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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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第8話:遠くから見ていた子

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二年生、三年生と、時間はわりと早く過ぎた。


特筆すべき大事件はなく、あったといえばイツキくんが懲りずに挑戦を繰り返しながら私に負け続けたことと、


シンくんが図書室の常連として先生に「本のことは清井くんに聞きなさい」と言わしめるようになったことくらいだ。


私たち三人組は変わらずそのままで、クラスが別になっても関係が途切れることはなかった。


さらに、クラスの中での私の立ち位置は、二年生の時点でほぼ固まっていた。


先生に信頼され、男子には一緒に遊ぼうと声をかけられ、女子からは何かと相談を持ちかけられる。


三年生になってもそれは変わらなかった。変わるどころか、学年をまたいで私の名前が広まるようになったほどだ。


(幼稚園から積み上げてきたものが、形になってきてるわね)


ここまでは全て順調だ。シンくんへの依存の積上げも、イツキくんとのいい感じのライバル関係も、クラスでの立ち位置も、全部、思い描いた通りに進んでいた。


なので、そろそろ次の一手が欲しいとも思い始めてみようかと思い始めていた。


---



四年生になった春、クラス替えがあった。


今年は三人とも同じクラスだ。愛鈴が教室に入った瞬間、


「また同じクラスだな!よろしく!」


イツキくんがシンくんの肩をバンバンと叩いた。


「……いたい」


「悪い!でも嬉しくて!」


「……うん、ぼくも嬉しい」


シンくんが小さくそう言って、本を開いた。


イツキくんはそれを見てにやっとしてから、自分の席についた。


(変わってないわね、この二人)


三年が経って、イツキくんは背が伸び、シンくんは少し話せるようになった。


でもこのやりとりだけは、一年生の頃と何も変わっていない。


私はそれが、少しだけ好きだった。


---





その日の昼休み。


廊下で女の子たちとしゃべっていた私は、なんとなく教室の中に目を向けた。


窓際の席に、前髪の長い女の子がいる。


顔の半分が前髪に隠れていて、地味な面立ちな女の子が、ぼんやりと窓の外を眺めている。


賑やかに動き回るクラスメイトたちの中で、その子だけが静止していた。


(……誰だったかしら)


記憶をたぐって、思い出した。


牧瀬豊


一年生の頃からずっと同じクラスだったのに、一度も話したことがない子だ。


いつも端の方にいて、本を読むか特定の子とだけ話している少しインキャな子だ。


ただ、そういえばずっと前から、あの子から視線を幾度なく感じていたことを思い出したのだ。


遠くから、静かに、こちらを見ていたような気がする。


(嫌われているわけじゃなさそうだけど……何かしら?)


視線を外そうとした瞬間のことだ。


豊が机の上のものを取ろうとして、体をひねった拍子に、前髪がさっと流れた。


一瞬だった。本当に一瞬だけ、前髪に隠れた豊の顔の半分が見えた。


(あら...!?)


私は目を細めた。


出てきた素顔が、想像とぜんぜん違った。


鼻筋が通っている。輪郭が綺麗だ。


目の形は前髪の奥に隠れていたとは思えないほど、整っていた。


(……なるほど)


前世の記憶が、じわりと動いた。


男だった頃に否応なく磨かれた、女の子を見る眼だ。


あの子は前髪で顔を隠して、姿勢も小さくして、存在を消そうとしている。


でも素材は


(磨いたら、かなり化けるわよ、あれは)


コンプレックスで自分を隠している子ほど、誰かに引っ張り出してもらうと急に変わる。


前世でも、そういうパターンを何度も見てきた。


そして、隠れているということは、まだ誰にも見つかっていない原石ということでもある。


(次は女の子にしてもいいわね)


言葉が浮かんだ瞬間、私の中で何かがかちりと噛み合う音がした。



シンくんは幼馴染枠、イツキくんはライバル枠、





(次は女の子に好かれる体験を、楽しんでみてもいいよね?)



---

数日後の昼休み、教室に人が少なくなった頃を見計らって、私は豊の席に歩いていった。


豊は窓際でぼんやりと外を眺めていた。


豊は近くに不意な気配を感じて顔を上げ、肩をびくっと震わせた。


「ねぇ、牧瀬さんって」


愛鈴は断りなく隣の椅子を引いて、腰を下ろした。


「よく私のこと見てるわよね」


「え?……ち、ちがっ——」


「別に嫌とは言ってないわよ?」


私はそう言って、まっすぐ豊の顔を見た。前髪の奥で、目が揺れている。


(やっぱり、きれいな目をしてるじゃない)


「牧瀬さんってなんで前髪、そんなに長くしてるの?」


「……」


「顔、隠したいの?」


豊は何も言わなかった。でも、その黙り方が答えだった。


「牧瀬さん可愛いのに。もったいないと思うわよ」


私はそれだけ言い放つと、立ち上がり椅子を元に戻した。


(ふふ。これで少しは、警戒が解けたかしら)


愛鈴は振り返らなかったが、豊の視線が背中についてくるのが、なんとなくわかった。


---


それからというもの、私は折を見て豊に話しかけるようにした。


毎日ではない。


週に一度か二度、「ここ、いい?」と隣に座るくらいのペースで。


豊は最初、私が近づくたびにびくっとしていた。


でも一ヶ月もすれば肩が揺れなくなった。


二ヶ月もすれば、私が来るのを待っているような顔をするようになった。


(この子、吸い寄せられるのが早いわね)


依存体質。最初の直感は当たっていた。


四年生が終わる頃には、豊は私が声をかける前に隣に来るようになっていた。

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