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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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第18話:あなたに渡すチョコ-友チョコ

---


放課後のホームルームが終わると、教室はざわめいていた。


明日はバレンタインデーだ。


女子たちは手帳に何かを書き込んだり、こそこそとグループで固まって話し合ったりしている。


男子はわかっているのかいないのか、そわそわしながら女子をチラチラ見ている。


(さて。早めに帰って明日の準備をしなきゃね)


私はそんな教室をぐるりと見渡して、静かに鞄を持った。


「豊ちゃん」


「わっ——な、なに?」


声をかけると、豊ちゃんは変なくらい大きく反応した。

何かを考え込んでいたのだろうか。


「今日、うちに来てくれない?一人だと作りきれないから、手伝ってほしいの」


「チョコ……作るの?」


「そう、友チョコ。クラスの女の子みんなに配るつもりだから、結構な量なのよ」


豊ちゃんはしばらく考えるそぶりを見せてから、


「……うん、いいよ」


と、少し小さな声で答えた。


「ありがとう!じゃあ後でうちに来てくれるかしら?」


「わかった。荷物置いたらすぐ行くね」


豊ちゃんはそういうと、足早に教室を後にした。


(これでよし、と。バレンタインだけど、豊ちゃんにもしっかりアピールしておかないとね)


---


私が家に帰ってキッチンで準備をしていると、チャイムが鳴った。


「豊ちゃん、いらっしゃい。早かったわね」


「えへへ...ちょっと急いじゃった。お邪魔します。」


「エプロン、貸してあげるわ」


キッチンに材料を並べながら言うと、


豊ちゃんはぎこちない手つきでエプロンを広げた。


ひもをうしろで結ぼうとして、なかなか上手くいかない。


もじもじしている姿が少し可笑しくて、


「貸して。結んであげる」


後ろに回って、ヒモをキュッと縛ってあげた。


「あ、ありがとう……ごめんね、あまり料理しないからエプロンとか慣れてなくて...」


「大丈夫よ。まず友チョコから作りましょ!型に流して固めるだけだから」


「う、うん!」


豊ちゃんと手分けしてチョコレートを刻み、湯煎にかける。


私が説明しながら進めると、豊ちゃんは真剣な顔でひとつひとつ手を動かした。


「こう?」


「そう、上手よ。混ぜすぎないように、ゆっくりね」


とろとろに溶けたチョコを小さな星の形をした型に流し込んでいくと、

なんとなく作業が楽しくなってくる。


(女の子と二人で料理するって楽しいわ〜!)


前世では料理なんてほとんどしなかった。


でも今は、こうして誰かと並んで料理するのが、不思議と楽しい。

女の子として生きてきて、男としての自分の考え方も成長と共に変わってきているのかもしれない。


「愛鈴ちゃん、手慣れてるね」


「お菓子作り、ちょっとママと練習したの」


「そうなんだ。私もお母さんに料理教えてもらおうかな...」


「いいんじゃない?きっとお母さんも喜ぶわよ」


おしゃべりをしながら、

私たちはどんどんチョコを型に流しては冷蔵庫で冷やしていく作業を進めていった。


---


ある程度の友チョコを型に収めて、冷蔵庫で冷やしている間に、

私はキッチンの棚から、ハート型の抜き型を取り出した。


「次はこれを使うわ」


「さっき使ってたのは星型だったけど、友チョコとは別に作るの?」


豊ちゃんが首を傾ける。


「えぇ、少し。丁寧に作りたいものがあって」


「それって...本命?」


「うーん、本命というほどでもないけど、親しい人に感謝を伝えたい感じかしら」


私はそれだけ答えて、避けておいたチョコレートを溶かし始めた。


しばらく沈黙が続く。


豊ちゃんは何も言わなかった。


ただ、黙ったまま私の隣で——鞄から取り出した材料を使って、自分のチョコを作り始めていた。


(来る前から、作るつもりだったのかしら)


なんとなく気になったけれど、聞かなかった。


このチョコは友チョコより丁寧に、温度に気をつけながら仕上げる。

型に流して、表面をならして——仕上げにホイップクリームをトッピングしようと、缶を手に取った。


「私もやってみていい?」


「どうぞ」


豊ちゃんが缶を受け取って、ノズルを押した。


……出ない。


「あれ?」


「詰まってるのかも。もう少し強く押してみて」


「こう……?」


ぐっと力を込めた瞬間——


ぶびゅっ!


