9.月の表面に写る君は 2.28.2025
「この辺にエオンなんてあったっけ?」
「ないよー?」
「は?」
先月のチサクの提案で、エオンにプリクラを撮りにいくことになった。
俺たちは今初めて出会った公園付近を飛んでいる。
物理的に飛行中です。
もちろん現在時刻は10時30分なので、エオンは閉店しているはず。
というわけで、忍び込んでプリクラを撮るらしい。
もちろん、きっちり2000円は持っている。
プリクラ代は俺の奢りにするつもりだ。
「飛んでったらあっという間だよ!」
「飛んでったらって、そこそこ遠いぞ?だってエオンって車でも50分くらいかかるし。」
「空を飛んでったら25分♪」
半分でいいのか?
すごい。毎日学校まで飛んで行きたい。
「空は交通ルールがないから、どんだけ飛ばしてもいいんだよ?」
いや、そんな、なんでそんなことも知らないの?みたいな顔で見られても。
だってそもそも俺夜中にほぼ外出てないし。
いつもチサクが俺の家来てくれてたから。
そもそも、飛ばしたら飛ばしたで危ないだろ。
「ほら!見えてきた!せーんにゅー!」
チサクは余程プリクラが楽しみなようで、いつも以上のハイテンションである。
「えぇっと、ゲーセンは………「4階か。エスカレーター……じゃなくて吹き抜けから飛んでくか。」
「さては君、地図読める口だな?」
チサクは、いい道具を見つけたときのような、いたずらっ子のような顔をして下から俺を覗き込んだ。
「読めるだろ。」
「?!わ、私、読めないよ?!」
チサクが慌てたように目を左右にキョロキョロさせる。
私も読めるようになりたいなぁ!というのが伝わってくるようだ。
「みんな読めるわけじゃないし。誰かしら読めればいいよ。」
気にするな。
俺にとってはカッコいいとこ見せれそうだから、チサクが地図読めない方がちょっと都合がいい。
そんな下心を抑えて、頭を撫でようと手を伸ばす。
あ、下心の蓋は下心だったみたいです。
あとちょっと。
あとちょっとでその綺麗な黒髪に手が届く。
「ねね、何してるの?」
チサクはそう言いながら吹き抜けの方へすっと飛んでいっていた。
チサクは本当に不思議だなぁという顔をしていて、俺がチサクの頭を撫でようとしていたことなど、少しも気づいていないようだ。
俺の手はすかっとチサクの頭の上を素通りしたかたちになる。
こういうところで決められないやつって、結構ギリギリまで決められない、もしくは、決められずに終わるよね。
俺、もしかしてそれの予備軍ですか。
泣きますね。今から。号泣していいですか。
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「おー!久しぶりに来た!プリクラ台だぁ!え、どの台で撮る?!redmitだー!ほしウサもあるしっ98%もあるー!」
プリクラのあるようなところに久しぶりに来たようで、チサクはとてもはしゃいでいる。
きっと新月病に罹って、体が思うように動かなくなってきてから、1度もこう言う場所に来ていなかったのだろう。
なかなか、こんなにはしゃいでいるチサクは見られないので、とても新鮮で可愛らしい。
しばらく、ぼんやりと見惚れているとチサクがくるりとこちらを向いた。
「颯星くんはどれで撮りたいっ?!」
やば、チサクに見惚れてあんまり話聞いてなかった。
いやまあ聞いてたとて、わかる話かどうかは怪しい。
一度、部活の記録会後に友達に誘われて撮った、撮らされた(?)だけの俺にわかることなんて、プリクラが500円ってことだけだ。
「ごめん俺プリクラ詳しくないから、あんまわかんないんだけど、チサクのオススメは?」
「うーんっ、うーんっ、YOUR PALETTかなあっ。」
「じゃあそれで撮ろう?俺、チサクのオススメ気になる。」
俺がそう言うとチサクは満面の笑みで、おそらく自分でしたのであろう刺繍の入ったがま口財布を、パチンッと開いた。
「颯星くん、どっちが300円かジャンケンしよ!」
「俺が500円ね。」
俺が食い気味にそう言うと、チサクは握りしめていた右手をゆっくり下ろした。
「え、なんで?!ジャ、ジャンケン……」
「いいから。ね?」
割り勘にしようとしているチサクの頭をさりげなく撫でて、納得させる。
そうするとチサクは俯いて、
「……今、50円ないから、あとで250円返すね。」
と言った。
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「やっぱ私たち写んなかったね。」
印刷されて出てきたプリクラには、何も写っていない。代わりに、落書きが山のように書いてある。
「はい、颯星くん半分こね。」
チサクが手慣れた様子で半分のところで写真を切ってくれる。
「ありがとう。」
「また来よ!あ、250円も返すね。」
「いいよ。いらない。俺の奢り。」
プリクラもいいかもしれない。




