03 怒濤の展開はまだ続く
「ヘェー、本気で仙女様とやらを担ぎ出したんだ。さすがやることハンパ無ェな」
「あの盟約の塔を登ったというのか。ただの伝説かと思っていたが」
木の上から、二人の人物が姿を現した。
長いマントみたいなものを着込んだ男達だ。一人は染めたような赤い髪で、もう一人は黒髪長髪。二昔前のV系バンドか。
赤い髪の方はチャラけた口調で、黒髪の方には呆れたような響きがある。何か―――たぶん刃物―――をいきなり投げつけてきたのはこいつらだろう。
「盟約は成された。手出しは無用だ」
私を後ろに庇いながら剣を構える美形は、やや緊張しているように見える。岩山を飛び降りてきたときも平然としていたのに。それだけ油断できない相手なのだろう。
「はいそうですか、っとはいかないんだなっ」
チャラけた方が言うなり、手に持った棒のようなものを振りかざすと、火の玉が飛んできた。
わお、これ魔法ってヤツ?
美形に抱えられて飛び退きつつ、私はちょっと感動した。やっぱり異世界といったら魔法だよね。
なんて余裕もつかの間、次の瞬間には容赦なく地べたに放り出されてしたたか背中を打ち付けていた。
またも荷物扱いかっ!
怒鳴ってやりたかったけど息が詰まって声が出ない。
その間に周囲は、魔法が飛び交い剣戟が響くバトルステージと化している。
美形剣士は強い。たぶん。二人組もかなり強いっぽい。
どのくらい強いかというと、動きが目で追えないくらい強い。ゲームのトレーラーかっていうくらい速い。
三人が木の間を飛び回りながら入り乱れて闘う様子は、画面の向こうだったら楽しめたろうけど実際はとばっちりで火の粉が飛んできたり木が倒れてきたりして、とても見物するどころじゃなかった。
それでもどうやら美形剣士のほうが強いらしく、マントの男達は二人がかりなのに押されている。金属質の音が響いて、赤い髪の男の手から棒がはじき飛ばされた。
棒、じゃなくて杖とかなんだろうか。
「命が惜しくば、引き下がれ」
言いざま美形が横薙ぎに剣を払うと、森の木が数本切り倒され、男達は数メートルも飛び下がった。どう見ても刃が届いてる範囲よりずっと向こうまで切れてる気がする。
マントの男達は劣勢だ。マントはぼろぼろだし、一人は武器を失ってる。勝敗は決したかな、と思った時、今度は空から何か大質量のものが墜ちてきた。
それが地面に達すると、クレーターでもできそうな勢いで土煙が上がる。
「久しいな、ファルタ」
墜ちてきたものは口を利いた。土煙の真ん中に立っていたのは、鋼色の長い髪を無造作に背に流したデカい男だった。
そしてデカいにもかかわらず、そいつもまた美形だった。肌露出やや多めの騎士装備みたいな格好をしている。二人組は地味だったけど、こっちはまさに正当派RPGから抜け出してきたようだ。
「貴様が来たか、セイカ」
美形剣士はあまり面白くなさそうな声を出した。
どうやら皆知り合いらしい。
「用があるのはおまえではなくそっちの女だがな。そもそもおまえは誰の命で動いている、ファルタ」
そう言いながら騎士装備の男は私の方をじろりと見た。
私は用はありませんっ、あなたたちの誰一人知らないしっ。
勝手に役割振るの止めてもらえませんか。
「貴様には知る必要の無いことだ」
美形の答えはそっけなかった。そして言うと同時に地を蹴って男に斬りかかった。
再び始まった戦闘は、なんかもう怪獣大決戦だった。
もの凄い音と光と衝撃波が飛び交って、森の木々が片端からなぎ倒され木っ端微塵になった。地面が抉れて吹き飛び、大量の土砂が降りそそぐ。
私はと言えば、ひたすら地面に這いつくばって飛んで来るもろもろを避けることだけ考えてた。そうしていても無事でいられる自信が無い。
少しでも戦闘現場から遠ざかろうと、移動を図る。
現場って変かな。でもほかに適当な言葉が思いつかない。
その涙ぐましい努力が実ったわけでは決して無いだろうが、しばらくすると破壊音が次第に遠ざかっていく事に気づいた。おそらく『戦闘現場』の方が移動したのだ。
顔を上げれば、そこには大小の岩がごろごろし、数本の木が黒焦げになって残されている更地が拡がっていた。環境破壊もいいとこだ。
抉れた地面の窪地に潜んでいた私は、さしあたって身の危険は回避されたかと上半身を起こした。しかし周囲を見回す間も無く、すっかり存在を忘れていたマントの二人組が目の前に降り立った。
危険は全然去っていなかった。
「アイツらどこまで行ったかネェ」
赤い髪の方が手を額にかざして遠くを見やる。
「ヤツらのことは放っておけ。我々は任務を遂行するだけだ」
「へいへーい、ってわけで一緒にきてもらいましょっか」
赤い髪の男が手を伸ばしてくる。
少なくとも今すぐ殺そうとか殴り倒して掠っていこうとかではないらしい。そこそこ紳士的なのか。少しだけ安心する。
それでも黙ってついていくべきかは迷う。私をあの部屋から連れ出した美形が味方だという確信はなかったが、この二人が悪党ではないという証拠も無い。
なにもかも分からないことだらけでどう決断しろというのか。それでも今、この男達に従ってついて行く以外の選択肢はほぼ無いに等しい。
自分で戦うなんてありえない。
残念ながら、異世界に来ても私の戦闘能力が上がった気はこれっぱかしもしなかった。そもそもゲームだって戦闘するものは得意じゃないのだ。なにが得意かっていうと……お絵かきパズルとか?
役に立たなすぎて笑えてくる。
迷いながらゆっくりと立ち上がったとき、突然頭上に閃光が走り爆音が轟いた。その轟音が消えるまもなく次々と光と音が落ちてきた。
焦げくさい臭いとオゾンの臭い。電荷を帯びた大気がぴりぴりする。
雷だ。
反射的に身を伏せる。
こんな更地じゃあまり意味が無いかもしれないが。次に落ちるのは私じゃなくあの二人組の方にしてください。
しかし次に落ちてきたのは、稲妻ではなく土砂降りの雨だった。
まさに天の底が抜けたような雨で、一瞬にしてなにも見えなくなった。雨粒と言うより水流と言った方がいいような水滴が身体に当たって痛い。
これはもう雨じゃなく滝だ。
そんな水流が環境破壊跡地に流れ込んだらどうなるか。
そう、地面はたちまち泥流となって足元を攫い、私を巻き込み下方へ向かって雪崩れ落ちていったのだった。
もはや意味が分からない天変地異の大盤振る舞いだ。




