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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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20/22

第20話:春のお返し

3月14日


ホワイトデーというやつは、バレンタインから一ヶ月も経ってやってくる割に、

教室の空気をまたあの頃に戻してしまう不思議なイベントだ。


朝のホームルーム前から、男子グループがざわざわしている。


「お前、返すの?」


「貰ったのはちゃんと返さないとやばいんじゃね?」


「お前手作り?まじかよ」


「チョコもらったの母ちゃんにバレて、手伝ってもらった」


(みんな青春してるわね)


私は教科書を机に出しながら、そっと教室を見渡した。


シンくんは——


(あら)


今日に限って、登校が早い。


そして珍しく、本を読まずに、ただ窓の外をぼんやりと眺めている。


(どうしたのかしら?シンくんにしては珍しいわね)


近くの女の子たちと昨日のドラマの話をしながら、

私は先生が来るまでシンくんの方を眺めながら過ごした。


---


授業中も、シンくんの様子は普段と違った。


当てられた問題にはしっかり答えられているのに、

その合間合間になんとなく視線が宙を泳いでいる。


もしかして、ホワイトデーのお返しのことで緊張してる?


(シンくんの性格からしてちゃんとお返しはしてくれるだろうけど、いつになるかしら?)


学校で渡すのだろうか、それとも家に帰ってから尋ねてくるのだろうか。


普段は大人しい彼が男らしい一面を見せるのか、

それとも相変わらずの優男っぷりを見せてくれるのか。


どちらにしても私にとっては、

シンくんが私を想ってする行動に興味津々なのであった。


---


放課後、豊ちゃんと帰り支度をしていると、


「愛鈴ちゃん」


後ろから、シンくんに声を掛けられた。


私は豊ちゃんと目が合い、豊ちゃんが小さく笑って「私、先に外で待ってるね」と、

なんとなく察したような顔で教室を出て行った。


豊ちゃんを見送り振り向くと、

シンくんが少し緊張した面立ちで立っていた。


手に、紙袋を持っている。


「これ、ホワイトデーのお返し...」


「あら、ありがとう!」


(あわあわしてる。かわいい〜)


私は紙袋を受け取った。


中を覗くと、ちいさなかわいいクッキーの袋と、

それから——薄くて細長い、綺麗な栞が一枚入っていた。


「これは...しおり?」


「うん、クッキーだけじゃ寂しいのと、あと本屋さんで可愛いのがあって、愛鈴ちゃんに似合うかなって」


シンくんが赤くなりながら早口になって言った。


栞には細い花柄の刺繍が入っていて、端にリボンがついている。


「かわいい...。ありがとうシンくん。大切にするわ」


「うん。あ、クッキーも一応ちゃんとしたやつだから。市販のだけど」


「ふふ。シンくんの手作りでも良かったのに」


「そ、それは...僕料理上手くないし、愛鈴ちゃんにそんなの食べさせられないよ」


「あら、じゃあいつかは期待していいのかしら?」


「う、うん。いつかね」


「約束よ!じゃあ豊ちゃんも待ってるし帰りましょうか。」


「うん、カバン取ってくるね」


---


教室を出た後、二人で昇降口へ向かいながら自然と話が続いた。


「そういえば」


シンくんが歩きながら口を開いた。


「愛鈴ちゃん、中学どこにするってもう決めたの?」


「ええ、藤森中のつもりよ。前に豊ちゃんとも話してたの」


「そっか。僕も藤森中。樹も同じだって言ってたから、みんな一緒かな」


「そうなるわね」


(実は知ってたのよね。ママがシンくんのお母様から聞いて来てたから)


もしシンが私立を受験するつもりであれば、

豊を説得して私立に転向させる予定であった。


私が教えれば豊でも塾なしでもなんとかなったであろう。


幸いなことにシンくんが公立に決めてくれたので、

それは杞憂に終わったのである。


「もしかしたら、中学は別々になっちゃうかもって少しだけ思ってたんだ」


「私が私立に行ったりするかもって?」


「うん、愛鈴ちゃん頭いいし」


「行かないわよ。遠いし、お金もかかるもの」


シンくんが「そっか」と、今度は少し安堵したような声で言うと、


「今後ともよろしくね」


少しだけ照れたように言った。


「えぇ、中学でも仲良くしてね?」


「こ、こちらこそだよ。僕愛鈴ちゃん以外の女の子で仲良い子いないし...」


「そうかしら?シンくん優しいし、中学に入ったらモテちゃうかもよ?」


実は私が女の子グループに牽制をしているので、シンくんに近寄ることは今のところないのだが、

中学に入ったらそれも限界が来るかもしれない。


(シンくんにも私以外の女の子の経験を積ませたほうがいいかしら?)


基本的に彼の初体験は全て自分で埋め尽くしたいと考えている愛鈴であるが、

最近になって他の女で得た経験をぶつけてくるシンくんを、私が上書きするのもいいかもしれないと思い始めて来た。


(まぁ、中学で手頃な子がいたら、誘導することも考えましょうか)


私は人の恋心を弄ぶ下衆なことを考えながら、

シンくんと昇降口への道を歩き続けていた。


---


外に出ると、豊ちゃんがイツキくんと並んで立っていた。


(あら、二人で待ってたのね)


「おーい、遅いぞ!何してたんだ?」


イツキくんが、開口一番そう言った。


「少し話してたのよ」


「何の話だ?」


「中学の話」


「あ、そっか——俺、藤森中!愛鈴は?」


「私も藤森中よ」


「よっしゃ!じゃあ俺たち一緒だな!」


イツキくんが嬉しそうに声を上げた。


「牧瀬も藤森中だよな?」


「う、うん。そのつもり……」


豊ちゃんが少し照れたように言った。


「じゃあ全員一緒!最高じゃん!」


(最初からこの四人は揃えるつもりだったわよ)


「やばい、超楽しみ!中学こそ一緒にバスケしようぜ、シン!」


「え〜、運動部はちょっと考えてるけど、まだ決めてないよ」


「マジで!?じゃあバスケ部来いよ!」


「うーん……どうしようかな」


「なんで迷うんだよ!」


(ふふ。相変わらずね)


「愛鈴は?部活どうすんだ?」


イツキくんが振り返った。


「私も考え中ね。でも、シンくんが運動部に入るなら、そこのマネージャーになろうかしら」


一瞬、静かになった。


シンくんが「え」と言ったきり固まっていた。


イツキくんと豊ちゃんが「……は?」という顔をしている。


「マネージャーって——なんで?」


「あら、嫌だった?」


「そういうわけじゃないけど——」


シンくんがなんとか言葉を探しているのを見て、私は少しだけ口角を上げた。


「そういうわけで、シンくん部活選び頑張ってね!」


(まあ、本当に入るかどうかはシンくん次第だけれど)


あと一年で中学に上がる。


四人で並んで、春の帰り道を歩きながら、私は今後どのようにシンくんで楽しもうか、

捗る妄想が表情に出ない様に精一杯であった。

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