33 ファルタ
「迷宮の出口を探すのにまた時間をとられたが、ミナナへ出たとわかってからは早かった。コノンノからルバ行きの船に乗ったこともわかった」
雑なわりに意外と調査能力がある。
「コノンノからは船で?」
「いや」
「え、まさか空飛んでとか……」
「空は飛べない」
「ですよね」
「走って来た」
は?
はあぁ?
「走るって……どこを」
「海上だな」
「ええと……水の上を?」
「そうだ」
なんかデタラメなことを聞いた気がするんですが。
「途中で引き返して来た船に出会った。船客もおらず不審だったので船長に問いただすと、海賊と結託して客を拉致したと白状した」
水上を走るがインパクトありすぎて話が耳に入ってこない。
エリマキトカゲかな。懐かしい。
「拉致された船客を集めるのがあの島だというので行ってみたら、サヤが襲われていた」
ふむむむ。
聞くかぎり、そこまでのどのタイミングで追いついていても良かったようだ。
むしろぎりぎりまで遅くなった感じ。
その辺りが微ラッキーアイテムならではなのかもしれない。
とにかく竜人族というのが規格外れの人外生物だということはわかった。
旅の仲間としては、なかなかに心強いだろう。
―――と思っていたことが私にもありました。
只今絶賛早めの昼食中です。
ファルタが早く食べたいと主張したからです。あんなにパンを食べていたのに。
朝食と違って、港町らしい魚介豊富な料理が並んでいる。
ムール貝っぽい形の、ただし殻の色が真っ青という貝の酒蒸し。
コノンノでも食べたアクアパッツァ。ここのはトマトに近い酸味のある実が入っていて特徴がある。
タコだかイカだか分からない凄い紫色の切り身と何かの芋を炒めたもの。
見た目パエーリャだけど米じゃない雑穀が使われた鍋に山盛りの料理。
巨大な白身魚の丸焼き。こんがりと焼けて、塩の振られた皮がぱりぱり。添えられたレモンに似た果実を搾って食べる。魚の顔は怖いが、身は美味い。
バターの入ってないパイ―――むしろチーズの載ってないピザと言った方が正しいのか。これも魚介たっぷり、ハーブが利いている。そしてLLサイズだ。
鯵のような小魚に粉を振って油で焼いたもの―――おそらく油が高価だから揚げ物はないのだろう。
ボトルではなく陶器のデキャンタに入った果実酒は2リットル以上ありそう。
その他に何度でもお代わりが出てくるパン。
どれも美味しい。
この世界に来てから、こんなちゃんとしたものを食べたのは片手で足りるほどしかない。
これほどいろいろな料理を一度に食べたのは初めてだ。
あるところには、料理らしい料理があったのだなあと感心もしている。
凄く美味しいのだ。
しかしこの量は何事か。
六人掛けのテーブルいっぱいに拡げられた料理。
テーブルの向こうに居るアモが料理に埋もれている。
そして、同じくテーブルの向こうに居るファルタが山盛りの皿を片っ端から空にしている。
見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。
どうやら人外のパワーは人外の食欲によって維持されているらしい。
納得な気もするが、麗しくはない。
せっかくの美形なのに……
昼食を終えて部屋へ戻った。
取りあえず今日一日はゆっくりするという予定である。
昨日がハードモード過ぎたからね。
そして、今後の予定についても話し合うことになった。
アモと二人の時は、ただアモについて行くだけだった。
特に目的も無かったしこの世界の地理も常識もまったくわからなかったから、他に選択肢が無かった。
けれど三人となるとそうもいかないだろう―――
「私はサヤについて行く」
きっぱりさっぱりファルタは言いきって、それきり口を噤んだ。
黙っていれば無口なクールキャラだけど!
それでいいのか。
何も考えていないとしか思えないところが残念すぎる。
「サヤさんは湾市に行きたいんですよね」
「あ……まあ、そうかな」
特に理由があるわけじゃない。強いて言えば飛空艇が気になるだけだ。
だって、飛空艇ですよ。
ナンバリングシリーズで有名なあの飛空艇。
元の世界では飛行船は浮かぶ広告だったし飛行機は座席の狭い乗り物だった。
飛空艇はロマンだ。
理由はなんでもいいか。
他に行きたいところが在るわけでもなし、とりあえずの目的地だ。
とはいえ―――
「じゃあそうしましょうー」
「了解した」
え、もう終わり?
あまりにもざっくりじゃない?
経路とか交通手段とか今後の経理とか、相談しなくていいのかな。
はっきり言ってファルタの食費を捻出できる算段が無いんだけど。その辺は自己負担?
ファルタが魔物を狩って換金できれば問題ないのかもしれないのかな―――まさに魔物狩人だね。
そんなふうに考えたら、ちょっとわくわくする。
今までのいささかしみったれた旅に比べたら、断然冒険感がある。
自分が闘うわけではないけれど、闘う力を手に入れるってこういうことか。
はたしてこの先は、RPGなのかアクションなのか、はたまたアドベンチャーなのか。
新しい展開が来るのだろうという予想に気分が浮き立つ。
思いついてコノンノで貰った地図を開いてみる。
一度は海賊に取り上げられたけれど、バッグごと纏めて置かれていたので無事手元に戻ったのだ。
「現在地はー、この辺?」
「ここですねー。町の名前はノミカノ。大河ゼルーの支流の一つ、ノミラクの河口です」
「なるほど。湾市ははるーか東だとして、これからどちらへ向かうの?」
「そですねー、この山脈があるので、真っ直ぐ東へは行けないです」
「それで海から迂回する予定だったわけか」
「ですー」
「もう海はやだ」
「んー、なら河を遡って回り込むしかないですねー」
「また舟?」
「歩いても行けますけどー」
どちらが良いだろう。
河を遡る舟なら、歩きとさして時間は変わらないだろう。下手すると人力で曳く可能性もある。
「歩き!」
私は断言する。のろい舟に乗るより歩いた方がましだ。




