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10.月に背を向けて抗う君は 3.29.2025






「もうすぐ、来ちゃうね。」




チサクが俺の部屋の窓枠で頬杖をつきながら、そっと呟いた。




「何が。」




俺は何がかなんて分かっているけど、察したくなくて、勘の悪いふりをする。



信じられないくらい、硬い声が出た。




「分かってるくせに。」




チサクは眉を下げながら、くすくすと笑った。


俺に言えることは何にもなくて、つい黙り込んでしまう。




「チサクの最後の日、俺、チサクの横にいてもいい?」




チサクの横顔に見惚れながら、懇願してみた。




「ごめんね。私、最後の日は誰にも会いたくないかな。」




あっさりとチサクに断られた。


そういえばチサクってそういう子だった。


そう思うと何かいうこともできなくて、仕方ないなと、そっかと呟いた。




しばらくして、チサクが意を決したような顔をして、口を開く。




「あのね、颯星くん。」




なんとなく、聞いたら最後のような気がした。




「来月の新月の日が、私たちが会う最後の日。その日に、別れよう。」



「嫌だ。」




反射的に口を突いて出る。




「来月の新月の日が終わったら、私の連絡先消してね。私も消すから。」



「嫌だ。」




俺は幼子のように繰り返すことしかできない。




「ああ、この前のプリクラも捨てるんだよ。」



「嫌だ。」




言われていることは理解できるのに、ずっと異国語を隣でしゃべられているような、現実ではないような、そんな心地がした。



チサクはなんとか説得しようと明るい声で、俺に詰め寄る。




「次の彼女さんにも悪いし!」


「次の彼女なんていない。」



「いつまでも引きずってるとモテないよ!」


「モテなくていい。」



「思い出ばっかあっても何にもならないでしょ?」


「なるよ。」



「せっかくモテてるのに、いなくなってもその子一筋とか、他の女の子困っちゃうよ!」


「モテてないし、困るなら困らせとけばいいよ。」



「嘘ばっかり。颯星くんモテるでしょ。あっという間に次の彼女できちゃうよ。」


「チサクが最初で最後だよ。」



「颯星くんを見る次の新月病の子がすっごく可愛かったら?」


「関係ないよ。」



「そうは言っても、隣にいるのといないのじゃ大違いだよ。」


「ずっと俺の隣はチサクだよ。」



「消えちゃったらそうはいかないじゃん。」


「そうはいくよ。」




何を言っても俺が取り合わないので諦めたのか、チサクはため息をついた。



しばらく考えを巡らせるように、目が四方八方を向いていた。


その後、いたずらを思いついた子供のような顔をしてキラキラした顔になる。




「颯星くんってほんと私のこと好きだね!」




返答に困るでしょ!困れ困れ!と言わんばかりの顔付きだ。



まあ、困ってはあげないけど。



俺は、流れるようにチサクの前に跪いて、その手を取る。




「好きだよ。チサクの願いならなんでも叶えるよ。」




そういうと、チサクは虚をつかれたような顔をして、呆れたような声で言った。




「颯星くんいつから魔法使いになったの?」



「魔法使いなんかじゃないよ。好きな子に嫌われない為に必死なだけ。」



「嫌いになんてなんないよ。」



「じゃあ隣にいてもらう為に必死なだけ。」



「いれるなら、ずっといるよ。」



「約束ね。絶対、別れないから。」



「………分かった。」




本気でチサクが別れたいなら、こうもみっともなく縋りついたりしないけど、俺のために別れようとしてるなんて分かったら、逃がせるわけないのに。



チサクの最後の日には会えないけど、これで、チサクとは俺の最後の日まで別れなくてすみそうだ。






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