第二章 幕間3(裏切り者視点)
部下から報告書が上がった。私は一人部屋にこもると今後の計画のために何が必要なのか、そしてどのような指示を下すべきなのか考え始めた。
「ル・ダリアス。案外脆かったな。テロ組織など所詮こんなものか。まぁ、彼らは彼らなりの役割を十分果たしてくれた。それ以上を求めるのは酷というものだ」
情報の拡散には最も気を付けなくてはならない。だからだろうか、独り言が以前と比べて増えた気がする。信頼できる者がそばにいたとしても、口から出る言葉には注意を払う。
「だが、まだ働いてくれないと困る。それを踏まえた作戦をこちらは用意しているのだ。しっかりと足掻いて、できる限り凄惨な末路をたどってくれるよう、準備を進めなくてはならないな」
煙草をゆっくりとふかしながら、次の報告書をめくった。主な内容は軍の動きについてだ。
「軍の動きも想定通り。何としてでも炙り出したいという欲求が伝わってくる。それだけこちらに対して危機感を覚えているということだろう。喫緊の課題を目の前にしながらも、そういった部分を疎かにしないのはやはり優秀だな」
アルダード軍部は優秀である。だが、優秀であるがゆえにこちらが用意した疑似餌にまともな策で飛びつきやすい。加えて馬鹿が少ない以上、予想外の事態も起きにくい利点もある。
目線をさらに下へと移動させる。そこにはこの国に亡命してきたハロルド・アルテラドとヘレナの名前があった。
「彼らが我が国へ来たのは僥倖だった。これほどまでに計画を前倒しにできたのも、上手く事が運んでいるのも彼らのおかげだ」
以前の報告書によると、捕虜の身でありながら脱走した挙句にトリトンを引っ掻き回し、亡命を成功させている。運によるところもきっとあるだろうが、頭が回らなければここまでできない。
だからこそ、若干の不安はある。奇想天外な行動をしてこられると、こちらの動きを制限されるかもしれないからだ。軍の行動にはある程度予測がついても、名前しか知らない彼らがどう動くのかを予測するのは難しい。私が直接接触するわけにはいかないし、写真にも彼らは写ってくれないだろう。
私の行動は彼らに警戒心を与えた。こちらに寝返ることなど無いに等しい。計画を成し遂げるにはもはや対立以外の構図はないのだろう。
だが、どういう訳か彼らには魅力を感じざるを得ない。特に頭脳を担っているハロルドには興味がわく。誰も知り得ない重大な何かを隠している。そんな気配がするのだ。
もし私の直感が正しかった場合、私の計画を阻む最大の壁になるかもしれない。
「それにしても、兵器を壊す兵器か。彼らの潜在能力は軍が見ているものよりもはるかに大きい。もはや、一国で扱う範疇を超えている。彼の証言によるとルダティアの兵器開発の産物ということだが、果たして? 兵器開発を行った国が使い方を見誤るなど正直考えられない。恐らくは偶発的な産物のようなもの。少なくとも現在ルダティアが動いている様子がないならば、わざわざ敵を増やす必要はない」
沈黙を貫くルダティアは気味が悪い。しかし、行動をしてこないなら沈黙を貫いたことを後悔させるべきだろう。ルダティアが使いこなせなかったものを私が使いこなして見せると言うのも、どことなく優越感があるものだ。
今後の彼らの予定を確認すると、ハロルドはグリッドマンの補佐に就き、ヘレナは学生として活動をするとのこと。二人を一緒にさせるリスクを考慮してということだろう。片方の安全さえ確保できれば兵器としての力はなくなる。妥協策としては最も安全なものだ。
能力の研究もこちらが想定したものだ。今のところは計画通り。一本目の柱は何とか建て終えた。ならば、残りの柱も建てる必要がある。
「私の目的のために彼らには動いてもらう。例えどのような結末になろうとも」




