第二章 二人の立場と状況3
新しく協力者になったプルートといクマのぬいぐるみは、口調や態度こそアレだが考えることには筋が通っていて納得できるものだった。特にヘレナに対する接し方は俺とは違いまともなので、話し相手として適任であったのは嬉しい誤算だ。俺がそばにいない時でもヘレナに助言できる存在というのは素直にありがたい。
詳しく話してくれなかったが、ヘレナの能力について詳しい知識を持っているというのも大きい。今後の能力研究でぼろが出るということも防げるだろう。
物事の風向きが少しずつ変わっている。もしかしたら、目の前に立ち塞がっていたつるつるの壁に引っかかりを見出せる。そう感じ取りながら俺は風呂に浸かっていた。
「湯加減は如何ですか? 傷に障ってはいけないので少しぬるめにしているのですが」
俺の隣で湯に浸かっているルナは俺にそう尋ねてきた。
怪我のせいで無理ができない状態である俺を補助するため、こうして入浴の際にも付き添ってくれているのだ。
しかし、怪我のせいで入浴に補助がいるとはいえ、まさか本当に一緒に入ってくるとは思わなかった。隠すべきところは隠しているが、流石にやり過ぎなのではないか? おかげで理性を失わないよう必死に考え事をする羽目になっている。
「なぁ、もう一度言うが、ルナも一緒に風呂に浸かる必要はないんだぞ。もちろん世話になってしまうのは確かだが、ここまでやられると流石に落ち着かない」
「あら、光熱費の節約になりますし、補助も簡単ですから一石二鳥ではないでしょうか」
「その説明は流石に無理があると思うんだが。他にマシな方法もあっただろうに」
「ですが、この屋敷の維持費はあなたのお給料から天引きされることになるので、多少の節約は必要ですよ」
「えっ……この屋敷の維持費って俺持ちなの? 軍が肩代わりするって聞いてたんだが……」
まさかの情報に俺は何も考えずルナの方へ顔を向けてしまう。
背筋をしっかりと伸ばしメイドとしての面持ちをしながらも、湿気で髪の毛が首筋に張り付いている。煽情的。それ以外の言葉が思い浮かばない。狙っているのか? いや、それ以外考えられない……。
だが、もう少し眺めていたいという願望を必死に押しのけ、俺はゆっくりと正面を見据えた。
「それは確かにそうですが天引きも事実ですよ。どの程度かは今月過ごしてみないと分かりませんが」
「嫌な事実を聞いてしまった。いや、いずれ知ることにはなるんだろうが……なんだか損した気分だ」
「気になるようでしたら今後節約すれば良いと思いますが、意外と倹約家なのですね」
「金に困っていた時期が長かったからな。あの時期を思い出したくないだけだよ。はぁ、節約するなら少し早めに上がるか」
俺はそう言ってお湯から上がった。
そういえば、どうやって体を拭いて着替えれば良いんだ。脱ぐのは簡単だったが、下着類を右腕だけで何とかできるのだろうか。……どうやらまだ戦いは終わっていなかったようだ。
***
脱衣所でもなんとか理性を保った俺は、就寝前に残っていた仕事を片付けていた。主に先日の救出作戦関連のものだが、あの事件には奇妙な点が多い。俺が気付いた範囲だけでなく他の人の視点も欲しいところだ。ヘレナからも近いうちに聞き出しておく必要があるだろう。
そう考えながら仕事をやっているとノックの音が響いてきた。ルナが来たようだ。しかし、こんな深夜に何の用だろうか。普段ならもう寝ている頃合いなのだが。
扉を開けると案の定ルナがいた。しかし、その表情はどことなく冷たいものであった。ルナは俺に目線を向けるや否やこう言った。
「ハロルドさん、私と一緒にヘレナさんの部屋に来ていただけますか」
「構わないが、何かあったのか?」
「えぇ、お話したいことがあります」
纏っている雰囲気が明らかに違うことは分かるが、ルナの行動そのものはよく分からない。何故ヘレナの部屋に行く必要があるのだ?
ルナの後ろをついていきヘレナの部屋に入ると、ランプのかすかな光の中で、何やらヘレナが口を押えながら下を向いている。
「ヘレナ! どうした! 具合が悪いのか?」
俺は駆け寄って尋ねるが、ヘレナは首を横に振った。よくよく見ると異常なまでに青ざめている。具合が悪いのではないとしたら一体何が原因なのか。
「ハロルド……ごめんなさい……ごめんなさい」
何故謝っている? そこまでして青ざめながら謝る理由が分からない。そう思っていると部屋の明かりが灯った。
「ルナ、一体どういうことだ。ヘレナに何があったんだ」
俺はゆっくりこちらへ近づいてくるルナにそう問いかけたが、ルナは冷たい表情のままこちらを見据えている。
どことなく嫌な雰囲気が辺りを包み込む中、ルナは口を開いた。
「回りくどいやり方は嫌いなので単刀直入に聞きます。彼女とあなたは嘘をついていますね?」




