃあ、竜人ってなんなの」
当人を無視してアモに訊く。ファルタは3メートルほど後ろをのんびり歩いている。
「竜人は、地上で人に育てられた竜ですー」
「え、竜は実在するの」
「はいー。人には見えないくらい高い空の上に棲んでます」
バハムート○式かな。
「見えないのに竜が棲んでるってどうしてわかるの」
「ごく稀にー、死んだ竜が墜ちてきます」
「えぇっ、危なくないの」
「危ないですねー。その昔には街一つ吹き飛んだこともあるっていいます」
それは巨大隕石落下だ。
「竜の大きさにもよりますけどー、大きいとコノンノの領主館くらいあるそうです」
「ええぇー」
ファルタが人の形の竜というから、竜も人とそう変わらないのかと思ったけれど、それはもう恐竜どころか怪獣サイズだ。
「墜ちてきた竜の死体は竜骸といって、超常の魔力を帯びているそうですー」
「見つけたら大儲けとか?」
「国が戦争で獲り合うレベルですねー」
いろんな意味で危険すぎる。




