02 怒濤の展開に付いていけない2
起きたら洗濯しなきゃ、と目をつぶった瞬間、がっと身体に圧迫感が加わった。
びっくりして目を開けると、傍らにさっきの美形。どうやら抱えられたらしいと気づく。そして周り中に大小の岩があるのもついでに目に入った。
これはあるんじゃなくて、私たちと同時に落ちてるってことだ。
なんて思うまもなく大きめの岩の一つに着地した。もちろん、私じゃなく私を抱えた人が。続けてもう一つ向こうの岩に飛び移る。
凄いわ。
ゲーム画面だわ。
物理法則どうなってんの。
この岩だか石だかは、さっきまで居た場所から崩れ落ちてるのだろう。そして、たぶんこの人はそこから離れる方向に移動してる。そりゃ真っ直ぐ下に落ちたら、間違いなくこの落下物に潰される。
まさに正しい判断だと思うけど、ゲームとかアニメとかではよくある絵面ではあるけど―――自分がその場にいるとなったらリアリティがなさすぎる。
でもさすがにもう夢だとは思えなくなっていた。
五感の全てが、これは現実だと訴えている。
突然天地が反転してもの凄い勢いで振り回されたと思ったら、抱えられた胴回りに口から内臓出そうな衝撃が来て身体中がきしんだ。
着地したのか。
そうだよね、抱えられてたってGはかかるよね。
無理。吐きそう。
けど吐く間もなく、今度は抱えられたまま木々の間を移動し始める。
背後では石が崩れ落ちる轟音が響き続けていて、石の欠片とか欠片とは言いかねるような大きな破片とかがばんばん飛んできた。
危ない。
当たらないのが不思議なくらいだが、こちらもとても地上を走っているとは思えない速度だ。
この人、どれだけ体力あるの。
怪力だし、運動神経ゲームキャラ並みだし。
見た感じ私とそんなに体格変わらないようだったのに。いや、背はずっと高かったけれど確実に私より細かったし、すごい美形だったのに。
美形は関係ないか。
荷物みたいに扱われているウチに思考が荷物並みになってきた。
気づけば響いていた轟音がほとんど無くなっている。石が崩れている場所からだいぶ離れたのか、崩落が止んだのか。
やっと立ち止まると、今までの荷物扱いから比べたら幾分丁寧に下ろされた。
降りたら吐く、と思ってたけど、移動してる間に吐き気は治まっていた。ただ振り回されすぎて頭がくらくらしていただけだ。
ちゃんと立たせて貰ったのだが、その場にへたり込んでしまう。
地面に手をついてぜいぜいしている私の肩を掴んで、紺青の瞳が覗き込んできた。
近い近い。
「返答を聞こう、峨山の仙女よ」
いやそこは嘘でも『大丈夫か』くらい言うとこでしょ。
ナニその切り口上。
しかもこの美形は、私を抱えてあんなに走ったのに涼しい顔だ。アンドロイドか。
私の方は抱えられてただけなのに、へろへろで声も出ない。たとえ出たところで、なんと言っていいかさっぱりだ。わけ分からないことを要求するのはやめてほしい。
目がマジで怖いよ。
とりあえず、『ちょっと何の話かわからないんですけど』と言おうとしたのに、口を開いたら何故か全然違う言葉が出てきた。
「古の盟約によりて、汝が要請に応えよう。望みを述べよ」
はいーーーっ???
何言ってんの、自分!!
「皇国の皇子アカネ・カミクラの行方を知りたい」
自分の発言にパニックの私を置き去りにして、美形は淡々と要求を突きつけてきた。
無理ゲーでしょ、知らない場所で人捜しとか。
ていうかコウコクってどこ。王子がいるような世界なの、ここ。いや、王子が居る国は普通にあるけど。
でも、このRPGな美形の格好とか、さっきまで居た石造りの部屋とかから思うに、ここは絶対日本じゃないうえに地球上のどこかの国でもない。
だってこの国籍不明の美形が喋ってるのは日本語で、髪は藍色だ。
なんとか少しでも状況を把握しようと、立ち上がって辺りを見回した。危機的状況がフェーズ2に移行したらしいからだ。
周囲は森。たぶん山。結構な斜面だ。
来た方を振り返れば、木々の間から岩山なのか塔と言うべきなのか、人工物か自然物かよく分からない巨大な石柱の集合体のようなものが天を突いて聳え立っていた。
あそこから落ちてきたのか。
あんなに激しく崩れ落ちていたけれど、ここから眺めても崩れた様子はかけらもない。全体が巨大すぎるのだ。
テレビの中でも見たことのないスケール感だった。
そして私はようやく、『これって、よくある異世界ものとかそういうの?』という認識に至ったのだった。
よくあることなのかどうかは不明だ。
少なくともリアルの私はリアルの友人からそんな経験は聞いたことがない。
よくあるのは、Web小説とかラノベとかアニメとかそういう世界での話だ。
ええと、異世界転生ものの定番ってどんなだったっけ。
暇つぶしに読んでいたWeb小説のテンプレが頭に浮かぶ。
そうそう、アレだ。
ステータス・オープン!
………
むう、なにも起きない。
首をかしげてみたり、腕を振り回してみたりしたけれど、何の反応もなかった。目の前の美形が不審そうな目つきになっただけだ。
どうやらステータスが出るようなゲーム仕様ではないらしい。
ありがちな異世界転生。……転生なのかな。赤ん坊にはなっていないから、転生とはいえないのか?
では箪笥の向こうにある国系のやつだろうか。
少なくとも自分の記憶は一貫していて、異世界に生まれて育ったとは思えない。
さっきは変なこと口走ってたけど……
そこでまたあらたに気づいた。
記憶はともかく、身体はどうなんだ。変わらず自分の身体なのか。あまりにも状況がハイテンション過ぎて今の今までそのことに思い至らなかったのだ。
顔は見えないので、とりあえず手を見る。
違う……違うよね、コレ。
私の手でも腕でもない。
記憶にある自分の手よりずっと華奢で色も白い。
服も違う。
寝間着にしてた量産品のスウェット上下じゃなく、白くて薄い布地のひらひらした服だ。しかも足は裸足。
そして長い金色の髪。くるくると綺麗なウェーブを描いて肩からこぼれ落ち、膝下まで届いてる。
どう考えたって、一般日本人の容姿とは思えない。コスプレか。
あまりの情報量の多さに思考停止を起こした私を胡乱な目で見ていた人外の美形が、突然動いた。目にもとまらぬ速さで背に負った剣を抜刀すると真っ直ぐに切り上げたのだ。
キンッと硬い音がひびいて傍らの木に何かが突き刺さる、と思うまもなく肩を掴まれて背後に庇われた。飛んできた何かを切り払ったのだと気づく。




