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7.月に隠れて泣く君が 12.31.2024






「やっほー」




そう言いながら、俺があえて鍵を開けておいた窓からチサクは体を滑らせて入ってくる。


それと同時に冷たい空気が部屋に入ってきて、暖房で暖まりすぎてしまった体には気持ちがいい。




「部屋、あったかぁー。」




着ていた防寒具を脱いで、適当に部屋の隅に置きながらチサクはニコニコと幸せそうに笑う。



『先輩、絶対クロミズさんに落ちますよ。』


ぼうっとニコニコ笑うチサクを見ていると、後輩の言葉を不意に思い出した。


きっともう、あの時点で俺は



もう、落ちてた。




「ん?あ、上着、下置くのあんま良くない?」



「え?あ、ハンガーいるか?」



「いや、私はいらないと思う。颯星くんが『もう、落ちてた。』って、こっち見ながら言ったから、確かに上着『もう落ちてる』も同然な置き方かもって。」




一応畳んだんだけどやっぱ分厚くってさ、と言っているチサクの声が頭をすり抜ける。




「どうかした?なんか変じゃない?熱ある?」



「いや、ないよ。」



「えー?じゃあ何が落ちてたの?受験?」




不吉なこと言うな。


まだそんな時期じゃないだろ。俺2年だし。


声に出ているとは思わなかった。


こんなのさすがに話せない。


チサクに落ちてるなって思ったんだよ、なんて無理すぎる。




「わかった、今から当てるね!」




当たらないと思うけどな。




「受験じゃないんだよね。じゃあー」




そう言ってから、何かに気付いたのか笑みを深めた。




「ちょっと待「……恋?」




手遅れだったか、、、。


バレてしまった恥ずかしさとか、相手がチサクだとバレていないかとかで、つい頭を抱えるとクスクスと笑い声がする。




「その反応は正解だね?落ちるなんて恋と受験とだけだよ!颯星くんはわかりやすいなぁ。さあ、次は相手だね?」



「………チサクだよ。」




まずいと思った。


言うつもりだなんて微塵もなかったのに。


怖くてチサクの顔が見れない。


きっと驚いて怯えた顔をしているんじゃないだろうか。


もしかしたら、そっと窓を開けて帰ろうとしているかもしれない。



ただ、どうしようもなく怯える俺の中には、言えてスッキリした気持ちがあるのも事実だ。


でも、今さっき自分がチサクのことが好きだと気がついたばかりなのに、口からそんな言葉が漏れ出てしまう自分にはかなり呆れる。



そっと顔を上げてチサクの顔を見る。



え。



俺の予想に反して、チサクの顔は耳まで真っ赤になっていた。




「〜〜〜!」




しばらく呆然としてチサクの顔を眺めているばかりだったけれど、ここで畳み掛ければ最期まで一緒にいれるかもしれないと気づいた。



俺は小さく息を吸って吐く。


まだ真っ赤なその顔の、真っ黒なその瞳を真っ直ぐに見つめる。


すぐそこにあるチサクの白魚のような手を取る。


すぐに震えそうになる声を無理矢理押さえつける。




「ねぇ、チサク。俺、チサクのことが好きです。貴女の残り時間をほんの少しだけで構わないので、俺にくれませんか。」




俺が少し早口とはいえ、しっかり言い切れたことに安堵していると、俺の手に水滴が落ちて来た。



俺が話している途中からずっと下を向いていたチサクの顔を覗き込む。



その瞳には涙が滲んでいた。



俺は正直に失敗したということを認めて、痛みを訴える心臓も、ぼやけてくる視界も、全て無かったことにするために無視をする。




「……ごめん。迷惑だよな。忘れてほしい。もう会いたくなければ会いに来なくても良いし、インスタもブロ削してくれていいよ。ごめん。もう遅くなるよ。帰りな。」



「……ぅよ。」



「え?」



「ちがう。ちがうの。」

 



その言葉に俺は期待をする。




「な、にが………?」



「嬉しくて泣いてるんだよ。」






俺は期待をする。この残り数ヶ月に。






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