表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/21

第7話:なりゆきの、三人

---


気がつけば、シンくんとイツキくんが仲良くなっていた。


きっかけは昼休みだった。ある日、イツキくんが校庭でドッジボールをしていた男の子グループに、シンくんを誘ったらしい。「来いよ」一言言っただけで、シンくんはためらいながらもついていったと、後から聞いた。


私はその日、女の子たちと教室にいた。前世の経験から知っている、女子グループのコミュニケーションは、少し疎かにするだけですぐに関係が変わる。


シンくんの動向を横目で追いたいのはやまやまだが、ここを欠かすのは賢くない。それに、クラスの人間関係を把握するなら、この輪の中ほど効率のいい場所もなかった。


(……それに、女の子になったからにはガールズトークしてみたかったのよね♡)


誰がかっこいいとか、誰が誰のことを好きだとか、前世では混ざれなかった会話に、今の私はちゃんと参加できている。そのことに、私は少し浮かれていた。


気がつくと窓から見える校庭に、なんとなく目がいった。輪の中にシンくんがいた。端の方で様子をうかがうように立っていたが、イツキくんがボールを回してきた瞬間、シンくんはじっとそれを見て、タイミングを計ってから投げた。


外れたけれど、男の子たちは「惜しい!」と言いながら笑った。シンくんが、つられたように笑った。


(……あら)


それは私が一度も見たことのない顔だった。


---


それからというもの、シンくんは昼休みに男の子グループにいることが増えた。イツキくんが毎回声をかけているらしい。慣れてくると、シンくんの方から輪の端に加わるようになった。


(シンくんとイツキくんが勝手に仲良くなってくれるなら、手間が省けてちょうどいいわ)


そう思いながら、なぜか私はその様子をついつい目で追っていた。


放課後、シンくんが「今日ドッジボールで一回当てたんだ」と嬉しそうに話してきた。


「そう。見てたわよ」


「え、みてたの?」


「ちらっとね」


シンくんが少し目を丸くして、それから耳が赤くなった。


「……じゃあ、あたったとこも、みてた?」


「見てたわ。痛くなかった?」


「……はずかしい」


(女の子に自分の情けない姿は見られたくないものね)


おかしくて、少し笑ってしまった。


それから私は翌日の昼休みも、気づけば窓の方を見ていた。


---


九月。運動会の朝、準備体操もまだのうちから、背後で名前を呼ばれた。


「愛鈴! 勝負だ!」


振り返る前からわかった。この声量で私の名前を呼ぶ人間は、この学校に一人しかいない。


案の定、イツキくんが校庭を全力で駆けてくるところだった。競技はまだ始まっていない。「走らないでください!」と先生に怒鳴られながら。


「あら、イツキくん」


「五十メートル走、クラス対抗リレー、全部だ! 今日こそ全部俺が勝つ!」


「あなた、ずっとそれ言ってるわね」


「今日は違う! 絶対勝つ!」


イツキくんはびしっと私に指を差して、また全力で走り去っていった。「危ないから走り回るな!」と、行きと同じ先生にまた怒鳴られながら。


---


徒競走の本番、スタートラインに並ぶと、隣のイツキくんが低い姿勢を作っていた。前よりずっと形になっている。


「この必勝フォームでお前を倒す!」


「へぇ、綺麗なフォーね。練習したの?」


「あぁ。特訓してきたんだ。だから今日は勝てる」


(自分なりにちゃんと考えてるのね)


悪くない目だった。本気の目だった。でも...


「よーい……」


ピストルが鳴った瞬間、私は地面を蹴った。六歳の体は軽い。腕の振りや脚の動かし方さえ知っていれば、ただ本能で走るより速くなれる。


ゴールテープを切った時、後ろの足音はまだ遠かった。


「……また負けた」


イツキくんが息を整えながら歩いてきた。悔しさで顔が歪んでいる。


「……スタートは、今まででいちばん良かった気がするのに」


「ええ。そこは認めてあげる」


「一生懸命練習したのに...」


イツキくんの目に涙が浮かび出した。


(あらあら、少しやりすぎちゃったかしら。好感度調整のためには負けてあげた方が良かったかも?)


私は内心慌てつつイツキくんの頭に手を置いた。


「一生懸命やったんだから、そんな顔しないの」


イツキくんは何も言わなかった。涙が目の端に光っている。私はそのまま、ゆっくりと頭を撫でた。


イツキくんはびくっと肩を揺らした。


「っ……な、なにしてんだよ?」


「撫でてるのよ」


「み、みんなに見られる……!」


「誰も見てないわよ。みんな次の種目で忙しいわ」


イツキくんは「うぐ」と唸って、やがてそろそろとこちらを向いた。至近距離で目が合った瞬間、赤かった顔がさらに赤くなった。


(あら。照れてるじゃない)


泣き顔と赤面が混ざって、ひどい顔のはずなのに——おかしくて、私は少し笑ってしまった。


「……なんで笑うんだよ」


「かわいいと思って」


「っ……!」


イツキくんがぷいっと顔を背けた。でも、もう泣き止んでいた。


(これで私への意識は十分かしら)


私が手を離しかけた時、イツキくんがぼそっと言った。


「……来年こそ、絶対勝つ」


振り向いた目の奥に、涙の代わりに別の光が戻っていた。


「ええ、受けて立ってあげる」


イツキくんは一度だけこちらを振り返って、それからきびすを返した。その背中は、もういつものイツキくんだった。


---


その後のクラス対抗リレーでは、私がアンカーだった。


バトンを受け取って走り出す。コーナーを曲がる手前で、チラッと観客席が見えた。


シンくんが立ち上がっていた。両手を口に当てて、ただまっすぐこちらを見ていた。隣にはイツキくんもいて、二人並んで同じ方向を向いていた。イツキくんの耳は、まだ少し赤かった。


(あら……)


ゴールはもちろん一着だった。


---


「すごかったよ、愛鈴ちゃん!」シンくんが言う。「最後のリレー、僕見てたよ!」


「ええ、知ってるわよ」


「え」


「私のこと応援してくれてたでしょ」


シンくんが「あ」という顔をして赤面した。「……きづいてた?」


「ちゃんとね。嬉しかったわ。おかげで一着になれたもん」


イツキくんが「俺も応援してたぞ!」と割り込んできた。「ありがとう。でもあなたは途中まで対戦相手だったじゃない」「うぐ……それはそうだけど!」


しばらく歩いてから、シンくんがぽつりと言った。


「……愛鈴ちゃんが走ってる時さ」


「うん?」


「……なんか、すごくきれいだった」


イツキくんが「お、シン?」とにやにやした。シンくんはそこで自分が何を言ったか気づいたのか、みるみる耳まで赤くなった。


「ち、ちがくて、はしりかたが、きれいって、そういう、いみで」


「ふふ。ありがとう、シンくん♡」


---


運動会から数週間が経った。


シンくんとイツキくんが男の子グループの中にいる時間は、以前より少し長くなっていた。私はそれを見て、自分の中を点検した。計算が崩れていないかどうか。不満があるかどうか。


どちらでもなかった。ただ、なんとなく、視線が別の場所に向くようになっていた。


ふと女の子たちの輪に目を向ける。賑やかな子、おとなしい子、いつも誰かと一緒の子。


それとは別に窓際に、前髪の長い女の子がいた。


いつも静かで、誰ともあまり話していない。名前もすぐに出てこない。でもその子は、ときどきこちらを見ていた気がする。


(あの子...)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