第二章 単独行動4
目が覚めた時に時計を確認すると丁度お昼時だった。これ以上寝たら夜に差し支えるだろうと思った俺は、体を起こすと屋敷内の散策をすることにした。本当は入浴でもしたい気分だが、場所が分からないし着替えもない。ルナがどこにいるのか探すついでに、自分が暮らす住まいを確認しておきたかった。
屋敷というだけあって中はかなり広い。使用人を含めて十人程度は暮らせるような造りをしており小部屋が多かった。ここに住んでいた人間は相当な金持ちだったのだろう。なぜ俺たちにここをあてがったのかは定かではないが、今のところ気にする必要性は薄いと思う。
色々調べまわっていると浴室にたどり着いた。着替えがないため入浴はできないがどのような造りになっているか気になる。そう思い俺は扉を開けた。
「あら、お目覚めになりましたか」
そこにはルナがいた。しかし、何故ここに居るのだろうか。
「えぇ、おかげで疲れが随分取れまし……取れたよ。ルナはどうしてここに居るんだ」
「ここに荷物を置いていたので取りに来たのです。それはさておき、時間も場所も良い頃合いですし昼食になさいますか、お風呂になさいますか、それとも……」
「それとも?」
「いえ、お気になさらず。少し口走ってしまっただけですから」
「そう、なのか。なら昼食前に風呂に入りたいな」
「分かりました。準備しますのでしばらくお待ちください。せっかくですし、お背中でも大流ししましょうか?」
「なっ!? アルダードのメイドはそんなことまでするのか?」
「さぁ、どうでしょうかね? ですが、お望みならば背中くらいは流して差し上げますよ?」
彼女はそう言うと微笑み返してきた。
「さ、流石にメイドとは言え……初対面の女性にそこまでしてもらうのはどう、かな……。入浴くらいは一人で、その、ゆっくりさせてくれないか?」
「分かりました。では、しばらくお待ちください。準備できましたらお呼びしますので」
彼女は微笑んだままそう言うと準備のために屋敷の奥へと姿を消した。
何という積極的さ……。しかし、背中くらい流してもらうのはありではないか? 肉体関係さえ持たなければ――。
いやいや、そんなことを考えていたら相手の思うつぼだ。ここで劣情を抱くこと自体が間違いなのだ。一時の快楽に身を任せてしまえば取り返しのつかないことになる。
俺はそう思い直すと頬を強めに叩く。そして、ダイア徽章を取るために耐え抜いた訓練を思い出し、必死に頭を落ち着かせた。しかし、その記憶はあまりにも過酷なものであったため吐きそうになった。結局、落ち着きはしたものの別の記憶を思い出すべきだったと後悔した。
入浴と昼食を済ませると俺は自室に戻って考えこんでいた。ヘレナを取り戻すための行動をすると決めても、具体的にどのような行動を取れば良いのかまだ決めていないからだ。どうするべきかと悩んでいたがやはり土台となる知識、つまりはこの国のことを知らなければどうすることもできない。
ならば、この国のことを知っている人物に聞くのが一番手っ取り早いだろう。そう考えた俺は早速身近にいる人物であるルナを当てにすることを決めた。味方になることはないだろうがそれくらいの知識は教えてくれるはずだ。正直、俺しかいないこの屋敷で管理することなど大した量ではないし、暇を持て余していたとしても不思議でない。
探しに行くとルナは食堂にいた。何をしているのかは分からなかったがとりあえず声を掛ける。
「ルナ、今時間は大丈夫か? 色々と聞きたいことがあるんだ」
「えぇ、大丈夫ですよ。ちょうど一区切りついたところでしたから。どうかいたしましたか?」
「実はこれからこの国で生活するにあたって、色々と基礎的な知識とか常識を知りたくてな。習慣や地理など詳しく知っておかないとこれから困るだろう?」
「確かにそうですね。大変殊勝な心掛けだと思います。では、どこからお教えしましょうか」
「そうだな、とりあえずはここら周辺のことから教えてくれないか?」
「分かりました」
そうして俺はルナから周辺の地理をはじめとしたアルダードの情報を教わった。他国の物珍しい知識というのは案外興味をそそられるものだ。新たな見識が広がっていく感覚を得ながらも俺は教えられる情報を貪欲に吸収する。しかし、数時間程度話を聞いたくらいではまだまだ足りない。やはりそれ相応の時間をかける必要がある。
区切りがついたところで俺はルナに頼んだ。
「ルナ、時間があるときで構わないから、今後も教えてはくれないだろうか」
「えぇ、構いませんよ。私としても仕えている方がアルダードの一般常識に欠けた行動を取られては困りますからね。では、午前と午後の二回に分けて時間を作りますから、そこで色々とお教えしましょう」
「ありがとう。助かるよ」
「午前九時から十一時、昼食を挟んで午後一時から三時までの間で良いですか?」
「あぁ、それで構わない。ルナには仕事があるからその辺は自由に決めてくれ」
「では、とりあえずはその時間帯で。時間も良い頃合いですし私は夕食の支度をしてきます。では、失礼します」
ルナはそう言うと厨房の奥へと姿を消した。食堂に一人残された俺は今日学んだことをまとめるべく自室に戻り夕食ができる知らせが来るまでメモを書き連ねた。




