俺なりの戦い方で
「リウ一族は・・・・・ホントにデイビスを殺す気があったんですか?」
銃口を向けたまま、俺は劉姫倪に話しかけた。
俺が彼女とまともに戦りあったって、万に一つも勝ち目はない。
とりあえず会話で時間かせぎをして、チャンスを見出すしかない。
俺は冷や汗をたっぷりかきながら、銃把を握りなおした。
話題に関しては正直何でもよかったので、さっきから漠然と不思議に思っていたことを聞いてみた。
「ほんとキミって変な子ね。ショーン=アンダーソンくん?」
劉姫倪はにやりと笑った。
俺はフルネームを名乗った覚えないんだけど・・・。
ほんと、どこまでが仕組まれた出来事なんだ?
「普通 文智みたいな怪しい男助けないし、取材より命が大事だし、なにより月に移住できるならどんな汚い取引だって応じるもんでしょ?今だって文智を見捨てて逃げれば助かるかもしれないのに、豆鉄砲で猛獣に立ち向かうような真似してるし」
よし!
会話に乗ってきてくれた!
ここからだ!
なんとか生き残る糸口を見つけ出す!
「『困っている人は助けろ、記事は公正に書け』ってのが義父の遺言なんで」
俺はできるだけ余裕に見えるように、にっこり笑った。
「姫倪さん、あなたは強い。ウェンよりも。本気でデイビスを暗殺するつもりなら、お目付け役なんてまだるっこしいことしないで、あなたが殺せばよかったでしょう?それにウェンの幼馴染の秀さんってヒト。彼みたいなヒトが選ばれていれば、もっと危険を避けたやり方もあった筈。なのにウェンが選ばれたのなら、それには何か理由がある。もし無いとしたら・・・」
「したら?」
ますます彼女はニヤニヤ笑って先を促した。
「悪いけどリウ一族の指導者は、スッゲー間抜けだ」
言った瞬間、空気が凍った。
やばい!
失敗した!
地雷踏んだ!
瞬き一瞬の間に、銃口の先1mほどの至近距離に劉姫倪が自然体で立っていた。
えぇ!
10mは離れてたのに!!
ほんっと劉姫倪の性能は反則だ。
「言葉使いには気をつけてね★ でないとうっかり殺しちゃうかも?」
「・・・はい」
俺は短銃を構えたままだ。
でも、彼女は全く意に介してない。
そうだよな。
このヒトだったら発射された弾丸だって避けられそう・・・。
「でも、話はおもしろいわ。で?ショーンくんはなんで文智が選ばれたと思うの?」
「・・・・・」
えっとなんでだ?
考えろ!
ただ正解ってだけじゃダメだぞ。
彼女の機嫌を損ねるなよ、俺!
「デイビスを殺したい人間と、デイビスを守りたい人間が同時に存在してる・・・とか。違いますか?」
全くの直観だ。
けど。
彼女の真っ黒い瞳が面白そうに光った。
よし、ビンゴ!!
このまま彼女の気を引いて・・・助かる確信があるわけじゃないけれど。
「リウ一族の顧客は各界の有力者。あの殺人人形の老人も昔からの得意客だったんだろうけど。たとえば・・・そうか!レディ・バグジー!彼女もリウ一族と繋がりがあったとしたら。彼女の情報網ならデイビス暗殺計画を独自につかんだ可能性も高い。だから・・・姫倪さんや秀さんじゃなく、ウェンだったのか」
俺の直観が導いた答え。
え、でも、これが正解だとしたら。
ウェンがすげぇ哀れだろ?
「なに?自分だけで納得してないで、言ってみて?」
劉姫倪はすっごく楽しそうだ。
ウェンが気絶しててよかった。
あんまり聞かせたくないぞ、これ。
「つまりリウ一族は、同時に二つの相反する命題を抱えていた。月の老紳士は多分昔からの上得意で、暗殺依頼を断ることは当然できない。けどデイビスを殺してレディ・バグジーを敵に回すのも一族にとってはハイリスクでどうしても避けたい。だから老紳士が納得するような本格的な暗殺計画を実行して、それが失敗する必要があった・・・。なら姫倪さん、あなたの役割は単なるお目付け役じゃなかったはず。もしウェン自身がデイビスを助けなかったら、もしかしてあなたがデイビスを助けて計画を潰してたんじゃないですか?リウ一族とはまったく関係ない第三者のふりをして」
俺はウェンの様子を確かめた。
ウェンはさっきの場所から全く動いてない。
「リウ一族は最初からウェンの手に余るような難しい任務を与えて、失敗することを望んでた。それで期待通りの結果を得たのに、ウェンだけ処刑するなんて。それじゃただの捨て駒じゃないですか。一族の上層部から嫌われてるのは本人も自覚あったみたいですけど、それでもこんな風に切り捨てられるほど努力を怠ってたわけじゃないでしょ?ウェンを助けてあげてください。お願いします。姫倪さ・・」
「ブッ、わはははははははははは!」
俺が全部言い終える前に、劉姫倪は笑い出した。
うん、みごとな大爆笑だ。
「文智。起きてんでしょ?そのまま動かずに聞きなさい」
え、ウェン起きてんの?
あー・・・。
「ショーンくん。お見事。あなたの推理通り、今回の計画の文智の役どころはそれらしく暗殺してしくじる道化役よ」
あぁ、当たっちゃったか。
「あ、ちょっと。銃口を下げないで!」
「え、はい!」
なんか気が抜けて、無意識に短銃を持つ腕が下がってたらしい。
でも、もしもし?
それって、銃口を向けられてるヒトが言うセリフじゃないよ、姫倪さん?
「気を抜かないで。アタシたち監視られてるのよ。・・・あそこから」
そう言って劉姫倪が示した先には、白銀に輝く新月と青白い星々が輝いていた。




