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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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17/20

第17話:帰り道で

---


帰りのバスは、行きよりずっと静かだった。


疲れてうとうとしている子、隣の子と小声で話している子。


三日間分の疲れが、バス全体にぼんやりと漂っている。


私の隣には行きと同じく豊ちゃんが座っていた。


行きは二人でずっと喋っていたのに、帰りはずっと黙ったまま窓の外を向いている。


(昨夜から、ずっとこんな調子ね)


窓の外、田んぼと山の景色が流れていく。


それを眺めながら、昨夜のことを整理しようとしていた——でも、頭が混乱してうまくいかない。


昨日シンくんの手を握ったのは、仕返しのつもりだった。


一日中ドキドキさせられた分の、ちょっとした意趣返し。


でも今も彼の手のひらの温もりが残ってる。


(身体の年齢に頭が引っ張られてるのかしら?)


前の座席のシンくんの後頭部が見えた。


ぼんやりと眺めていたら、ふとした際にシンくんが振り返り、私と目が合った。


「愛鈴ちゃん、もうすぐ着くみたいだよ」


「そっ、そうね、ありがとう...」


シンくんはにこっと笑ってまた前を向いた。


シンくんはいつも通りだ。まるで昨夜のことなんてなかったみたいに。


(……はぁ、私だけドキドキしててバカみたい)


私は自分でもコントロールできない感情に困り果てていた。


---


学校に到着し、解散になると、みんながそれぞれの帰路へと散っていった。


私は豊ちゃんと特に示し合わせたわけでもなく、一緒に帰り道を歩いている。


でも、いつもならぴったり隣にくっついてくる豊ちゃんが、

今日は少しだけ距離があるように感じた。


(何か様子がおかしいわね?)


「豊ちゃん」


「え? な、なに!」


振り返った豊ちゃんの笑顔が、少しだけ固かった。


「……ううん、なんでもないわ」


普通を装おうとしているのは、わかる。


でも、彼女が何を考えているのかはわからない。


しばらく黙って歩いていると、豊ちゃんが立ち止まり口を開いた。


「ねえ、愛鈴ちゃん。私たちももうすぐ6年生だよね...。中学、どこにするか決めた?」


(中学、か)


正直、あまり考えていなかった。


「うーん、まだちゃんとは決めてないけど……ひとまず公立かな。シンくんたちと同じ学区だから、藤森中になるかしら」


「そうなんだ。私も藤森中の学区だから、一緒だね。私立なら受験があるから、そろそろから塾に通わないといけないかもって思ってたの」


豊ちゃんが、少しだけ表情を緩めた。


(確かに私立でも今なら受験なんて余裕だけど、家から遠いしそういうのは高校からでいいのよね)


「うーん、確かに私立の方が制服は可愛いけど、家から遠いし中学は公立でいいかなって」


「そうだよね。お金もかかるし私も公立にしようかな...」


「まだ一年あるし、もうしばらくはご両親と相談して決めてもいいんじゃないかしら?」


「そうだね。一回話してみる!」


私たちは今後の話をしながら二人で並び、また歩き始めた。


---


それからしばらく、なんということもない日々が続いた。


野外学習の余韻はいつの間にか薄れて、授業と休み時間が繰り返される普通の毎日に戻っていく。


豊ちゃんもいつもの距離に戻ってきた。


あの帰り道のことは、あれ以来触れなかった。





そうして2月が近づいてきたある日。


「ねえねえ、今年バレンタインどうする?」


休み時間、隣の席の子が友達に話しかけているのが聞こえた。


「渡したい子いるんだよね〜。でも手作りって重すぎるかな?」


「お店のチョコでも、気持ちが大事じゃない?」


「うーん……愛鈴ちゃんはどうするの?」


振られて、愛鈴は少し考えた。


「そうね……今年は手作りしてみようかしら?」


にこっと微笑むと、「絶対モテるんだろうな〜」と笑い声が上がった。


(バレンタイン、か)


愛鈴は窓の外に目を向けた。


(せっかくだから、少し面白いことをしてみましょうか)


小悪魔が、静かに目を細めた。

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