13 アモの仕事3
引き続き微ホラー注意です
「おはかいくときは、花つむんだよ」
霊魂やあの世が存在しなくても墓に花は供えるらしい。
道端に咲く野の花を子供と一緒に摘みながら牧草地っぽい所をしばらく行くと、小さな石が並んだ場所に着いた。
「ここがーおじーちゃんのおはか。こっちがおねーちゃん、これがおにーちゃん」
おじいちゃんはともかく、さらっと言われたお姉ちゃんお兄ちゃんにはちょっとびびった。
そうだよね。こんな文明レベルの低い環境じゃ、当然乳幼児死亡率は高いだろう。
「お花はこうしてねー、おくの」
クルーラは小さな墓に花を供える。微笑ましいと同時に、もの悲しい光景だった。
「妹や弟のお墓はあるかなー?」
なにげに容赦ないな、アモ。突っ込んで訊くようなことかそれ。
「ないよー。おとうとはいないし、いもうとはかえってきたから」
クルーラは特に気にした様子も無く元気よく答えたけど、妙なことを聞いた気がする。
『いもうとは帰ってきた』―――どういう話?
ホラーな展開じゃないよね。ペット○メタリーとか気持ち悪すぎる。
「そうなんだー、それはよかったね」
アモさん、笑って応対する所なんですか、そこ。
「うん!」
子供も喜んでるし……
「どうもありがとクルーラ。じゃ戻ろうか」
「うん!」
アモが踵を返すと、子供は先に立って走って行った。
「この辺りでは、小さい子供はまだ人間ではなくて形の定まらないモノだと言いますねー」
ぽつり、とアモが言う。
それ識ってる。七歳までは神の内、とかそういうのだよね。
ちょっとした病気で子供は簡単に死ぬ。寒さ暑さ、食糧の不足、母親の乳が出ないだけでも死ぬ。
日本だって、産まれた子のほとんどが育つようになったのはつい最近の出来事だったのだ。歴史上で見れば。
「だからー、小さな子供が死んだ時は弔いをせず、墓も作らず、産まれ直して戻ってくるようにと呪いをします」
霊魂が無くても呪いはやるのか。
まあ、現代日本もそれに近かったと言えなくもない。
魂の実在は信じていなくとも、おまじないくらいはやったりしていた。
むしろ魔物がいて魔法があるくらいだから、こちらの方がわりと現実的な話なのかもしれない。
そんな話をしているうちに広場まで戻って来た。
子供達は遊び場を移したのか居なくなっていて、犬を連れた人も居ない。
人気のなくなった広場の中央にある祠の前で、女性がお祈りしている。
それにしてもこの人、さっきからずっと居るような気がする。みんな同じような服装なのであまり見分けがつかないのだが。
「ちょっと伺いたいんですがー」
アモは熱心に祠を拝んでいる女性に声を掛けたが、女性から返事はなかった。しかしアモの方もそれに構わず続ける。
「しばらく前にこの村に来たという吟遊詩人のことを教えてもらえますか」
びくりと肩を揺らし振り返った人の顔色は酷く悪くて、ぼさぼさの長い髪と虚ろな目に相まってまるで幽霊みたいだった。
「その人の名前って分かりますかねー」
アモは平然と質問を続行してるけど、怖いよ、この人。
「名前……あのひとの」
「はいー。名前とか年齢とか背格好とかなんでもいいです」
なんでもいいってずいぶんいい加減な質問だなと思ったけど、アモの真意はどうやら別の所にあるようだった。
「あの人は、必ず戻ってくるって言ったのよ。そして三人で暮らそうって……」
アモのことも私のことも目に入っていない様子でそう言いながら、彼女はふらふらと広場の向こうへ行ってしまった。
あきらかに病んでる。
流れ者の男といい仲になって捨てられた女の、ありふれたストーリーが頭に浮かぶ。
端から見れば凡庸な出来事だとしても、本人にとっては人生の一大事だろう。こんな閉鎖的な村で暮らしていたら刺激を求める気持ちも分からなくはない。
私にはそもそもこんな暮らしは耐えられそうもない。
あらゆる娯楽に満ちた現代日本からみたら、この村は大秘境以外の何物でもない。
私がぼんやりとそんな事を考えている間に、アモは何らかの結論に達したらしい。
「それじゃ、長の家に戻りましょう」
昨日と同じメンツが集まっている―――のだと思う。なにしろ家の中が暗くて昨日は顔まで判別できなかったのだが、その辺はどうでもよさそうだ。
今はさすがに昼間なので、明かりが煙出しだけでもそこそこちゃんと見える。
「それで……なんとかなるのでしょうか」
あまり信用していないような口調で、村人の一人がアモに問いかけた。
「そうですねー。摂理の綻びを繕うことはしますが、皆さんにやって貰いたいこともあります」
「わしらにか」
すごく不本意そうな声で椅子に座った老人が応える。
「はいー。綻びを作った原因を取り除かなければ、いくら繕ってもまた同じ事が起きます」
「また起きる……」
老人の後ろに立った村人達は顔を見合わせている。アモに任せたつもりが、自分たちもなにごとかやれと言われて不安そうだ。
「この村では、赤子が亡くなった時どんな呪いをしていますかね」
「他の村と同じです」
一人が即答したけれど、答えになってない。
「弔いと呪いは地域によってさまざまですねー。呪いをしない所もあります」
「まさか、そんな」
ぎょっとしたような村人の反応に、世界が狭いってこういうことかと思う。自分の住む村の常識が世界の常識だと思うのだ。
「それで、どうしていますか」
容赦なく問いかけるアモはなかなかプロフェッショナルな感じに見える。
「赤子の身体は瓶に入れてその家の戸口に埋める。人が多くその上を通れば、早く戻ってこられるからだ」
「なるほど」
やっぱりここは縄文時代かな? と私は思うけど、アモは頷いている。
「では、呪いをしないままになっている死んだ赤子はいませんかねー。この半年くらいの間のことです」
口調は呑気だけど、言ってることは怖い。水子の祟りとかか。
村人はまた顔を見合わせ、渋々といった調子でようやく話し出した。
「七の家の娘が旅の男に孕まされた。赤子は死んで産まれたが、よそ者の子だ。村に置くことはできん。娘のオヤが村はずれの木の上に置いてきた」
うわあ……
本気で怖いわ。
排他的な村ではよそ者と関係するのは許されない事で、おそらくその娘は相当いじめられたのだろう。そのせいで流産もありえる。だからこそ村人達はこのことをなかなかアモに話そうとしなかったのだ。
「覗いているものはその赤子だというのか」
「違いますねー」
アモ、ぶれない。こんな気色悪い話を聞いても平然としてる。
「赤子は死んでいるから、摂理に干渉することはないです。原因は赤子に執着しているその娘でしょうねー」
おそらくさっきの女性。
「それと、それを隠している皆さん」
さらっと弾劾したね、アモ。
「わたしらがなにをしたと!」
「なにをしたかの問題じゃないです。やったことをどう感じているかということです」
「村の掟通りにしただけだ! それのどこが悪い」
「悪いとか良いとかどうでもいいです。拘りがあるからこそ、境界を窺うモノが現れたんです。村はずれに遺棄された子供は境界の象徴です」
きっぱり言うと、アモは立ち上がって上を見つめた。
つられて天井を見上げた私は、煙出しから覗いているモノと目が合った。
また悲鳴を上げそうになったのをぐっと堪えて、それを見返す。
目が合ったと思うのに、それははっきりした形もなくどこにも目など無い薄ぼんやりしたものだった。




