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終末の月 ~異世界転生したら仙女でした…仙女ってナニ?~  作者: 天鳥たくみ


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35 三人旅の始まり

 翌朝、まだ暗いうちに宿を出た。

 早朝にもかかわらずそこそこ人通りがある。アモの言っていたように早く発つ人が多いのだろう。


 町の出口へ向かう辺りに、いくつか屋台が出ていた。良い匂いが漂ってくる。

 魚介で出汁を取ったスープか、スープで雑穀を煮込んだお粥みたいなものの二択だ。

 あとパンを売る店。これはお昼用かな。


 お粥には、ネギっぽい刻んだ野菜と佃煮みたいな塩辛い貝の煮たものを添えて食べる。

 癖のある雑穀の味がネギと貝で緩和されてそれなりに美味しい。

 私とアモが一杯食べる間に、ファルタは三杯食べてパンも食べていた。

 相変わらず吃驚するくらい食べるのが速い。熱くても平気なのか。


 昼用のパンも買い込んで、町を出た。




「アモは物知りだねえ」

 河沿いの土手を歩きながら私は言った。

 季節はそろそろ初夏に近いのか、陽射しが高くなってくるとけっこう暑い。


「はいー?」

 どこかの警視庁の人みたいな返しやめて。

「こんな成り行きで来た町のことも道のこともよく識ってるじゃない」

「識ってたわけではないですー」

「え?」

「町でー、伝え石に聞いてきました。天気のことも聞いておかないといけないし、旅をする時は大事ですー」


 伝え石―――すっかり忘れてた。そんなものがあったっけ。

 結構便利なんだなあ。天気予報もしてくれるのか。


 なるほど。


 アモは今まで立ち寄った村で必ず伝え石から情報を仕入れていたのか。

 検索できるらしいから、的確に聞けるならばかなり役に立ちそうだ。

 ネットがなかった頃の元世界よりむしろ便利かも。


 あの頃は何かを調べるとしたら本を読むか人に訊くしかなかった。

 ちょっとしたことを調べるのにも、本屋とか図書館とか脚で稼ぐのがあたりまえだったのだ。

 スマホの登場で世界の常識が変わったのは、つい最近のことだった。


 ファルタは全く会話には参加してこない。

 水の上も走れるという彼女からしたら私たちの歩く速度はカタツムリレベルだと思うけれど、文句を言うでもなく着いてくる。

 そういうものだと思って放っておくしかなさそうだ。


 アモもわりと必要なことしか言わないタイプだから、人数が増えても無言で歩く旅になりそうだなと私は思った。

 女子旅なのに。




 街道の途中にお茶屋があった。

 掘っ立て小屋というか、柱を立てて葦簀(よしず)を廻らしたレベルの休憩所だ。

 ノミカノの町を出て体感では三時間くらい。そろそろ休憩したくなる頃合いだ。


 ファルタが何も言わず入っていき、店番の少女に早速注文している。

 とにかく口に食べ物を入れるチャンスがあれば逃さないということのようだ。


 ファルタを追ってお茶屋に入り、麦茶に似た飲み物と団子っぽい食べ物を注文する。というか、それしか無い。


 雑穀の粉を練って蒸したものが木の葉に乗せられている。味は塩味だ。

 うん、不味い。


 ノミカノのレストランは美味しかったけれど、思い出してみてもあれは魚介が美味しかったのであってそれ以上のものではなかった。

 味付けはほぼ塩一択。

 多少ハーブが入っていたりチーズや油が使われていたりした分だけ味に拡がりはあったけれど、やっぱり発酵調味料が無いっていうのは大きい。

 今更ながらに、料理はまさに文化なのだなあと思う。


 うすら塩っぱいだけのもそもそした団子でも口に入れば良いらしく、ファルタは何個も食べている。

