第二章 単独行動2
「よろしい。詳しいことに関しては後で書類を送る。詳細はそれに書いてあるから確認してくれ。さて、今後の我々の動きについて話そう。今回の件に関して我々は現場周辺で警戒網を敷いている。情報がまだ集まり切っていないため詳しいことは今後の調査によるのが何とも悔しいところだな。我々の威信にも関わるため早急に解決しなければならない」
「この件は世間に公表するつもりなのでしょうか?」
「ふむ、ルダティアやトリトンが反応するかもしれないと考えているようだが、それについての心配はいらない。この件を公表するのは少し気が引けるが、男性官僚が連れ去られたのは事実だからそれを前面に押し出す形をとるつもりだ。そうすれば君たちを知られずに済むし情報も集まりやすくなる」
ルダティア軍はある程度こちらのことも考慮してくれていると受け取れる。やはり、ルダティアに逃げ込んだのは正解だったようだ。
しかし、それもヘレナがいなければ意味がない。
仮にヘレナを生きて連れ戻すことができなければ俺は役立たずになってしまう。役立たずになるだけなら何ともないのだが、他国の軍の中枢に多少なりとも潜り込む形を取ってしまっているこの状況でそのようなことが起きれば俺の立場はアルダードにとって非常に邪魔な存在だ。最悪、秘密裏に処分されるということもあり得る。死に場所を変えるためにここへ来たわけではない以上、指を咥えて待つわけにはいかない。加えて、単純にヘレナが心配だ。多少なりとも俺にも責任を感じる以上、動けるなら動いた方が良い。俺はそう考えながら話を聞く。
彼は続けて語る。
「情報が集まるまで我々も君も動くことができない。歯痒いだろうが我慢してくれ。情報が集まり対策が打てる段階になったら再び招集をかける。詳しい話はその時にしよう。さて、次が最後の話、君たちが生活する場所だ。君たちのような人間が安全に暮らせるようこちらとしても最善を尽くした住居を用意した。また、君たちにとって異国の地である以上生活には不便が付きまとう。そのため、最も信頼できる筋からメイドを雇っている。屋敷に着けば出迎えてくれるはずだ」
この短期間でよくそこまで用意したものだと若干感心しながらも最後の一文が気になった。メイドということは女性になるのだが……流石に考えすぎか?
「メイド、ですか。確かにこれから生活をしていく上で頼りになる人物がいるのはありがたいことですが、住み込みなのでしょうか?」
「もちろんだ。君たちにあてがった屋敷はかなり広い。とても一人で管理できるものではないからな。そういう人物がいなければ君たちも困るだろうと考えたのだ」
どうやら俺達には監視が付きまとうようだ。もしかしたらルダティアに関する情報も欲しているのかもしれない。危険な橋を渡っている自覚は持っていたがアルダードに来て渡っているその危険な橋が今にも崩れそうなつり橋なのだと如実に感じる。そして、じんわりと手のひらに汗がにじむ。一筋縄ではいかない。
「配慮して下さりありがとうございます」
「礼には及ばない。とりあえず、指示があるまで君は待機だ。外出には審査が必要となるが、それ以外は自由にしてくれて構わない。生活に慣れるなりメイドと親交を深めるなり好きなようにしてくれ。さて、以上で話は終わりだ。質問があれば受け付けよう」
「では、一つだけ」
「言ってみたまえ」
「ヘレナと男性官僚を救出する場合、アルダードは軍を動かすのでしょうか」
「相手がこちらの交渉に応じなければ動くだろう。無論、人質の安全を確保したうえで、だ。だが、それはあくまで最終手段の一つ。本当に動くかどうかは私にも分からない」
「そうですか。もしそうなる場合、私に一つお願いがあります」
「お願いだと?」
「私もヘレナを助けるべく何かしら手伝いたいと考えております。許可が頂けるのなら救出作戦に参加したい所存です」
「……とりあえずは理由を聞こう」
「私としてもヘレナが連れ去られたというのに指を咥えて黙ってなどいられません。私は大切な仲間を助けたい、ただその一心です」
「君は確かルダティアの軍人だったな。イーサバルトからある程度の情報は貰っているから君の言わんとすることは分かる。しかし、我々としては実戦でいきなり君たちを使おうと考えていない。君たちの能力をしっかりと把握したうえで使わねばどのような被害が出るとも限らないからだ」
「それは承知しております。だから、一軍人として使ってほしいのです」
俺がそう言うと彼は眉間に皺を寄せた。怒っているというより考えているといった雰囲気だ。
「意気込みは結構だ。だが、その判断に至るにはまだまだ超えるべき難点が多い。状況次第だと思ってくれ」
ヘレナは俺がアルダードで生きるための命綱に等しい。彼女だけは手放すわけにはいかないのだ。だからこそ、ここで行動を起こさねば次はないものと考えなければならない。必死に頭を回転させ俺は言葉を紡いだ。
「私はルダティアでダイア徽章を手に入れた実績があります。作戦を遂行する能力は持ち合わせていると自負しています」
「ここでそれを決めることはできない。しかし、考慮はしよう。これで話は終わりだ」
彼はそう言うと顔の前で組んでいた腕を下ろす。
「分かりました。吉報を待っています」
「全ての話は終了した。今日一日はゆっくり休みたまえ」
こうして、俺はグリッドマン大佐の執務室を出た。外に出ると、運転手と護衛の人たちが現れた。話によると、これから今後の住居である屋敷に案内してくれるとのこと。俺は導かれるまま車に乗り込んだ。




