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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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92.アンドルー=クラウス

 拠点を出たオレたちは、アーテミーの上層を目指して進んだ。

 街の構造的に、下層部は農耕地が広がるエリアとなっており、そこに住んでいるのも農家が多い。

 大して上層はそれ以外の仕事に就くような人の居住エリアになっているようだ。

 町長の住まいは上層部の中心地に建っているとのことで、オレたちは坂道や階段を上り続けなければならなかった。


「ひー、結構大変だけど……」


 ルカが呟きながら、階段を上り切った先でくるりと振り返る。


「上からの眺め、良いもんだね」


 言われて、オレも少し視線を後ろへ向けてみると、なるほどそこには美しい光景があった。

 南側は思っていたよりも海が近く、下層部の僅かな住居と農地がある先にはもう海が広がっている。

 今日は快晴ということもあり、陽射しを受け水面はキラキラと輝いていて。街の中からこんな景色が見られるのは良いものだなと思わされるのだった。


「そろそろ着きますよ」


 メルシオネ教官は先頭を歩きながらオレたちにそう伝える。

 結構上ってきたけれど、この人はまるで息を乱していない。体の鍛え方がやはり違うんだな。


「……ここですね」


 街の最上部に堂々と建つ一軒の邸宅。趣のある煉瓦造の二階建てで、軽く十人以上は住めそうな大きさだ。

 周囲には庭もあり、整えられた植え込みや花壇、それに小ぶりな池まである。

 魚も泳いでいるようで、水がパシャリと音を立てるのも聞こえてきた。


「良いところに住んでるなあ」


 イオナが羨ましそうに嘆息を吐く。まあ、オレもそれには共感出来た。

 持て余しそうなくらい大きな家と庭、それに見晴らしも最高と来たもんだ。終の棲家として理想的な物件だろう。

 グロリヤの村長宅も相応に広かったけれど、ここは環境も含めて見事に完成されていた。


「一国の王みたいなものだろうからねえ。こういうところに住むのも当然でしょ」


 エスカーは分かったような口を利く。実際こんな生活が出来るのは、ロウディシアでも一握りだろうに。

 ……ただ、そう言う人には確かに、相応の重責もまたあるのだとして。

 メルシオネ教官は、玄関口にあるインターホンのボタンを押した。しばらくして、使用人らしき若い女性が出てくる。


「お待たせいたしました。貴方は……」

「昨晩お邪魔したメルシオネです。翌朝改めてとのことでしたので、出直した次第です」

「かしこまりました。少々お待ちを」


 使用人は一度引っ込み、しばらくしてから戻ってくる。


「確認がとれましたので、ご案内いたしますね」


 そしてオレたちは、町長宅へ上がることが出来た。

 使用人に案内され、入ったのは応接室。

 室内にはショーケースや本棚が並んでいて、本のタイトルは理解出来ないものも多かった。

 エイヴス特有の用語だったり、或いは地名だったりするのだろうな。


「お待たせしてしまった――っと、えらく大所帯だね」


 応接室へやって来た一人の男性。この人がアーテミーの町長らしい。

 肩の少し下まで伸びる黒髪。左の前髪はゴムで留められている。

 目鼻立ちがハッキリしていて年齢的に若々しく見えるので、こんな人が町長を務めているとは、と驚いてしまった。


「すみません、こちら協力者でして。まだ見習いなのですが、人手は多いに越したことはありませんのでね」

「なるほど、どうやら深刻な問題のようだ……昨日帰ってもらったのは申し訳なかった」


 いえいえ、とメルシオネ教官は首を振る。

 異世界には異世界の事情があるし、あくまでビジターであるオレたちは、忙しいところに無理は言えない。


「改めて、町長のアンドルー=クラウスだ。よろしく」


 アンドルーさんが自己紹介をくれたので、オレたちも同じように名乗る。

 人数が人数なのでわざわざ覚えなさそうだなと思ったのだが、彼はオレたちが名乗るのを真剣に聞いてくれていた。

 それからすぐ、先ほどのメイドさんが紅茶を持ってきてくれ、オレたちは礼を言ってそれに口をつける。

 エイヴスの紅茶も、グロリヤとは風味が違っているけれども非常に美味しいものだった。


「……それで、異国の戦士たちが直面している問題とはどのような?」

「はい。実はこちらで彼らと同じ見習いの者たちが行方不明になってしまいまして」

「行方不明……」


 アンドルーさんの表情が曇る。

 ここは友好世界ということだし、異国の人間がこちらで事件に巻き込まれるのは心情的にも政治的にも起きてほしくないことなのだろう。


「近頃、この国で特異な魔物が確認されていて、我々はその魔物と関連したものではないかと考えているのです。アンドルー町長は何かご存知ありませんか?」

「そうだね……残念ながら、特異と形容されるような魔物の情報は入ってきていない。むしろ、貴方がたがそれを確認していることが驚きなほどだ。おかげさまで、現状我が国は平和を維持出来ているし……」


 そこでアンドルーさんは言葉を切り、


「……一つ聞きたいが、その見習いが行方不明になった場所は特定しているのかな?」

「はい。クレイス原生林を奥深くまで進んでいったことは分かっています」

「なるほど」


 どうやら、思い当たることはあるらしい。

 ……ただ、何となくオレにも予想のつく答えではあったけれど。


「だとすると、考えられることとしては……森に住まうエルフに侵入者として捕えられてしまった、というのはあるかもしれない」

「……やはり、そうなりますか」


 メルシオネ教官も、その可能性については検討していたらしい。


「元々古典派のエルフたちは、外の人間を警戒しているのでね。今でこそ最低限の取引くらいは行えるようになったが、自らのテリトリーに許可なく入っていくような者がいたら……恐らくは」

「もしそうだとしたら、お騒がせして申し訳ないところです」


 教官はそう言って頭を下げる。まだ決まったわけではないが、消息を絶つ前のバランの行動を振り返ると、十分あり得そうなんだよな。


「なにぶん、エルフとの交流については難しい問題なのでね。他国の人たちに理解が及ばないのも無理はない。とはいえ、最悪命に関わる問題だ。無事であってほしいとは思うが……」


 アンドルーさんはまた言葉を切って、口元に手を当て何やら考え込む。


「……そう言えば、彼が気になる予言をしていたな」


 ――予言?


 ふいに怪しいワードが出てきたので、オレは思わず眉をしかめてしまう。

 ニュアンス的に、イオナに関係した預言とはまた違うものなのだろうけど。


「予言というのは?」


 メルシオネ教官も初耳だったようで、アンドルーさんへ聞き返す。


「ああ、失礼。エイヴスは私だけで政策を決定しているわけではなく、もう一人相談役の魔術師がいてね。時に彼は予言という形で、今後何を為すべきか道を示してくれたりもするんだよ。例えば、近く水害が発生する可能性が高いので、作物の被害を抑えられるよう対策をとるべき、などとね」


 未来に起きることを予想し、そうならないための助言をくれる。

 種までは分からないが、アンドルーさんがそれを予言だと口にしたのには納得した。

 そんな人物がこの街にいるんだな。


「彼自身エルフで長生きしているゆえ、空の様子などを見て経験則で語っているのかもしれない。いずれにせよ、その予言はよく当たってくれるのでね。とても頼りにしているんだ。……そんな彼が最近一つだけ、普段とは違う予言をしていたのを思い出した」

「それは……」

「うむ。彼はこう語っていたはずだ」


 アンドルーさんは、魔術師の予言をオレたちへ告げる。


「北西に暗き影あり。争いの芽となり得るもの、注意されたし――と」


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