第15話:二日目の朝に
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豊の目が覚めたとき、部屋はまだ薄暗かった。
(他の子たちの寝息が、遠くに聞こえる)
ゆっくりまぶたを開けると、天井が目に入ってきた。
少しして——右腕にある温かさに気づいた。
目の前に愛鈴ちゃんがいる。
昨夜のことが、ぼんやりと蘇る。
なかなか寝付けず、うとうとしていたら愛鈴ちゃんがお布団に入ってきて、私の胸に顔を埋めてきて——
息を殺して、横を向いた。
愛鈴ちゃんが、スゥスゥと寝息を立てて眠っていた。
いつもの凛とした顔が、今は穏やかな表情をしている。
長いまつ毛が頬に影を落として、小さな寝息が規則正しく聞こえてくる。
(お人形さんみたいにきれい...)
美少女はどんなことをしていても美少女なのだと実感する。
(ちょっと意地悪な時もあるけど、でも、こんな顔もするんだ...)
胸の奥が、ぎゅっとした。
愛鈴ちゃんのことを好きだとわかってから、彼女に対する想いがうまく言葉にならない。
ただ——ずっと一緒にいたい、彼女の全てが欲しい。
そう思ったら、頬が熱くなってきた。
窓の外が少しずつ白んでいる。もうすぐみんなが起きる時間だ。
私は愛鈴ちゃんの顔をもう一度だけ見た。
それからそっと目を閉じて——もう少しだけ、
この幸せの温かさを感じることにした。
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(昨夜あれだけ寝付けなかったのに、普通に起きれたのだから、身体って不思議なものね)
朝食を終えると、二日目のメインイベントが始まった。
飯盒炊飯と、カレー作りだ。
班ごとに火おこしセットと食材が配られる。
「火おこし、誰かやったことある?」
イツキくんが迷わず手を挙げた。
「俺、キャンプで何回かやったことあるから任せろ!」
任せた結果——十五分後、煙一本立たなかった。
「……なんでだ?」
「ちょっとやり方が違うんじゃない?」
「じゃあ豊やってみろよ」
「え、私!?」
豊ちゃんも、シンくんもやってみたが、うまくいかなかった。
(仕方ないわね)
私は心の中で呟いて、代わることにした。
落ちていた小枝でフェザースティックを作り、
力の入れ方と角度を確認しながら摩擦熱を溜めていくと、五分ほどで小さな火種が生まれた。
「愛鈴ちゃんすごい!」豊ちゃんが拍手した。
「こういうのは火種が消えないように、風の向きをしっかり調節するのがポイントよ」
前世でキャンプに詳しい友達が教えてくれた受け売りだが、得意げに解説をしてしまった。
「なんで最初から教えてくれなかったんだよ!」
「こういうのは失敗して初めて学べるものよ。私も最初は上手くできなかったわ」
イツキくんを軽くいなして、無事に火が起こせたので、今度は食材の調理に移る。
豊ちゃんと私の女子組は野菜を担当することになった。
男子組はお米と火の担当だ。
「玉ねぎってどう切っても目にしみる...!」
豊ちゃんが目をごしごし擦り始めた。
「擦っちゃダメよ。口で息すると少しましになるわ」
「ほんとに?」
「えぇ、本当は玉ねぎを冷凍しておくと良いらしいけど、今回は仕方ないわね...」
豊ちゃんは涙で目を赤くしながら、真剣な顔で玉ねぎと格闘を続けていた。
「……愛鈴ちゃん」
不意に呼ばれ振り返ると、そこにはシンくんがいた。
「どうしたの?」
「昨日、ちゃんと眠れた?」
(……なんで、顔に出ていたのかしら)
「ええ、ぐっすりと。なんで?」
シンくんが少し目を細めた。
「なんか、ちょっと眠そうだなって」
「そうかしら?気のせいじゃない?」
無難な返事を返すと、シンくんは顔をグイっと近づけて
「そうかな...ならいんだけど。でも愛鈴ちゃん、無理しちゃダメだよ?」
「え、えぇ。わかってるわ」
顔を覗き込んでくるシンくんに私がドキッとしながら返事をすると、
シンくんはそれ以上は何も言わず、満足そうにイツキくんがいる釜戸の方へ戻っていった。
(ビックリしちゃった...。シンくんの顔が近くに来たと思ったら胸の辺りが急に...)
そう考えていると、豊ちゃんが涙目になりながらみじん切りされた玉ねぎを持ってやってきた。
「愛鈴ちゃ〜ん、玉ねぎおわった〜!」
(とりあえず今はカレーの方に集中しましょ)
「じゃあ次はじゃがいもね。皮むき器はそこにあるから一緒にやりましょ」
二人でじゃがいもの皮を剥いていると、
男子組から「水どのくらい入れる?」という声が飛んできた。
「鍋の目盛りまでよ」と返しながら、私たちはみんなで手を動かし続けた。
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そうこうしているうちに、カレーは無事に完成した。
多少焦げた部分も少しあったが、ご愛嬌だろう。
イツキくんが「これがキャンプの醍醐味ってやつだな!」と力説していた。
言いたいことはわかる。
食べながら、豊ちゃんも嬉しそうに「みんなで作ると美味しいね...!」と言っていた。
「手間がかかった分だけおいしく感じるのよね」
「うん、確かにみんなで作ったって思うとより美味しいかも」とシンくんが続いた。
「それにカレーだからな!うまいもんはうまい」
イツキくんがカレーを口いっぱいに頬張りながら言った。
空はよく晴れている。
今夜はキャンプファイヤーだけど、天気の心配はなさそうだ。
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「ねぇ、愛鈴ちゃん」
食べ終わってみんなで手分けして片付けをしていると、
シンくんが私のそばにやってきてこそっと話しかけてきた。
「どうしたの?シンくん」
「今日のキャンプファイヤーの時...二人で会えないかな?」
「えぇ、いいわ...よ?」
シンくんのことだから大したことじゃないと思いノータイムで返事を返したら、
予想を超えたお誘いに、私の思考はおもわず停止してしまった。




