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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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第19話:あなたに渡すチョコ-本命

---


朝、家を出る前に冷蔵庫を開けた。


そこには綺麗にラッピングされたチョコが、きちんと並んでいる。


友チョコの小さな星形が何個も、そしてその隣にハート型のチョコが、2つ。


私はそれを丁寧に鞄にしまって、玄関を出た。


(さて、今日も学校を楽しみましょうか)


---


その日の教室は、いつもと違う空気が漂っていた。


女子たちがきゃいきゃいとチョコを交換し合って楽しんでいるのを横目に、

男子はソワソワと、やたら落ち着きがない。


私はそんな教室をひとわたり眺めて、

鞄を机に下ろした。


(さて、まずは私も友チョコから配りましょうか)


朝のホームルーム前、鞄からチョコの袋を取り出すと、

すぐに気づいた子が声をあげた。


「え、愛鈴ちゃんチョコ持ってきたの!?」


「えぇ、友チョコ。はい、どうぞ」


「わあ、かわいい!星形だ!」


「ありがとう!私も持ってきたんだけど、交換してくれる?」


「もちろん」


「え、私も!愛鈴ちゃんに渡したかったんだよね〜!」


一人に渡したとたん、あちこちから声があがり始めた。


「愛鈴ちゃん、クラス全員に配るの?」


「そうよ。皆仲良くしてくれてるから」


「えっすごい、愛鈴ちゃんのチョコめちゃ美味しい……」


「ラッピングも綺麗で開けるの勿体無い〜」


受け取った子がぱっと顔を明るくするのを確認しながら、次の子へ。また次の子へ。


「ねえ愛鈴ちゃん、今度どこか遊びに行かない?バレンタイン終わったらみんなでカラオケしたいな〜」


「いいわね。行く日が決まったらあとでメッセージちょうだい」


「やった!愛鈴ちゃん来てくれるならみんなも喜ぶよ〜」


「私も私も!」


「絶対来てね!」


「ええ、楽しみにしてるわ」


(全員が私に好意的でいてくれると、動きやすくていいわね)


テンポよくこなしていくうちに、

教室の女子の輪がじわじわと私のまわりに集まってきた。


「あ、これ愛鈴ちゃんに」


「ありがとう。かわいい動物の形ね」


「これも!手作りなんだけど……うまくできたかわからなくて」


「かわいいじゃない。とっても上手よ」


「えへへ、本当に?よかった〜!」


友チョコの交換はどんどん連鎖していって、

ちょっとした賑やかさになった。


男子たちがこちらをちらちら見ているのに気づいたが、

私も含む女の子たちは見て見ぬふりで友チョコの交換を続けた。


---


豊ちゃんと目が合ったのは、ひと段落したときだった。


「豊ちゃんにも、はい」


「え——あ、ありがとう……!」


昨日のことがあるから、豊ちゃんはすでに特別なチョコをもらっている。


でも、ここで豊ちゃんだけ素通りすれば、周りに妙な感じを与えてしまうだろう。


(カモフラージュよ。友チョコは友チョコとして、ちゃんと渡しておかないとね)


豊ちゃんはチョコを受け取りながら、

ちらりと私を見た。


その目が「昨日のとは別に、ってこと?」と言っているようだった。


「二個もらっちゃった……」と、豊ちゃんが小さく笑った。


「いいじゃない。多いほうが嬉しいでしょ」


「……うん、すごく嬉しい」


なんだか、少し照れたように言った。


私も、小さく笑い返した。


---


ホームルームが終わり、一時間目が始まる前の短い休み時間。


女子たちは友チョコの交換を終え、

一部の女子は男子へ義理チョコや本命を渡し始めている。


教室内全体が甘酸っぱい雰囲気に包まれているような感じだ。


(さて、次はイツキくんね)


イツキくんは教室の後ろで友達と喋っていた。


今日も変わらず、机の端に腰を乗せて大声で笑っていた。


シンくんがその隣にいる。


(都合がいいわ。せっかくだから、見ててもらいましょ)


私はさらっと近づいて、鞄からチョコを取り出した。


「イツキくん。はい、これ」


イツキくんが振り向いた。


「……え?」


「チョコ。いつもお世話になってるから、感謝の気持ちなんだけど...」


すこし頬を赤らめて差し出すと、イツキくんが目を丸くした。


「な——俺に?なんで?」


「言ったじゃない。感謝よ。恥ずかしいから何度も言わせないで」


「いや、だから——」


「もしかして、要らなかった?」

極め付けに目を潤ませて言うと、イツキくんは狼狽えた様な表情をした。


「う……」


イツキくんは、ちらっとシンくんを見て、またこちらを見た。


それから——耳まで赤くなりながら、チョコを受け取った。


「お、おう。サンキュ...」


「よかった...!」


私は満面の笑みでそれだけ言い、踵を返した。


背後でクラスが一気にざわめいた。


「え、樹チョコもらったの?」


「愛鈴ちゃん、なんで神崎に?」


「え、もしかして……」


(ふふ。思った通りの反応ね)


廊下に出たところで、少しだけ口角が上がった。


でも今日の本番は、まだこれからよ。


廊下から教室をこっそり覗くと、

シンくんがありえないと困惑した表情でイツキくんを見ているのが視界に入った。


---


昼休み、イツキくんへのチョコのざわつきがまだ教室の空気に残っている中、


私はシンくんが廊下に出るタイミングを目で追っていた。


午前中の授業、私は時折こちらを向く視線を何度か感じていた。


(それが誰のものなのか...)


