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2.月を真っ直ぐ見つめる君を 8.4.2024






俺が新月病を発症したことが分かってから約1ヶ月がたった。


俺は、死ぬのだろうか。


先日行われたインターハイでも、頭の中はそればかりで、全く結果を出せず、予選落ちだった。


ほとんど九州に行っただけだった。



……インターハイで優勝するための努力も、そこそこいい大学に進学するための勉強も、無駄に終わるのだろうか。



どうして俺なんだろうか。



そもそもあの初めてチサクと会った日、どうして発病してない俺がチサクを見ることができたのだろうか。



俺にはあとどのくらいの時間が残されているのだろうか。



両親よりも先に逝くのだろうか。


………親不孝が過ぎる。



1人になると、いや、1人にならなくったって、頭の中にはいつだって死ぬことへの恐怖や虚しさがあり、何も手につかなくなる。



人間がいつか死ぬことは、ずっとわかっているはずなのに。


小学生だって知っていることだ。


自分の身に迫っているという実感がなかったということなのだろう。



今日は新月の日だけれど、もう外になんて出なくてもいいや。


昼間に風呂に入ってしまっているし、もう今日は寝てしまおう。



緩慢な動きでベッドに横になる。




目を瞑ってしばらくすると、外から物音が聞こえてきた。


うるさいな。



ガンッガコガコドンドンッ



風か?今日はそんなに強風が吹いているのだろうか。


それならもうなおさら、早く寝付いてしまいたい。




「…〜〜〜!〜〜……〜〜…!……!!」




………え。人の声か?今したよな。窓の外からか?



恐る恐るカーテンを開いてみる。




「う、うわぁ!!!」




大声を出してしまった。


母さんが心配する、と思ったけど、そういえば姿が見えないし声も聞こえないから関係ないのか、と悲しくなる。


窓の外にはチサクが浮いていた。いやいやいや、どういうことだよ……。



窓をそっと開けてやる。





「……チサクはそこで何して「颯星!何してんの!今日新月の日だから、前説明しきってなかったこと説明しようとしてたのに!全然家から出てこないし!まさか寝てんのかなと思って家中の窓ガタガタさせたんだから!」




もうっ!とチサクは怒っているが、母さんと妹が怖がってないだろうか。人の家の窓ガタガタするなよ。


俺もビビったわ。


ぐちぐち文句を言いながら、体を窓から部屋へねじ込んでくる。




「……もう、いいよ。どうせ、死ぬんだろ。」



「あーもーやっぱり!私が死ぬ日は決まってるけど、君が死ぬ日は決まってないよ!もしかしたら2年後かもしれないし、お爺ちゃんになってからかもしんない!」



「……でも、新月病って、死ぬ、病気なんだろ?」



「うん。そうだよ。でもね、ちょっと特殊な病気なんだよ。」




そう言ってチサクは新月病の話をしてくれた。



新月病は前に話した通り、無名で不治の病だ。


症状としては、主に新月の日に体が宙に浮く。そして体力が減っていくらしい。




「私もね、もう走ったりできないの。立ってるので疲れる時があるくらい。」




そして、新月病の大きな特徴としてあるのが、約1年前に死ぬ日がわかること。


新月病の患者は発症する直前の新月の日に、新月病患者で、宙に浮いている人が1人見えるそうだ。


そして、新月病患者を見た人は次の新月の日に発症するのだが、見られた人はその12回後の新月の日に体から強い光を発して消えてしまうのだ。




「私が知ってるのはこれで大体全部かな。私が初めて見た新月病患者の人──アカネさんっていうんだけど、その人に教えてもらったことだから、全部が全部ほんとなのかはわかんないんだけど。ひとつ確かなことは、……アカネさんは新月が南中した瞬間消えちゃった。」



「………。なんか、わかんないんだけど。チサクは死ぬってことだよな。俺は?チサクは?消えた後どうなんの?死ぬじゃなくて消えるってことはさ……。」



「うん。体はもちろん、遺骨すらも残らない。だから多分、アカネさんも今頃家族に行方不明届出されてるんじゃないかな。私もそうなる予定だし、颯星くんもそうなるんじゃない?」




母さんと父さん、泣くかな。


妹はきっと大丈夫かな。


迷惑はかかるよなぁ。ニュースとかにもなるのかな。


ちゃんと見られたら困るものとか処分しておかないといけないな。




「あのね、だから、明日からは学校行ってね。颯星くんが死ぬのは、近くても2年後なんだから。大学受験は絶対しなきゃいけないし、もしかしたら就職だってしなくちゃいけないかもしれないんだから。」




たしかにそうかもしれない。


死ぬということに囚われすぎて、全てに対してやる気をなくしてしまっていた。


きっとチサクも通ってきた道なのだろう。


『今』は無駄にならないとチサクの瞳が強く言う。




「…わかった。わかったよ。」




俺が是と言うとチサクは、手を出して、と言った。


俺がそれに従って手を出すと、はい、と手の上に使いさしだと思われる黄色の絵の具が置いてあった。




「これ、落ちてたから届けに来たっていって、私に会いに来てよ。」




「……わかった。何度でも届けにいくよ。」




チサクは ん、と満足気に笑った。


そして、自分が入ってきた窓枠に頬杖をつくと、月がないおかげで普段よりもよく見える星を眺めた。




「颯星くんの部屋、空が綺麗に見えるね。」



「……そうか?」




俺もチサクと同じように、窓枠に頬杖をつきながら空を眺めてみる。




「うん。空が高く見える気がする。」



「それは、新月で空の光が少ないからじゃないか?」



「ふふっ。そうかもね。」



「………。」







確かにチサクの隣で見る新月はとても綺麗だった。






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