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4.月より近くに君と 10.3.2024






俺は『W039 AUREOLIN(オーレオリン)』という文字が書かれた絵の具を手の上で転がしながら眺めていた。


ちなみに今日は新月の日だが

『どうっしても見たいテレビがあるの!』

とのことで、今日は会わない。


絵の具(オーレオリン)を眺めながら考える。


実際に塗るとどんな色になるのか気になって、近くの小さな画材屋へ行ったのだが、そこには売っていなかった。


この絵の具はそれほどにマイナーな色らしい。


どうしてチサクはこの色を持っていて、俺に渡したのだろうか。


ネットで探してみたが高いものも多く、謎が深まるばかりだ。



………え、高いということは、早く返した方がいいのではないだろうか?!


きっとチサクは直ぐに返しすだろうと踏んで、貸してくれたのに違いない。


返そう。明日学校に行ったら1年の教室に行って返そう。






─────────────────────────







チサクは果たして何組なのだろうか。


何も聞いていなかったことに、1年生の教室へと続く階段を上りきったところで気がついた。


絵の具の裏側とかに書いていることを期待して探してみると、端の方に何かが小さく書かれてあった。



『しま あかね』



しまあかね?誰だそれ。


チサクのお姉さんだろうか。


いや、チサクの苗字は確か……クロミズさん、だったはずだ。


しまさんではなかった。


いや、家庭の事情が何かあるかも……。




「あれ、先輩?1年のとこ来るなんて珍しいっすね。どうしたんすか?」




後ろから声をかけられ振り向くと、陸上部の後輩が不思議そうな顔をしてこちらへ歩いて向かってきた。




「あ、もしかしてなんかで顧問怒ってるっすか?」




謝りに行くなら他のやつ集めてくるっす、というのを制する。




「あーいや、そういうわけじゃない。クロミズさん何組かわかるか?落とし物を届けにきたんだ。」



「あ、俺、おんなじクラスっす。」




さすが陸部。


部員がたくさんいるだけあって、チサクと同じクラスの人がいた。


良かった良かった。



「ほんと?教室いる?移動行っちゃった?」



「あ、いや、クロミズさん、6?5?月くらいから学校ほとんど来てないっすよ。」



「え?」



「いや、よくわかんないんですけど、休み続けてるっすよ。先生に預けときましょうか?」



「あー、いいや。ありがとう。」




チサクに会えないなら絵の具を返す意味も何もないわけで。


落とし物だと言った以上、確かに先生に預けるべきなのだろうが、どうしても自分で渡したかった。




「なんすかー?先輩、クロミズさん気になってるんすか?やっぱ2年でも美人って有名なんすねー!」




後輩がキラキラとした目でみてくる。


チサクって噂になるくらいの美人なんだ。


綺麗だと思ってはいたけど、ここまでとは。




「え、いや、気になってるとかではないし、俺、チ…クロミズさんの噂聞いたことない………。」



「そーなんですか?まあ、先輩噂疎いっすもんね………。あ、でも先輩、絶対クロミズさんに落ちますよ。先輩の好みそうっす!」




やや憐れむような目をされた後、何かよくわからないが、何かをどうにか励まされた。


励ましなのか?




「いや、大丈夫だよ………。」




何がかはわからないけど、大丈夫。


結構間に合ってる。



後輩はそんな俺に少し首を傾げたあと、じゃ、お疲れっす、といって教室に戻って行った。






───────────────────────






なぜか昼間に何気なく言われた

『先輩、絶対クロミズさんに落ちますよ。』

という一言が頭から離れない。



それに、チサクは5月か6月から学校に行っていないらしい。


チサクは俺に学校に来るように言っておいて、自分は行ってなかったのか?


俺に、絵の具を渡しておきながら、返させる気がなかったということなのだろうか。



『これ、落ちてたから届けに来たっていって、うちのクラスに会いに来てよ。』



あの言葉は俺の為の嘘だったのだろうか。





………ああ。なんだか今、すごくチサクに会いたい。





次の新月まであと2週間。






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