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第二章 単独行動1

 時刻は午前四時。夜が明ける前なのだが、謎の武装集団から襲撃を受けたことにより、当初の目的は大幅に前倒しされた。つまるところ、俺は本来の目的地に最速で護送されたのだ。


 俺はアルダードの軍人に連れられてとある一室の中にいる。目の前にはいかつい顔でこちらを眺める黒髪で壮年の男性がいた。彼は執務用の机に座っているが、机に両肘を立てて寄りかかり両手を口元に持ってきて表情を見せないようしている。こちらからは何とも話しかけにくい雰囲気の中彼は話し出した。


「報告は受けている。あれだけのことがあってすぐだというのに私と会ってくれたことに感謝しよう。私はグリッドマン・シュイラー。君たちの監督を任された者だ。しかし、君たちと相見える前にこんなことになるとは予想できなかった。私も軍に長らくいるがこのようなことは初めてだ」


 彼はそう言うと眉間の皺が濃くする。場の空気が若干重たくなった気がした。


 彼の階級章は――ルダティアの装飾と少し違うが――大佐であることが分かった。以前に本で見る機会があったため思い出せて何よりだ。流石に相応の役職が当てられている。また、ルダティアでは高級士官と話す機会など全くなかったため緊張して反射的に背筋を伸ばしてしまう。


「こちらこそ、このような中ありがとうございます。私をここへ呼んだのは現状把握が目的と捉えて良いのでしょうか?」


「それだけではない。相手の思惑通りに動くのはまずいと考えたからだ」


 どうやらアルダードの軍部は何か情報を掴んでいる様子だ。


「相手の思惑、ですか。このようなことをした相手に見当がついていると」


「現状、思い当たる節がないことはないという程度だ。少なくとも相手は君たちの情報を知り得た者であるというのは間違いない。それに伴う今後の予定を知っていたからこその凶行だ。あえてその予定を崩さなければ相手の思うつぼになってしまうだろう。それに、ここに居れば安全は保障できる。本来であれば別の者からその情報を伝える手筈になっていたがこの状況でそれは得策とは言えない。責任者である私が直接伝えた方が好都合だ」


 彼の話す様子からアルダード側としても、今回の件はかなり不本意であったことは疑いようがない。俺も事件が起きた当初は嘘がバレたのか、ルダティアが勘付いたのか、トリトンが仕掛けてきたのか、アルダードが裏切ったのかなどと考えたが、時間が経つにつれてどれも違っていると判断した。不可解な点が多いためどれも否定されたのだ。


 アルダード側は対抗策を講じてくれている。ありがたいことだ。もちろん様々な思惑があることは承知の上だが、今の俺には何もできないためそれに期待するしかない。


「分かりました。こちらも安全を保障してくれるのはありがたいです」


「君たちの能力を鑑みれば仕方のないことだ。さて、本題に入る前に情報を共有しておきたい。報告書は既に読ませてもらったが君の証言と食い違っていたら困るからな」


「分かりました。私から話しましょうか?」


「いや、私から話そう。先ほど読んだ報告書によれば、待ち伏せしていた謎の武装集団に襲われ君たちの片割れであるヘレナ嬢と我が国の男性官僚が連れ去られた。二人が乗っていた車はタイヤを撃ち抜かれ横転した。連れ去られた二人以外は負傷。そして横転した車の運転手は射殺されるものの君が乗っていた車と人員は無事だった。武装集団は横転によって気絶した二人を連れ去ると即座に退散した。軽くまとめるとこんなところか。どこかに間違い、もしくは訂正しておきたい箇所はないか?」


 俺が見た光景がかいつまんだ形だが伝わっていた。問題があるようには思えない。


「いいえ、ありません。報告書の通りです」


「そうか、ならば本題に入ろう。今回私が話したい点は三つだ。まず一つ目にこの件における疑問点の発見とその解消、二つ目に君たちの処遇と我々の動きについて、最後に君たちが生活することになる場所の紹介だ。質問は話が全て終わってから受け付ける。良いかな?」


