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第二章 二人の立場と状況1

 翌朝。朝食を食べ終わって少し経った頃合いに呼び鈴が鳴った。グリッドマン大佐が訪ねてきたようだ。ルナと共に玄関へ向かい扉を開けると、帽子を被り普段と変わりない表情の彼がいた。


「お待ちしておりました。どうぞお入りください」


「あぁ、今日はよろしく頼むよ」


 応接間に案内するとルナはその場から退席した。そして、グリッドマン大佐は話し出した。


「すまないな。あれだけのことがあってすぐに私の顔を見ることになるとは辛かろう」


「いえ、本来なら私が出向くべきであるのに、ありがたい限りです」


「怪我人に無理をさせるわけにはいかんだろう。私もそれくらいはわきまえているつもりだ。さてと、まずは報告書を受け取ろうか。今回の件の参考にさせてもらおう」


 俺は用意していた報告書をグリッドマン大佐に渡すと、彼はそれを見ずに懐へと仕舞った。


「この場で確認はしないのですか?」


「あぁ、後でじっくりと読ませてもらう。それと、今回の作戦はご苦労だった。君の同僚が一人亡くなってしまったのは残念だが、上手くはいった。君のおかげだ」


 エリックはやはりダメだったのか。悔しいがどうしようもない事だったと考えるしかない。


「そう、ですか……」


「情報整理や作戦報酬は追って説明するとして、今回話しておきたいことは別件になる。君たちの今後についてと言ったところか」


「今後、ですか。以前私たちに考える時間を与えてくださったと記憶していますが」


「確かに、以前君たちの判断を仰ぐ形を取ったが、事態は急を要する。残念ながらこれは命令だ。従ってもらおう」


「……了解しました」


「あぁ、大きく分けると三つだ。まずは君たちの生活、特にヘレナ嬢について。ヘレナ嬢の体調が回復したら学校に通わせたいと考えている。他者との交流があれば精神的な束縛も薄れて声が出せるようになるかもしれないし、屋敷で暇を過ごす必要もなくなる」


「学校ですか。本人に行く気があれば私も賛成したいです。当てはあるのでしょうか?」


 どうやら、今回の誘拐事件によってヘレナが声を出せないという嘘に信憑性が付いたようだ。不幸中の幸いのようなものだが、学校に通えば嘘はより信じ込まれるだろう。二人でいるより別々に行動した方が俺としても軍としても好ましい。


「もちろんだ。四月からの新学期に合わせて手続きをする。ヘレナ嬢の学力を一度調べる必要があるが、特に問題はないだろう」


「了解しました」


「次は君についてだ。ある程度動けるようになったら、私の仕事を補佐する役職を与える」


「グリッドマン大佐の仕事の補佐? どういうことでしょうか」


「以前話した裏切り者についての、軍からの最大の配慮であり囮だ。裏切り者は君たちにとても興味を示していると話したが、尻尾を掴むには至っていない。次にどのような手を打たれるか分からない以上、手元に置いておかねば後手を取られる。だが、裏切り者も何もしないはずがない。変化があれば即対応できるよう君には私の補佐をしてもらう」


「グリッドマン大佐以外の命令が私に飛ぶ可能性があるということですか?」


「短絡的なことはしないだろうが、網に引っかかりやすくはなるな」


 囮というのは何とも嫌な役目だが、俺一人でどうにかできるような内容でもない。軍に頼るほかないか。


「了解しました。精一杯務めさせていただきます」


「後日、仕事内容に関する資料を送る。頭に叩き込んでしっかりと仕事に励んでくれ」


「了解しました」


「さて、最後になるが、これは君たち二人に関する内容だ。君たちの兵器としての力を我々は知る必要がある。有効な使い方を知るには研究が必要不可欠だ。そこで、我々は研究所の開設を決定した。君たちにはその研究に協力してもらう」


 ついに来たか。能力研究についての要請。避けては通れない道だと分かってはいたが、直かに言われると微かに震えてしまいそうだ。


「来ることは分かっていましたが、どのような方針を取るつもりでしょうか?」


「平和利用に向けての研究が主だ。ヘレナ嬢の力は使いようによって大きな影響を与えられる。ならば、まずは我が国の情勢を立てなおせるように使っていくべきだろう?」


 至極真っ当な言葉を向けるが、その言葉の裏にどのような意図が含まれているのか。注意深く見つめ続けなくてはならない。


 その時、俺はふと思った。俺はこの国で何を成すべきなのだろうか。


 俺の目的は何とかして生き延びることだった。だが、それが叶った以上、何を目的として動く? 戦争を止める? ヘレナの力を乱用されないようにする? 俺がやりだしたことは規模がとてつもなく大きくなり始めている。俺は一体何のために動くべきなのか……。


「それは、そうですが……」


 何となく返した言葉さえ疑問に思う。


そして、なあなあで済ますような状態にないことに俺はようやく気が付いたのだった。


「研究についての内容は追って話そう。まだ、固まっていないこともあるからな」


「了解、しました」


 それからしばらく話し合った後にグリッドマン大佐は帰っていった。


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