第14話:お揃いの下着とみんなでお風呂
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夕食が終わってしばらくすると、入浴の時間になった。
宿泊班ごとの時間制で、私たちは七時からだ。
脱衣所に入ると、
他クラスの子も含め結構な数の女の子がみんな着替えをしていた。
(元男としては想定はしてたけど、想像以上の威力だわ...)
ほとんどの子が衣服をまとっていない。
プールの際の着替えとはまた違った異質な光景だ。
女でなければ決して見ることができない楽園のようなこの光景に、
私は興奮を抑えるのに精一杯だった。
幸いなのはまだ小学生なので身体が未成熟なことだろうか。
前世の私はロリコンではなかったので、ギリギリセーフだ。
しかしこれが中学、高校となったら耐えられる自信がない。
(今後に備えて女性に対する耐性をもっとつけておいたほうがいいかも...)
涼しい顔をして煩悩全開なことを考えていると、
豊が私の袖をそっと引っ張ってきた。
「ねえ、愛鈴ちゃん……あの約束、覚えてる?」
「え、えぇ豊ちゃん。もちろん覚えてるわ」
我に返った私が勢いよく服を脱いだ瞬間、豊の動きが止まった。
白地に淡いピンクのライン、
あの日一緒に選んだ下着が、ちゃんとそこにはあった。
「……よかった。私だけ舞い上がって着てたらどうしようって思ってたから...」
そう答える声が、少し掠れていた。
(大げさな子ね。...と言いつつ実は私も楽しみにしてたのだけど、恥ずかしいからそれは黙っておきましょ)
「私も脱いだんだから、豊ちゃんも脱いでよ」
「あ、うん……」
豊が慌てて服を脱ぎ始めた。
ガバッとシャツを脱ぐと、そこには小学生には不釣り合いな大きな胸が収められた、
愛鈴とお揃いの下着が現れた。
「豊ちゃんも似合ってる!とってもかわいいじゃない」
「っ……そ、そんな……愛鈴ちゃんの方がずっとかわいいから」
豊が俯いて小声で言う。
顔が真っ赤だった。
そのとき、近くにいたクラスの子が私たちを見て
「あれ?愛鈴ちゃんと豊ちゃん、下着お揃いなの?」と言った。
豊の肩がぴくっと上がった。腕がゆっくりと胸の前へと動いている。
(また、あの癖かしら?自分を守るみたいに腕を畳んで、縮こまって、誰もあなたを傷つけようとしているわけじゃないのに...)
「ええ、この間一緒に買いに行ったの。可愛いでしょ?」
私が割り込んで答えると別の子からも
「へぇ、いいな〜愛鈴ちゃんも豊ちゃんも大きいから、可愛い下着着れて。私なんてAAしかないから地味なスポブラだよ〜」
「私も、早く中学生になってフリルとかレースの可愛いブラつけた〜い」
「中学になったら大きくなるかな?マッサージとか色々頑張らないと...」
どうやら皆わいわいと下着や身体の話に夢中になり、
私たちのことは意識から離れていったようだ。
「ありがとう……」豊が静かに言ってきた。
「隠さなくていいのよ。前にも言ったでしょ」
豊がこちらを見た。
「……愛鈴ちゃん、いつもそう言ってくれるね」
「本当のことだもの」
豊はゆっくりと腕を下ろした。
頬は赤く染まり目は潤んだ美少女を前にして、私の理性はそろそろ限界を迎えそうだ。
足早に豊の腕を引き、浴場へと向かう。
「早く行きましょ。冷えちゃうわ」
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浴場に入ると、中は半露天になっていた。
隅には草木が生い茂っており、開放感を感じつつお風呂を楽しむことができそうだ。
私たちは早速洗い場に座り、身体を洗い始めた。
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シャワーを浴びていると、私はふと自分に向けられた視線をどこからか感じた。
顔を上げて周囲を見渡すと...そこには豊の目があった。
私と目が合うと、豊はパッと顔を背けた。
私も気にせず前を向いて身体を洗い続ける。
でも、しばらくして——ふと豊の方を見ると、また目が合った。そして豊がすぐそらす。
また前を向く。また視線を感じる。
今度は確認するように豊を見た。今度はそらさなかった。
(...最初はチラチラ様子伺いだったのに、開き直ってるわね。元男としていろいろ複雑なんだけど、この子に悪意がないのは知ってるから...なら、ちょっとくらい意地悪しても許されるわよね?)
「ねえ、豊ちゃん」
「は、はい!」
「そんなに見たいなら、洗いっこしない?」
「え?えぇ!?」
しばらく豊が固まった。
「……い、いいの?」
「ええ、まず私から洗ってあげるわね。さぁ座って」
豊が恐る恐る、正面を向いて座った。
タオルに泡を含ませて、背中にそっと当てる。豊の体がぴくっと揺れた。
「力入れすぎ?」
「ち、ちがっ……ただ、ちょっと……」
(どんな表情してるのかしら?鏡も曇ってて顔が見えないのが残念ね)
泡を背中にゆっくり滑らせると、豊は黙ったまま前を向いていた。
さっきから耳が真っ赤だ。
「はい、綺麗になったわよ。次は私の番ね」
「っ……う、うん」
今度は私が正面を向いて座る番だった。
しばらくして、豊のタオルが背中に触れた。
最初は恐る恐るだったのに、だんだん丁寧になってくる。
(思ったより上手ね)
「……愛鈴ちゃんの背中、すべすべだね」
豊がぽそりと言った。思わず、という感じで。
「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ」
「……うん。きれい」
豊はタオルを離し、指で愛鈴の背中を撫で始めた。
「ひゃん!?ゆ、豊ちゃん?」
「あっ!ご、ごめんね……お、終わりました」
豊は急に我に返ると、そそくさと背中を流して離れた。
(さっきの、どうしたのかしら?急に様子が変わったわね...)