 私は一個でも持て余した。

 温かい麦茶は美味しかったので、一休みできたのは嬉しい。


 そしてまただらだらと歩き、日が暮れる頃次の町に辿り着いた。



 今のところ、私が見たこの世界の明かりは松明(たいまつ)か油を燃やすタイプのものだけだ。

 だから夜は暗い。


 家々の窓に明かりが灯り―――なんてことはない。

 そもそも窓も小さいし、ガラスがないので夜には鎧戸を閉めてしまう。

 だからまだ西の空に夕暮れの名残が残るこの時刻でも、町は黒々とした家並みが闇に沈み始めている。


 町には低い塀が廻らされていて、街道から直通で門がある。

 幾ばくかの通行料を払って町へ入った。

 この街道は港町ノミカノから河沿いに内陸へ向かう一本道らしい。だからノミカノで商品を仕入れた行商人が日常的に利用するのだろう。

 ノミカノから丁度一日で辿り着く位置に町ができたのは、そういうわけのようだ。


 門を入ってすぐに宿が並んでいた。

「入り口に明かりが灯ってるのが宿屋ですー」

 とアモが説明してくれた。

 多くの宿は一階に食堂というか居酒屋のようなものがあり、二階が客室になっている。


 私の知るホテルやレストランのように大きなガラスドアが在るはずもなく、重たい木のドアだから中の明かりは漏れない。

 なのでそういう店はドアの横にランプのようなものを置いている。


 街灯なんてものも無いので、その小さな明かりが無かったらどこに何があるかも見えない。とにかく暗いのだ。


 ノミカノはここよりだいぶ大都市だったようで、路上の灯りも豊富で歩きやすかったのだと今にして知る。

 せめて月明かりでもあればと思うが、この世界に来てから月を見たことがない。


 初夏らしく夜になっても暖かいので、ドアを開け放っている店もある。

 中からはすでに酔客の声が響いている。

 その手の店は遠慮して、アモが選んだのはこぢんまりとした宿だった。


 ドアを開けると料理の匂いが漂い、数人の客が静かに食事していた。悪くなさそうな宿だ。

 もしかしたらノミカノの伝え石であらかじめ良さそうな宿を調べてきたのかもしれない。



 食堂兼宿のカウンターでチェックインして小皿に入った灯りを貰う。

 少量の油に灯心を浸したものだ。油は魚油らしく、不快な臭いがした。

 これを風よけの紙で囲ったものが行灯(あんどん)で、化け猫が行灯の油を舐めるのは油が魚油だからだ。

 子供の頃は魚油なんて知らなかったから、なんで猫が灯油を舐めるのだろうと思っていたものだ。


 心許ない灯火を先頭に階段を上り、部屋に荷物を置いて食堂へ戻った。

 メニューなどは無く、定食の一択らしかった。

 問答無用で籠盛りのパンが出され、スープが並ぶ。

 スープは干鱈のような魚と野菜や豆がごろごろ入ったボリューミーなものだ。


 海から一日離れただけで、魚は干し魚になる。冷凍も冷蔵も無い世界で生魚を運ぶのは無理だ。

 新鮮な魚介料理というのは港町だけの特権なのだ。


 飲み物は薄いエールか薄いワイン。あまり味のしない果実のジュース。

 この世界にはアルコール不耐の人がそれなりにいるのか、どこへ行ってもジュースかお茶―――いわゆるハーブティーか穀物茶だ。茶の木の葉にはお目にかかっていない―――があるのはありがたい。


 ファルタは相変わらずすごい勢いで食べまくり、私は塩辛いスープに固いパンを浸して口に運んだ。



 早朝から丸一日歩き続けて思ったより疲れていたらしく、ベッドに入ると一瞬で寝付いていた。


 小さな窓枠から光が漏れているので朝だとわかる。

 手探りで鎧戸を開けた。

 爽やかな風が吹き込んで部屋に淀んでいた悪臭が吹き払われる。

 魚油、ハンパないな。


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