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第二章 能力1

「そんな不貞腐れずに機嫌直したらどうや。あれはほとんど事故みたいなものやったろ?」


「分かってる……。でも……なんか嫌なの」


「難儀な奴やな。ねーちゃんに取られたくないなら気持ちを伝えんと。鈍感なにーちゃんには伝わらんで」


「……上手くいかなかったら関係が拗れそうで怖い」


「ヘレナがにーちゃんを繋ぎ止めておかんと寝返ってしまうかも知らんぞ。ねーちゃんの本心は俺にもよく分からん。童貞のにーちゃんが誘惑に耐え切れず……みたいになったら目も当てられん」


「ハロルドって童貞なんだ……」


「あ……。と、とにかく、状況が良くない中でヘレナに振り向かせるというのは、悪い事ではないと思うで」


「そうは言っても、振り向かせ方とか分かんないし……。そう言えば、プルートは一応男なんだよね。男性が女性にしてもらって嬉しい事とか分かる?」


「うーん、分からんなぁ。一応男とは言っても俺ぬいぐるみやし。素直で可愛くあれば勝手に男が寄ってきとったイメージしかないわ」


「千年以上生きてるって本当?」


「疑問に思うことがそれかいな。うーん、他に何かあったかな……。そう言えば、胃袋を掴めば男も掴めるみたいなことは聞いたことがあるな」


「料理するってこと?」


「俺が見てきた中で、飯が美味い女から離れる男は少なかったで。逆にメシマズの女から離れた男はめっちゃおったで」


「それは……なんか生々しいね」


「にーちゃんが好きそうな料理が作れるようになったら、見る目が変わるかもしれんなぁ。それはともかく、ヘレナは料理できるんか?」


「まったくやったことないけど、ハロルドが私の手料理に喜んでくれるってのは……悪くないかも」


「そうか。それなら、ねーちゃんから料理を教われれば問題なさそうやな。ねーちゃんも快く引き受けてくれるやろ」


「う、ルナから教わるのは……なんかなぁ」


「別に仲が悪い訳でもないんやろ? さっきの一件も肉体関係を持ったってわけでもないし、大目に見たってや」


「どういうわけかもやもやすると言うか……多分良い感情じゃないんだろうな」


「……いやはや、ここまで行くともはや本能やな。願わくば、悪い方向に行かんでほしいな」


「どうしたの? 小さい声で何かつぶやいてたみたいだけど」


「いや、何でもないで。料理に没頭すればそんな感情もどっか行くやろ。とりあえず、ねーちゃんに話つけてきたらどうや? ギクシャクする前に片つけとった方が良いで」


「うん、分かった。じゃあ、今から話してくる」


***


 四月に入ってしばらく経った時、グリッドマン大佐と話をしていると衝撃の内容が飛び出した。


「なっ!? 壊滅した!?」


「あぁ、先日頭を確保した。これにより、ル・ダリアスは事実上壊滅したと言って問題ないだろう」


 どういうことだ……。あれほど俺を悩ませていたテロ組織が、これほど呆気なく壊滅するとは。何が起きたというんだ。


「詳しく事情を聞いてもよろしいですか?」


「我が軍が優秀だった、というのもあるだろうが、決定的だったのはテロ組織側から寝返った人物がいるということだ。急進的となった上層部の考えについていけなくなったとか。何はともあれ、悩みの種が一つなくなったことは喜ばしい限りだ」


「上層部は全て捕らえられたということでしょうか?」


「全てではない。だが、組織としての求心力は完全になくなった。ここから人を集めて再建するのはほぼ不可能だ。この場合は無力化できたと言う方が正しいな」


「以前提出した報告書で、誘拐を手引きした依頼主がいることが分かっています。彼らはそれについて何と言っていましたか?」


「だんまりを決め込む者、ぺらぺらと喋る者、多種多様だ。だが、決定的な内容を掴むには至っていない。証言が皆違うのだ。口裏合わせでもしていたのなら分かりやすいが、これほどまでにバラバラだと何が真実なのか分からん」


 簡単に尻尾を掴ませてはくれない、か。軍にもテロ組織にも太いパイプを持つ人間など、そう多くはないはずだと言うのに。


「正攻法では限界がある。だからこそ、君が持ってきてくれたマフィアとの一件は、実に興味深い展開を辿りそうだ」


 シュタットとの接触は俺一人でどうにかするべきではないと考え、グリッドマン大佐に報告しておいたが、どうやら良い方向に転んでいるらしい。


「何か進展があったのでしょうか?」


「詳しくは言えないが、洗うべき内容が見えてきたと言ったところか。裏社会の情報も馬鹿にはできんな。奴と会う都度に報告を欠かさないようにしろ。今後も渡して良い情報などはこちらで指示を出す」


「了解しました」


「それと、奴の素性はこちらで掴んでおいた。後で資料を送る。確認しておけ」


 こういう時の軍は頼りになるな。圧倒的な組織力を痛感する。


「ありがとうございます。後で拝見します」


「よろしい。さて、話を変えよう。誘拐やら何やらで後回しになっていたが、ヘレナ嬢の能力研究施設が本格稼働する。今月末からの活動を予定しているが、ヘレナ嬢の様子はどうだ?」


「リハビリも終わり、学校では上手くやっているようです。話を聞く限り、厄介な問題は起きていないようですね。能力研究の方に関しては、良いも悪いも考えていない感じが見受けられます」


「そうか。協力的であるならばこちらから何か言うことはない。明るい未来のために力を尽くしてくれることを期待している」


 明るい未来か……。ずいぶんと分かりやすい言葉を吐くものだ。


「どのような方法で研究を行うか尋ねてもよろしいでしょうか?」


「流石に非人道的なことをするつもりはない。そんなことをして失って良い代物ではないだろう。まずは基礎研究からだ。本格的な実験を行う前に、伝えられた内容がどの程度のものか調べる」


 正直に言えば、俺もヘレナの能力に関して詳しくない。勝手に研究してくれるのはありがたい反面、嘘がバレる原因になる危険性も秘めている。


 先回りしてヘレナの能力を把握しておかなくてはならないな。だが、研究などしたことが無い俺にとって、どのようなアプローチが行われるか判断ができない。


 能力に関して詳しいと主張するプルートに協力してもらうか。だが、なぜかプルートはそれ関連の話をしたがらない。とは言っても、他に頼れる相手もいないし。説得は必須か。


「それが聞けただけでもうれしい限りです。ヘレナにも伝えておきましょう」


「そうしてくれ。ヘレナ嬢の精神が落ち着くことを願っているよ」


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