6.月の次を待つ君に 12.1.2024
昨日、学校に来るか考えると言ってくれたので、本当に来ているのか気になって、チサクの教室まで来てしまった。
「あ!颯星く……先輩じゃん!…ないですか!」
チサクの教室まで行くと、ちょうど廊下側の1番後ろの席にチサクが座っていた。
「………いいよ、普段通りで。それ多分敬語になってないし。」
チサクはいつも通り軽い調子で、あは、と笑う。
しかし、よく見ているとふと気づく。
チサクの肌はいつも丁寧に手入れされていて、とても綺麗で雪のように白い肌だ。
しかし、今日のチサクの顔色は白とかそんなものを通り越して、青い。というか、黄土色のような気もしてくる。
「なぁ、チサク。大丈夫か?体調悪いなら無理しなくても……。」
「何言ってるの?颯星くん。私は今日すごく機嫌いいんだよ?」
チサクが若干食い気味に返事する。
その声色は歌うように軽やかで、元気なのではと勘違いさせる。
しかし、その青い顔色や、シャツからのぞいた手足の細さを見る限り、およそ体調のいい人のものではない。
きっと、元気だと言っても見抜かれると知っていて、機嫌がいいと答えたのだろう。
「チサク、返事になってな「絵の具?」
その辺りを突っ込んで聞かれることを嫌がったのか、チサクが強引に話をそらす。
本当は深追いして問い詰めたいところなのだが、チサクの聞かれたくない気持ちも理解できるので、大人しくその話題にのってやる。
「……あー、今日は、忘れた。」
「そっか。あ、心配してきてくれたの?楽しーよ?へーきへーき!」
本当は今ズボンのポケットに入っているし、忘れるなどありえないほど、どこに行くにも持ち歩いている。
いまだって、ポケットの中の右手には絵の具が握られている。
そんな俺の嘘に気づいているのか、いないのか、チサクはあっさりと引き下がり、来てくれたということは心配してくれたのかな、とニコニコ笑っている。
「…そうか。なら、よかった。」
「心配してくれてありがとね!絵の具は気が向いたらで良いよ!」
…チサクはきっと気がついていた。
俺が少なくても今日絵の具を返す気などさらさらないことに。
そうでないと、絵の具は気が向いたらで、だなんて言葉は出て来ない。
気がついた上で、笑って許してくれていたのだ。
……ずるいんだよなぁ。ずるい。すごくずるいんだ。
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俺が絵の具を返す気もないのに、チサクに会いに行き続けてから、約1ヶ月がたった。
今日は新月の日だ。
俺の家にチサクが来ることになっている。
実はこの1ヶ月の間、俺は絵の具を返すつもりなど毛頭なかったクセに、何度も何度もチサクの教室を尋ねていた。
なんとなく、会いたかったのだ。
多分その度にチサクは気がつかないフリをしてくれていた。
優しくて甘いと思う。
そんな風に物思いに耽っていると、急に窓からガタガタガタガコンと音がした。
……あ、やべ、窓の鍵を開けておくの忘れてた。
チサクは俺の家に来る時、いつも窓から入ってくる。
普段はきちんと開けておくようにしているのだが、今日は忘れてしまっていた。
俺が慌てて開けると、チサクが少しだけ頰を膨らませて開けておいてよーと笑っている。
チサクが俺の横腹を突いてくるので、くすぐったくてつい笑顔になる。
きっと今日も、しばらく喋ってお菓子を食べて4時くらいに解散するんだろう。
こんな日が永遠に続けばいい。
そうしたら俺はきっと────。