少し間を置いて、私も廊下に出ると、向こうからシンくんが帰ってくるところだった。


私はすれ違いざまに


「ねぇ、シンくん」


「あ、愛鈴ちゃん...?」


周囲に人がいないのを確かめてから、私はすっとシンくんの耳元に近づいた。


「今日の放課後、体育館裏に来てくれる?」


それだけ言って、返事を聞かずに歩き去った。


(午後の授業は、ちゃーんと集中できるかしらね?)


---


── 間話・シンの午後 ──


「……体育館裏」


愛鈴ちゃんの声がまだ耳の近くに残っているような気がして、

僕は廊下の壁にもたれた。


チョコ、だろうか。


午前中、イツキくんが愛鈴ちゃんからチョコをもらったとき、

教室が一気にざわついた。


イツキくんは真っ赤な顔で「別にそういうんじゃないから!」と言い張っていたけれど、

何人かは同じ疑問を感じたことだろう。


僕も、感じていたのだから。


(愛鈴ちゃんはイツキくんのことが好きなのか?)


そう思ったとき、どんな気持ちだったのか。うまく整理できなかった。


「放課後、体育館裏に来てくれる?」


あの声が、また頭の中で再生される。


チョコなのかもしれない。


でも別の用事かもしれない。

体育館裏で二人きり、ということは——


「おい、シン!ぼーっとしてどうした?」


イツキに肩を叩かれて、僕は我に返った。


「……なんでもない」


「顔赤いぞ」


「なんでもないったら」


当然ながら、午後の授業はほとんど頭に入らなかった。


---


放課後、体育館裏に来てみると、

シンくんがすでに壁に寄りかかって待っていた。


私は足早に駆け寄って


「シンくん!遅くなってごめんなさい」


シンくんもこちらに気付き、静かに微笑んだ。


「いや、僕も今来たところだよ。それで、どうしたのかな?こんな場所に呼び出して...」


(ちゃんとドキドキしてきてくれたじゃない。顔に出てるわよ、シンくん)


少し赤くなった顔を見て、私は内心でそっと笑った。


私は鞄の中から、ラッピングされたハート型のチョコを取り出した。


「——あの夜のお礼。少し遅くなったけれど、受け取ってくれる?」


シンくんが、目を細めた。


「あの夜って……野外学習の?」


私は答えなかった。ただ、少しだけ微笑んで、チョコを差し出した。


シンくんは、しばらくそれを見つめていた。


それから、ゆっくりと手を伸ばして受け取った。


(......今よ!)


チョコを受け取ったシンくんの手に、少しだけ指が触れる様に誘導し、

ビクッ動揺したような顔をしてみせながら、顔を紅潮させる。


「っ——そ、それだけだから。じゃ、じゃあ、また明日ね!」


そして早口で言い、顔を伏せるようにして彼の前から駆け出す。


「あ、愛鈴ちゃん!」


後ろでシンくんが何か言っていたけれど、私は振り返らずに体育館を後にした。


---


帰り道、私は教室で合流した豊ちゃんと並んで歩いていた。


「どうだった?」


豊ちゃんが聞いてきた。


「なにが?」


「チョコ、さっきいなかったけど、清井くんに渡して来たんじゃないの?」


「えぇ、無事に渡せたわ」


「そう...」


それだけで、豊ちゃんはそれ以上聞かなかった。


夕暮れの中を、二人でしばらく黙って歩く。


「豊ちゃん」


「なに?」


「今日はありがとう。昨日も、その前もいつも」


豊ちゃんが少し驚いたような顔をした。


「……ううん、こちらこそありがとうだよ」


それから、ふふっと小さく笑った。


「愛鈴ちゃんって、急に素直になるよね」


「そう?」


「うん。すっごくかわいい」


(そうかしら?)


豊ちゃんはふふっと微笑みながら私の腕に寄り添って来た。


腕を組みながら二人で道を歩く。


豊ちゃんの体温が、腕を通して伝わってくる。


「豊ちゃんの身体、あったかくて安心するわ」


「え、愛鈴ちゃんそんなこと言うと恥ずかしいよ……」


豊ちゃんが顔を赤くしながら、それでも腕をほどこうとしなかった。


「ねえ豊ちゃん」


「な、なに?」


「いつもありがとう。私、豊ちゃんにいっぱい助けてもらってるわね」


豊ちゃんが少しの間黙って、


「……私の方こそ、いっぱいいっぱい、ありがとう。愛鈴ちゃんがいるから頑張れるの」


と、小さな声で言った。


なんだかその言い方がおかしくて、


「私がいるからなんだ。じゃあずっと一緒にいないとね?」


「〜〜〜!もう、からかわないで!」


「からかってないわよ。素直に嬉しかったって言ってるの」


豊ちゃんがますます赤くなった。


私は腕を組んだまま、豊ちゃんの肩にそっと頭を乗せてみた。


「愛鈴ちゃん?」


「少しだけ、いい?」


「……うん」


豊ちゃんの肩は、思っていたよりずっとやわらかかった。


ほんのり甘い香りがして、豊ちゃんの鼓動がドクンドクンと伝わってくる。


(ふふ。緊張してるのね)


……でも。


(私も——)


私たちは夕暮れの道を、二人でゆっくり歩いて帰っていった。


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