第二章 救出作戦1
「例の救出作戦に選出されたんだってな。こっちに来て早々仕事が回ってくるとは流石だ」
訓練の休憩時間に一人で考え事をしているとエリックが声を掛けてきた。
「あぁ、エリックさん。お疲れ様です。単純に運が良かっただけですよ。それに、エリックさんも選出されていましたよね。私としては仲間内で連携が取れない方が怖かったので、少しほっとしています」
「もう少し時間を掛ければきっと良くなるだろうさ。言いにくいことがあれば俺を通してくれ。そうすれば、多少は円滑になるだろう」
「ありがとうございます。しかし、迷惑をかけることになりそうなのが少し忍びないというか……」
「気にするな。むしろ頼られる方が嬉しいくらいだ」
エリックはそう言うと胸を張った。部隊内で孤立している俺にとってエリックの存在は本当にありがたい。
「助かります。そう言えば、先日の作戦説明について少し疑問があるのですが、一つよろしいですか?」
「ん? 何か尋ねたいことでもあるのか? それなら、俺より隊長に直接尋ねた方が、確実だと思うんだが?」
「上の考えと現場の人間の考えが食い違うというのはよくありますから。ベテランのエリックさんの意見を参考にしたいんです」
「ほほぉ、なるほど。それで俺に尋ねたいことってなんだ?」
「救出の際、人質が衰弱している可能性が高いという説明がありましたけど、どの程度衰弱しているか見当は付きますか?」
人質が逃げるのを防ぐために、食事を最低限しか与えないというのは往々にしてあること。ヘレナの衰弱次第ではグリッドマン大佐から指示された作戦に支障が出る恐れあると思ったのだ。
「そうだな、食事がどれだけ与えられているかによるが……俺の経験上、立つことすらままならない場合が多い。大抵は小さな部屋に押し込められるから体も動かせなくなる。今すぐ救出しても人質をすぐに動かすことは無理だろうな」
「返事をするくらいの余力はあるでしょうか?」
「声を上げるのも躊躇うくらい弱り切っていることもある。そういう時は気を付けて人質を運ぶ必要があるだろう」
グリッドマン大佐からの指示。それはヘレナを救出した後、即座に声を上げさせてテロ組織の戦力を削ぐというもの。
そうした方が安全に作戦をこなせるのは間違いない。だが、今の話を聞けばそれはできなくなる。ヘレナは自身を未完成だと言っていた。こう言うのもなんだが、ヘレナが万全でないときに能力を使うのは避けるべきだ。
報告しておくべきだと俺は考えながらエリックに礼を言う。
「ありがとうございます。やはりベテランの言うことは頼りになります」
「食い違いが出る例の一つだからな。現場の人間になって初めて分かるし、報告書だけじゃ限界がある。上もこういうのを理解してくれると嬉しいんだけどな」
「……どこの国でもそう言うのは一緒なんだな」
俺はぼそりとそうつぶやいた。あの戦場で無線機から伝わってきた生々しい会話を俺はふと思い出した。
「質問は他にないのか?」
エリックは俺にそう尋ねる。
「えぇ、今の質問だけです。疑問が晴れたのですっきりしました。作戦当日はよろしくお願いします」
「あぁ、こっちこそよろしく頼む。分からないことがあればまた尋ねてくれ。じゃあな」
エリックはそう言うとどこかへ歩いて行った。
彼を見送り終えると俺は再び考え始める。
グリッドマン大佐から聞かされたテロ組織の動向は、想像以上に鈍いものであることが分かっている。このまま行けば、救出作戦自体はきっとうまくいくだろう。
しかし、不自然に感じる部分もある。あれほど手際の良い行動をしてきたテロ組織だというのに、人質を得た後の行動が悪すぎるのは何故なのだ?
鮮やかな先手を打ったというのに、軍にあっさりと補足され、居場所も突き止められ、人質がどこに隠されているのかなどの情報も知られたというのはあまりにもお粗末すぎる。
まるで指導者が突然いなくなったような、そんな感じがする。
憶測でしかないのだが、この作戦が終わればヘレナから直接聞けば良いか。そう思いながら、俺は休憩所を後にした。