「はい、分かりました」


「君も感じているだろうが今回の件には不可解なことが多い。どこで情報が漏れたのかなどもそうだが、私が特に気にしているのは襲撃側がなぜ君を狙わなかったのかという点だ。君がいなければヘレナ嬢は能力を発揮できない。それなのに、ヘレナ嬢は連れ去られ君は残った。実に理解ができない。それについて、君が話した全権大使のイーサバルトはヘレナ嬢が本当に口を利けないのか常に疑問を呈していた。もし、ヘレナ嬢が君の助力なしに口を開くことができるなら、今回の件でヘレナ嬢だけが連れ去られた理由にはなる。それについて君がどう考えているのか答えてもらいたい」


 彼はそう言うと鋭い視線を俺に向けた。


 やはり簡単に欺けるものではないか。現状、半信半疑といったところだが、やや疑問側に傾いていることは否めない。見方を変えればアルダード側は一定の信用を俺たちに向けていたと考えられるが、どうやら今回の件でそれが裏目に出て疑われる要因になってしまったようだ。


 ヘレナだけが連れ去られたというのは今回の件における不可解な部分ではあるが、それについて俺も確実にこうだと言える理由は持ち合わせていない。しかし、ヘレナだけが狙われたというのはよくよく考えればおかしいのだ。全権大使から話が伝わった事が確実である以上、半信半疑の目が向けられているという情報は全権大使の個人的な所感である。それなのに、ヘレナを襲った奴らが直接見て確認すらしていない中で、どうしてヘレナだけを狙う理由になるのか。トリトンではヘレナだけでなく俺も指名手配されていたしヘレナ単独で能力が使えるという情報が出る隙を俺は一片たりとも作っていない。そのような状況下でヘレナだけを狙うというのは襲撃側があまりにも危険を冒し過ぎている。


 また、アルダードの官僚が連れ去られているというのも不可解な点だ。本当にヘレナの能力を知っているならば官僚を一緒に連れ去る必要は一切ない。


 確実に言えることは俺たちの嘘はまだバレていない。綱渡りの綱が細くなっても千切れたわけではない。この質問を的確に切り返す方法は確実にあると自分に言い聞かせ、俺は持論を話し出す。


「私の考えとして、襲撃側は私と男性官僚を間違えたのだと考えます。車に乗る直前まで私とヘレナは同じ車に乗ることになっていました。しかし、出発寸前で安全のため別々の車に分けたのです。女性はヘレナだけなのですぐに判断できますが、私たちの顔が知れ渡っていない以上襲撃側は私と男性官僚を見分けることができません。だから、ヘレナの隣に座っていた男性官僚を私と勘違いし連れて行ったのです。それならば、男性官僚が連れ去られた理由に説明がつきます」


「つまり、襲撃側は君たち二人の確保が目標であり、ヘレナ嬢だけを確保するつもりはなかったと言いたいのだね」


「その通りです」


「なるほど。確かにそういう見方もできる。仮にそうであれば襲撃側はこちらに何らかの接触を試みるだろう。彼らからすれば必要なピースが欠けている状態。そのピースを補填するために男性官僚との交換を持ち掛けるなど考えられるな。参考にしておこう」


 どうやら俺の考えはしっかりと理解してくれた様子で、俺は心の中でほっと胸をなでおろす。かなりの威圧感を誇っているため、彼の一挙手一投足にどうしても意識が向いてしまうのだ。


「さて、一番の疑問を解消できたところで次へ行こう。今後における君の処遇なのだが、先ほど話した通り君たちは私の監督下に入る。より具体的に言えば、私の直属の部下となる。そのため、君たちへの指示はすべて私の認可を受けたものとなり、それ以外の命令は受けつけられない。つまり、君たちは私を通さない命令に関して事実上の拒否権を持つ」


 一瞬だけすごい権限を与えられているように聞こえたが、あくまで体裁がそうなっているだけということか。やはり俺達には相応の枷がはめられている。


「つまり、あなたを通した命令であれば私たちは従うほかないのですね」


「話が早くて助かる。縛り付けるとは言っても、君たちのような存在を他の人間に易々と使わせないための処置だ。トリトンのような捕虜待遇に比べれば天と地ほどの差があると思うが。とにかく、君たちを預かる以上私も迂闊な真似はできない。持ちつ持たれつの関係だ。この件が終わったらよろしく頼むよ」


「えぇ、こちらもよろしくお願いします。グリッドマン殿」


「言い忘れていたが、今後私を呼ぶ際は大佐をつけてくれ。その呼ばれ方はあまり好きではない」


「分かりました、グリッドマン大佐」


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