ノズルが詰まっていたのか、一気に圧が解放されて白いクリームが勢いよく飛び出した。


豊ちゃんの顔に、私の髪に、身体に——ホイップクリームが盛大にかかった。


「……っ」


「ご、ごめんなさいっ!!すぐ拭くね!!」


私はゆっくりと自分の手元を見た。


チョコは無事だった。


でも私たちは無事ではなかった。


「本当にごめんっ、布巾どこ——」


「大丈夫よ。チョコは無事だったから」


私は"3つ"のチョコを冷蔵庫に入れてから、自分のTシャツをつまんだ。


「早くお風呂で洗い流しましょ。冷やしてる間にちょうどいいわ」


「え——私も?」


「豊ちゃんも髪にかかってるじゃない。拭いただけじゃダメよ」


---


浴室に入ると、豊ちゃんがさっきよりずっとおとなしくなっていた。


「先に入る?」


「……一緒じゃ、だめ?」


私がさらっと聞くと、豊ちゃんの顔が一気に赤くなった。


「そのほうが早く終わるでしょ。チョコも待ってるし」


「……う、うん」


並んでシャワーを浴びる。

豊ちゃんはしきりに「こっち見ないでね」と言うくせに、


「愛鈴ちゃんって……綺麗だね」


と、ぼそっと言った。


「ありがとう。豊ちゃんも十分きれいよ」


「そんなことない……」


「本当のことよ」


豊ちゃんが黙った。

シャワーの音だけが響く。


(女の子同士でこういう話するものなのかしら。前世の私には、想像もできなかったわ)


悪くない、とは思った。

むしろ——


(……まあ、いいわ)


「早く出ましょ。チョコが待ってるから」


「……うん」


---


「そろそろ固まってるかしら」


冷蔵庫を開けると、友チョコもハートのチョコも、きれいに固まっていた。


「うん、ちゃんと固まってるわね」


「わあ……きれい」


豊ちゃんが目を丸くした。


「はい、豊ちゃん」


私はハートのチョコを豊ちゃんに差し出した。


「な、なに?」


「これ、あなたのぶん」


「……え? 友チョコじゃなくて、こっちを?」


「えぇ、豊ちゃんにはいつもお世話になってるから、感謝を伝えたくて特別な形にしたかったの」


さらっと言ったつもりだったのに、豊ちゃんの顔がじわじわと赤くなっていく。


「あ、愛鈴ちゃん……」


「もしかして、迷惑だったかしら...」


「ううん!そんなことない!ありがとう。すごく、嬉しい...」


豊ちゃんが両手でそっと受け取った。


それから——もじもじと、テーブルの隅に視線を向けた。


「あの……実は私も、作ったの」


テーブルの片隅に、小さなハート型のチョコがひとつ、ラップにくるまれていた。


さっき豊ちゃんが黙って作っていた「自分のチョコ」が、それだったのか。


「愛鈴ちゃんに、食べて欲しくて」


私は少しだけ、言葉に詰まった。


(隣で、私のために作っていたのね)


気づいていなかった。

自分のことに集中していて、ちゃんと見ていなかった。


「……ありがとう。嬉しいわ」


受け取ると、豊ちゃんはぱっと顔を背けた。


「じゃあ、お互いに感想を言い合いましょ」


「う、うん——」


私はそう言って、豊ちゃんが手にしていたチョコをそっと取って


「あ——ん、して」


「えっ……!?」


「感想、ちゃんと聞きたいから。私が食べさせてあげるわ。ほら」


豊ちゃんの顔が一気に真っ赤になった。


「む、無理……!」


「どうして?」


「は、恥ずかしいよ...」


「さっきお風呂も一緒に入ったじゃない」


「そ、それとこれとは——っ」


豊ちゃんがおたおたしている間に、私はチョコを豊ちゃんの唇にそっとあてた。


しばらく間があって、豊ちゃんがおずおずと口を開けた。


(ふふ。素直じゃないんだから)


「……どう?」


「…………甘い」


「それだけ?」


「……すごく、おいしい」


「よかった」


今度は豊ちゃんが、おっかなびっくりといった様子で私に作ってくれたチョコを手に取った。


「じゃあ、私も……」


震える指で、チョコを私の口元に近づけてくる。


口に入れると、やわらかくて、甘い——でも後から少し、ほろ苦さが来る。


「……美味しいわ。大人っぽい味ね」


「ほ……ほんとうに?」


「えぇ、ありがとう豊ちゃん」


豊ちゃんが安心したように、ふっと肩の力を抜いた。


その顔が、少し穏やかで、少し泣きそうで。


(なんだか、見ていると胸のあたりがじわっと温かくなるわね)


私はラッピング用のセロファンを広げた。


「そろそろ友チョコの方も包みましょ。たくさんあるから日が暮れちゃうわ」


「う、うん。手伝うね」


二人で並んで、チョコをひとつずつ丁寧に包んでいった。


---


帰り際、玄関で豊ちゃんが振り返った。


「愛鈴ちゃん」


「なに?」


「明日、チョコ渡せるといいね」


静かな声だった。

笑顔だったけれど——どこか、少しだけ寂しそうにも見えた。


「えぇ、豊ちゃんのおかげで頑張れそうだわ」


豊ちゃんが少し目を丸くして、それからふんわりと笑った。


「えへへ、よかった。じゃあまたね、愛鈴ちゃん」


「えぇ、バイバイ」


玄関のドアが閉まって、私は一人になった。


(豊ちゃんの方は順調ね)


今回は予想外のハプニングもあったが、

それを活用してまた二人でお風呂に入るというイベントを挟むことができた。


小学生のうちはあまり強く踏み込めないけれど、早いうちからの積み重ねは大事よね。


(とりあえず、今は明日のシンくんの方に集中しましょ)


私はラッピングし終わったチョコを冷蔵庫に戻し、

残る2つのハート型チョコを取り出した。

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