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終末の月 ~異世界転生したら仙女でした…仙女ってナニ?~  作者: 天鳥たくみ


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17 世界情勢はいつも不安

「まあそんなわけでー、新王国はお金も人も集めてますから、物騒です」

「人? 兵士とか?」

「たいていは奴隷ですねー」


 奴隷制ありなのか。

 確かに中世ヨーロッパにもあった。日本でも、安寿と厨子王は奴隷の話だったはずだ。アメリカなんか近代まで奴隷制が存続していた。


「関わり合いになりたくないね」

「はい、そうしましょうー」

 アモは大きく頷いた。


 夕方には、小さな村に辿り着いた。

 家は数軒しかなかったけれど、周りは石垣と柵で囲まれていた。

 村には当然宿なんか無かったのでアモは村人と交渉して納屋みたいな場所を借りた。

 湿気っぽくて嫌な臭いもするような小屋だったからいっそ野宿の方がいいんじゃないかと言ったら、この辺は魔物が出ることがあるからやめた方がいいらしい。


「魔物は夜によく出る?」

「そういうわけでもないですけどー。夜襲われるのは嫌です」

「そうだね」

「このくらい小さな村なら、奴隷狩りが来ることもまずないですしー、安心です」

 魔物と人が同列の危険だ。


 小屋の中で煮炊きはできないので、ぱさぱさのパンと水だけの夕食を摂ってすぐに寝た。

 井戸は貸してもらえたので、水の補給はできた。

 翌朝幾ばくかの小銭を小屋の主に渡して村を出る。

 納屋に泊まるのにもお金が必要なら、無駄遣いできなくて当然だ。


 そんな日をしばらく繰り返した。

 いったい何処へ向かっているのかさっぱり分からなかったけれど、どうせ地理も分からなければ目的地も無いので、アモに任せて歩いていた。

 たまに食べられる野草があると教えて貰い、摘み取って集めた。

 その日の宿代になることもあったし、自分たちでも食べた。乾燥させておけば日保ちするというので、値が付きそうなものは少しずつポーチに吊して歩きながら干した。

 ほとんど人とすれ違うことはなかった。



 さて。

 分かれ道である。

 といっても標識があるわけでもなし、やや左へ進む広めの道と、右手へ行くあまり使われていなさそうな草の茂った道があるだけだ。

 そういえば、この世界に来てから交差点というものを見たことがない。

 なるほどなあ。


 昔の人は「辻」を特別視していて、異界へ繋がる場所だと考えていたと何かで知ったときは、そんなどこにでもあるものが何故特別なんだろうと不思議に思ったけれど、こういうことか。

 この世界で目覚めてもう何日過ぎたか数えてないけど、その間一度も交差点を見てないのだ。

 これなら辻が特別な場所だというのも肯ける。


 で、分かれ道だ。

 当然広い道へ行くのかと思いきや、アモは草をかき分けて右手に進み出した。

 そっち!?


「ちょっと様子見ますー」

 んん? そっちに行くわけではないのだろうか。

 アモに続いて進むと、やや小高くなった辺りに小さな林が現れた。

 何故かアモは木の陰に隠れるようにして身を潜めた。

「なに?」

 同じように身を隠しながら訊ねる。

「気のせいならいいんですけどー」

 広い方の道の先を見つめている。

 気のせいじゃない、何か来る音がする。



 やがてがらがらどかどかと大きな音を立てて、人と馬車がやってきた。

 人は明らかに兵士で、槍らしき物を持っている。

 ものすごく脚の太い馬が引いているのは荷車だろうか。窓の無い粗末な箱のような車体だ。2トントラックくらいの大きさがある。

 その馬車が2台ゆっくり進んでいく。人が歩く速度と同じだから相当ゆっくりだ。それでもそもそも馬車が通るような道ではないので、かなり無理矢理感があった。


 やがてその集団が遠ざかり、道の彼方に消えてしまうとアモはゆっくり立ち上がった。

 難しい顔をして馬車の去った方を見つめている。


「あれ、新王国の兵士だったよね」

 トムントの広場で揉めていた連中と似たような装備だった。

「あれは奴隷狩りです」

 やっぱりそうか。見るからに剣呑な雰囲気だった。


「行きましょう」

 アモは滅多に見ない真剣な表情のまま、狭い道の先へ歩き出した。

「向こうの道に行けたら良かったんですが」

 いつもののんびりした口調も消えている。

「こっちは見るからに寂れてるよね」

「向こうだと二日ほど行ったところにルンベルの街があります。そこにはアモの寄り合い所があるので」

「でもさっきの見たら危なそうだよ」

「はい。あの規模の奴隷狩りが動いているとしたら、ルンベルにも被害が出てそうです」


 やっかいだな、新王国。

「それでこっちの道は?」

「街は無いです。魔物も出るかも……」

 こっちも危険過ぎる気がする。

「ただ、上手く抜けられれば河に出られます」

「川?」

「大河ゼルーの支流です。運が良ければ舟が捉まえられるかもしれません。南に下れば新王国の勢力は弱くなります」

「賭けてみるしかないか……」

 魔物に遭いませんように―――と祈っておこう。名ばかりでも仙女の祈りなんだから、多少の効力はあると信じたい。


 それにしても。

「アモはどうしてさっきの連中が来るのわかったの?」

「奴隷狩りが増えてるって話があったのでー、警戒してました」

 どこで聞いたんだろう。昨日の村かな。

 アモの口調が平常に戻ってきた。分かれ道からはだいぶ離れたし、こんな山道に馬車が入れるとも思えない。

 あっちの危険からはとりあえず逃れた感じかな。


 道は、山というか丘というか、そんなに高くはないけどそこそこの坂道になっていて、木の生え方も若干鬱蒼としてきた。

 今まで通ってきた平原とは少し違う地形の土地らしい。

 魔物が出るというから、素手では頼りない気がしてその辺の棒っきれを拾って振り回してみた。

 役には立たなそうだけど、気分の問題だ。


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