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終末の月 ~異世界転生したら仙女でした…仙女ってナニ?~  作者: 天鳥たくみ


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29 交易都市コノンノ

「この地図……もっと小さいのでいいので、もしできたら頂けませんか」

「ああ、地図ですか。はいはい、新米のアモに渡すのがありますよ」

 そう言ってメガネくんがくれたのは、A4サイズほどのほんとに簡単なものだった。

 それでも何も無いのとは雲泥の差だ。



 それから仕事の話をするアモとメガネくんの横で芸術的な地図を眺めて時間を潰した。

 簡略化された地図は貰ったけれど、できるだけこの詳細な地図を頭に入れておきたかった。

 アモの仕事は謎すぎるし、うすら怖いので深く関わりたくはなかったから、二人の会話は聞こえないふりをしておく。



 世界の北側には越えることのできない山脈が横たわっている。

 南は海だ。大小の島々はあるが、その最果てはどうなっているのか誰も知らない。地図では巨大な魚の背びれが波の間に見え隠れしている。

 そういえばいつかアモが、地の底に棲む鯰の話をしていたな。鯰は海水魚じゃなかったと思うけど。


 西の果ては峨山。

 私が歩いてきた辺りはもやもやっとぼかしてある。おそらくほとんど人跡未踏の地なのだろう。

 獣も虫もいない聖域らしいし。

 世界のあちこちに散在しているダンジョンとは一線を画すものだという。


 百階登り切ったら願いを叶える。昇れなければ生きて出ることはかなわない。そういう言い伝えだそうだ。

 私が決めたわけじゃないからほんとかどうかはよく分からない。


 ただ、あの美形剣士に『要請に応えよ』と言われた時、勝手に『応えよう』とか言っちゃってたから、なんらかの強制力がある仕組みなのだろうと思う。


 美形剣士どうしてるのかなあ。

 アモはそのうち出会えるって言うけれど、この世界も相当広いし別れた地点からこれだけ遠くなってしまうと、会える可能性の方が低そうな気がする。


 あの人怪獣並みに強かったから、一緒だったら怖いものなしなのに。

 魔獣を狩ったりダンジョンで稼いだりもし放題!

 そして美味しいもの食べて良い宿に泊まるのだ……ちょっと現実逃避してしまった。


 イワタケの臨時収入は大きかったけれど、いつまでもあるわけじゃない。

 この先また雑草のスープと黴臭いパン、地べたに寝る生活に逆戻りなのだろうと思うとせつない。



 私が行ってみたいと思った湾市は、ここコノンノから遙かに遠い東の果てにある。

 ワンシのワンは海の湾だと教えてもらった。東の砂漠が海だった頃は湾の中にあったのだそうだ。


 湾市を中心としてその辺り一帯が央国―――今は皇国と呼ばれているらしい―――だが、ほとんどが砂漠でぽつぽつと島のような土地があるだけだ。

 これも海が砂漠になる前はもっと広い国土があったのだという。砂の下にはかつての都市が埋もれているそうだ。


 それでも湾市が超巨大都市でここら辺の一国より遙かに多い人口を抱えているそうだから、皇国は大国だ。

 飛空艇を持っているくらいで軍事力も経済力も高いらしい。

 その王子が行方不明だとすると、結構大事件なのかもしれない。


 私が湾市に行きたいと思ったのも、もしかしたら『盟約』とやらの強制力が働いていたのだろうか。

 知る術(すべ)はないし、他に目的も無い。

 アモも賛成してくれるのだから、当面湾市を目指して大陸横断の旅に出るのも悪くないだろう。


 地図の右端には、尖塔のようなものがたくさんある都市が一つ描き込まれていた。

 そこで世界は終わりだ。

 その東はどうなっているのか、おそらく誰も知らないからだ。

 いつか、もし機会があったら行ってみたい。

 世界の西の果てから東の果てまで旅するなんて浪漫だ。




「お腹空いたーっ」

「はいはい、なにか食べましょー」

 領主館を出て海側の港の方へ下りる。

 元世界の市庁舎と違って、領主館に食堂は無かった。


 食堂は無かったけれど、塔の途中にある見晴し台には登れて、そこから見る景色は絶景だった。


 海は青く、雲は白く、水平線は直線だ。

 確かにこの世界は平面なのだ。

 遠くには島影が見え、カモメのような鳥がたくさん飛んでいる。

 左手には大河ゼルー側の港があり、帆を畳んだ小舟が停泊している。

 右手は海側の港で、港を囲んで街が拡がっていた。



 そして今現在、街へ向かって坂を下りている。

 河側に比べるとだいぶ緩やかな坂だ。道も広い。

 馬車道は別にあるらしく、ほぼ人しか歩いていない。馬糞がなくて快適だ。

 石造りの家は鮮やかな色の瓦屋根を葺き、窓の下に花を飾っている。生活レベルは高そうだ。

 ご飯も期待できそう。



 というわけで、レストランです。

 坂の中腹、海と港を見下ろす眺めの良いテラス席で遅めの昼ご飯です。


 メニューはもちろんアクアパッツァ。

 汁気が多いからブイヤベースの方が近いかもしれないけれど、サフランは入ってなくてスープが透明だからアクアパッツァかなと。

 エビっぽいの、イカっぽいの、何かの貝、魚。とにかくいろいろ魚介の煮込み料理スープ多めだ。

 カンパーニュみたいなパンと、ほとんど甘くない何かのジュースと一緒に食べる。

 味付けはたぶん塩だけだけど、新鮮な魚介からたっぷり出汁が出て、ハーブの香りもする。

 なんというゼイタク。


 こんな異世界に来て和食が恋しくなるかと思ったけれど、基本粗食過ぎてそれどころじゃなく美味しいものが食べられただけで涙が出そうだ。

 タンパク質大事。出汁大事。ゼイタク万歳。



 食事の後坂道を港まで下りた。

 河側に比べると断然大きな船がたくさん停泊している。

 川船は一本マストに一枚帆の小型船だったけれど、こちらはマストの数も帆の数も多い。

 遊園地の海賊船でしか見たことのないような船だ。

 やはり動力を使った船は見当たらない。

 船の間をカモメに似た鳥が飛び回っている。


 アモは桟橋近くで船の絵が描かれた看板の建物に入った。

 中は結構な人でごった返している。

 奥にあるカウンターに従業員らしきお姉さんが何人も居て、その前に列ができている。

 アモが列に並んだので私も一緒に並ぶ。

 周りの会話を聞くに、どうやらここは乗船券の売り場らしい。


「東へ行く船はありますかー」

「東方面だと、ルバに行く船が明日出ます」

「じゃあそれお願いしますー。二人分で」


 なんてやりとりがあって、どうやらまた船に乗る計画らしい。今度は海の旅かな。

 歩くよりは楽だけど、また食事が最低ランクになりそうだ。

 どう考えたって『いつでもビュッフェの豪華客船』なんかあり得ない。



 再びの船旅です。

 陸にいたのは正味一日でした。

 食べ物をがっつり買い込んで、いわゆる海賊船にしか見えない木造船に乗り込んだ。

 水は船内で買えるらしい。


 船室などというものは無く倉庫のような雑魚寝スペースがあるだけだ。

 もちろんベッドも寝具も無い。しかも積み荷と同居。

 さほどの量ではないけれどこれが崩れてきたら間違いなく下敷きだ。

 とてもじゃないけど長居できるような場所ではない。悪臭もするし、ネズミや虫が走り回る。ぎいぎい軋む船の騒音が凄くて話も聞こえない。


 晴天で波も穏やかなのに立っていられないくらい揺れる。

 私の乗ったことがあるカーフェリーなんかとは根本的に違う乗り物だった。


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