01 怒濤の展開についていけない
初投稿となります。
よろしくお願いします。
アラームが鳴ってる。
昨日ダウンロードしたばかりの、推しバンドの新曲だ。
少しでも楽しく目覚めたいという、わりと無駄かもだけど、しないよりはマシかなというレベルの努力。腕を伸ばしてスマホを探る。
目は閉じたままでも、なんとなく薄暗いのはわかる。
今日も天気が悪いのか。憂鬱。洗濯物が乾かない。
そうやって探っていても一向にスマホが探し当てられなくて、仕方なく目を開けつつ身体を起こし―――
―――ここどこ
全然知らない場所だった。
全体が灰色っぽい。そして薄暗い。目をしばたたいてみれば、壁も床も石造りなんじゃないかと思う質感だ。そして、自分が寝ていたベッドさえもひんやりした石だった。
昨夜寝たときは確かにちゃんと布団だったはず。いやいや、石でできたベッドとかないでしょ。
ヨーロッパのゴシック教会で棺桶の上に寝てたっていうのがイメージ近いかも。
教会の中に棺桶置くのってどうなのよ。人骨でシャンデリア作るとか、キリスト教徒の考えてる事って分からん―――なんて事は今はどうでもよくて。
問題はここがどこなのか、だ。
夢かな。
首をかしげてみる。
夢にしてはリアルに過ぎるし、目が覚める気配はない。
こ――ん、とどこかで固いものの落ちる音が響いた。
何、と見上げれば天井は遙か遠く、遠近法に従って消失点に向け収束している。ところどころにある窓が明かり取りになっているようだけれど、果ては暗くて見えない。
すっごく高い建物らしい、ということは分かった。
天然の造形ではない。
壁には彫刻っぽいものが施され床は磨かれた石で、今座っている寝台をはじめとして家具らしきものも置かれている。それも全部石だ。引き出しとか開くのかどうかは謎。
再び、かつーんと音が響く。小さな音ではあるがなんだか不穏な気配がする。
ざわつく気分で辺りをぐるっと見回せば、壁の彫刻はガーゴイルみたいな妖怪のようなものと植物の意匠で、一切彩色はない。結構不気味な代物なので、色があったら気持ち悪いかもしれない。
それ程広くはない。が、昨日寝たはずの六畳間よりはだいぶ広い。教室くらいか。
壁の一角は窓だ。
窓と言っても窓枠もガラスもなくてただの壁に空いた穴だ。2メートル四方くらいはありそうな大きさで、灰色の空と遠くの山らしきものが霞んで見えている。雨が降ったら吹き込み放題だろう。
窓の反対側にドアがあった。
これだけはたぶん木製なんじゃないかな、と思ったところで、もの凄い音と共にドアが開いた。いや、開いたなんてなまやさしいものではなく、ぶち破られたという方が正しい。
とにかくドアは吹き飛び、それと一緒になにか巨大でぐちゃぐちゃした極彩色のものがこちらに向かって飛び込んできた。
なんて言うとすごく冷静に観察してるみたいだけど、実際のところは吃驚仰天して固まって声もでなかった。
飛び込んできたものから盛大に汁が飛び散って顔にかかって気持ち悪いとか、ドアの破片が壁に当たって跳ね返って部屋中に散らばって危ないとか、いろいろごっちゃになって混乱する。
逃げるとか避ける、なんてとっさにできるはずもない。部屋に飛び込んできたものはまだ動いていたので、逃げた方がいいんじゃないかとは思ったけれど、身体は動かなかった。
現実離れしすぎてるし、夢だろうかという漠然とした思いがまだあって危機感もいまいち薄かったのだ。
けど、もしかして夢じゃないのかも。
ようやくそう思った。
なぜかというと、その得体の知れないものから飛び散った汁がかかった頬も、それを拭いた手も、なんだかひりひり痛み出したからだ。
夢じゃなかったら、コレって結構危ない状況なんじゃない?
慌てて石の寝台の上に立ち上がった途端、うごうごと動いていたぐちゃぐちゃが真っ二つに割れた。
たぶん、ひえーっとか叫んでた気がする。咄嗟に後ろに下がろうとしたけど、壁にぶつかっただけだった。
そして、どろどろと溶けていく気持ち悪いものの向こうにいた人と、目が合った。
やっぱり夢なんじゃないの、これ。
そこにいた人は、普通に人間だった。少なくともそう見えた。
そして、こんな状況にもかかわらず、ぽかんとするくらい美形だった。
すらりとした体型、黒にも藍にも見える髪は背で括られているらしい。白皙の肌に瞳は磨いたラピスラズリを思わせる紺青。CGかと思うような完璧に左右対称の顔は、驚くほど無表情だ。
これまたRPGから抜け出してきたかのごとき服装に、バカみたいに長い剣を片手に下げて。その剣で今あの化け物をぶった切ったのだろうと思われるのに、息も切らさず汗もかかず真っ直ぐこっちを見ていた。
と、その人は持っていた剣をいきなりだんっと床に突き立てた。
ぼけっとその人の顔に見とれていた私は、またびっくりして飛び上がり後ろの壁に背中をぶつけた。
そんな私の方をじっと見つめたまま、その人は口を開いた。
「ガザンのセンニョよ、イニシエのメイヤクによりて我が要請に応えよ」
は?
え?
火山の選挙って、ナニ?
ていうか、誰に話してんのこの人!?
思わず左右を見まわしたけど、当然ほかに人なんかいない。さっきからいなかったし。
これってやっぱり私に話してるってことか。
でもって、『選挙』は何かわからないけど、『要請に応えよ』は、なんかやれってことだよね、いきなり見ず知らずの美形から頼まれごと? と混乱しきった私が何も言えずにいると、その人はつかつかとこちらへ歩いてきた。
わあ、近くで見るといっそう美形だーなんて心が逃避したところで、目の前にレンガくらいの石が落ちてきた。
危なっ
思わず一歩退いて上を見上げると、遙か上方から何かがいくつも落ちてくる。いや、何かじゃない。どうみてもこれは壁か天井か知らないけど、そこら辺が崩れてきてる。
マズいヤバい、ジョシコーセーみたいなレベルの語彙力で思考が空転する。
「窓から出ろっ」
かけられた声でやっと身体が動いた。窓まではホンの三歩ほど。
アドレナリン大放出か、自分でも驚くほどの速さで駆け抜けて、窓枠に手をついて外に飛び出した。
―――って、ええーっっ
世界がスローモーションになった。
飛び出した窓の外は、空中だった。
着地するはずの地面がどこにも無かった。
遙か下に森の木々がジオラマっぽく見えるくらいの、高空だった。
落ちるわー
やっぱり夢でしょ、コレ。
落ちる夢ってよく見るよね。妙にリアルな落下感があって。
うん。
だいたいそろそろ目が覚める。