私はシャンプーを泡立てながら、豊の方をちらりと見た。
豊はまだ頬を赤くしながら、それでも髪を洗いながらチラチラとまた私を見ていた。
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湯船に浸かると、クラスの子たちがわいわい話している。
「ねえ、昨日のドラマ見た? あの告白シーンめちゃ良かったよね〜」
「えーっ、そうかな。私はもっとロマンチックな場所が好きだな〜。でも男の方がイケメンだから許す!」
「わかる。あの顔で言われたらずるいよね」
「ていうか、うちのクラスの水野さんって付き合ってる人いるんだって」
「えっ、誰と?」
「二組の子らしいよ。放課後に一緒に帰ってるの見た」
「やだもう……」
(推しの話、ドラマの話、他人の恋の話。みんなお歳頃ね)
しばらくすると、誰かが呟いた。
「ねぇ、やっぱ気になるんだけどさ、さっきの豊ちゃんと愛鈴ちゃんのお揃い」
豊がちらっと私を見た。
「豊ちゃんの着てたの可愛かったよね〜。サイズってどのくらいなの?」
豊が少し間を置いた。
「……えっと、C……だって。前に測ってもらったとき」
豊がぽそりと言った。
「えっ!」みんなの声が重なった。
「愛鈴ちゃんは?」
「私?Bだったわ」
「Bもすごい。あ〜神様不公平すぎ」
「ね〜、豊ちゃんも愛鈴ちゃんも可愛い上に胸も大きいなんて羨ましい!」
「……でも色々大変で」と豊が小さく言った。
「服もサイズ合うのがなかなかなくて……」
「あ〜確かにそれは大変かも……。豊ちゃんって、お母さんも大きいの?」
「……お母さんはそんなに大きくないよ。普通くらい...」
「じゃあ私たちにもまだ可能性あるかも。牛乳飲んだら大きくなるって本当かな?」
「牛乳もいいけど、鶏のむね肉とか卵とか——あとキャベツとかブロッコリーも毎日食べるといいらしいわよ。よく眠れてる?睡眠が一番大事だって」
「へ〜、愛鈴ちゃん詳しいね」
「なんで詳しいの……?」
「ママから教えてもらったの。お仕事で体型維持とか色々必要で学んだんだって」
その後も私たちはガールズトークをしながらお風呂を楽しんだ。
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お風呂から上がり、部屋に戻ると、
みんながそれぞれの布団を敷いてだらだらと過ごしていた。
豊も当然のように私の隣に布団を敷いていた。
最初から、まるでそこが自分の場所であるかのように。
消灯の時間が来て、一人また一人と眠っていく。
やがて部屋が静かになった。
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どれくらいの時間が経ったのだろう。
暗闇の中で、豊の息遣いが聞こえた。まだ起きているのだろうか。
私も眠れなかった。
「……ねえ、豊ちゃん。まだ起きてる?」
「……うん、どうしたの?」
「夜は少し冷えるわね」
「確かにそうかも。少し寒い...」
「ちょっと温めてくれない?」
しばらく間があった。
「……え」
「布団、入っていい? ってことよ」
「えっ……い、いいけど……」
答えを待たずに、私はそっと豊の布団に潜り込んだ。
「……っ、愛鈴ちゃん!?」
「しっ!みんな起きちゃうわよ」
豊の体温が、すぐそこにある。
(温かい。まるでこたつみたいね)
そのまま自然な流れで、豊の胸のあたりに顔を寄せる。
「っ……! あ、あの、愛鈴ちゃん……!?」
「いいでしょ?冷えてるんだから」
「そ、そんな……っ」
豊の体がかちこちに固まった。
心臓の音が、顔を当てているぶんだけ直接響いてくる。
(温かい上にやわらかい。...なんだか、ここにずっといたくなってしまいそうだわ)
なんとなく手が動いた。そっと、胸のあたりに触れる。
「っ……! あ、愛鈴ちゃんっ……そこっ...」
私は返事をせず手を離し、またそっと顔を埋めた。
しばらくして——ためらうように、豊の腕が私の背中に回ってきた。
「……愛鈴ちゃん」
「なに?」
「…………」
(何を言おうとしているか——なんとなくわかるけど...)
ただ少しだけ、豊の胸から顔を出し、豊の顔を見つめた。
豊はびっくりしたような表情をしたが、やがてニコリと微笑んだ。
私も小さく笑い返し、豊の背中に手を回して抱き合うように眠りについた。
(これで豊は当分大丈夫ね。明日はシンくんやイツキくんとの時間も作らないと)




