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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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89.異変

 イレギュラー対策チームへの加入に対する、オレたちの意思が明確になった翌日。

 さて午後から校長室へ、答えを告げに行こうかと思っていたオレたちは、しかし初っ端から出鼻を挫かれることになった。


『現在、確認事項が発生しているため、午前中の講義を中止とさせていただきます。午後の依頼請負についても、本日は可能な限り控えていただけると幸いです』


 朝食前、テスタマイザーへ送られてきた業務連絡。

 その内容はあまりにも突然で、そして不明瞭なもので。

 食堂へ集まったオレたちは――マルも含めて――一体何が起きたのだろうと一様に首を傾げるばかりだった。


「どうしたもんかね?」

「大人しくしていてくださいって感じの連絡ではあるけれどねえ……」

「午前午後とやれることも無くなったし、ここは参加を伝えに行くついでに、何があったのかを聞くのがいいんじゃない?」


 エスカーの案がベターだとオレも思う。

 コーネリア校長が問題の対応に忙しくしている可能性は高いが、少しの間話すくらいは許されるはず。

 二つの目的を達成するのに、時間は二、三分も掛からないだろう。

 それに――今起きている問題がまさしく、ということもある。


「そうしましょう。私もオペレーターの事務仕事が保留になっていましたし、早めに事情は知りたいところなので」

「了解。……しかし、朝食も来てくれるとは。見た感じ上級生も多いけど……」

「案外バレませんね。まあ……昔は髪を長くしてたんですよ」


 今はボブカットだが、イマジネーターだったころはロングヘアーだったのか。

 印象がガラっと変わっているおかげで、マルだと気付かない人が多いようだ。

 これなら、たまに食事を共にしても彼女の言う面倒事は起きないかもしれない。

 何だかんだ、こういう場はチームにとって大事な気がするし。


「そう言えば、マルって俺たちより一つ上ってことになるんだよね」

「ええ、そうですが」

「マル姉さんって呼んだ方が?」

「……叩きますよ」


 相変わらず、エスカーは軽々と憎まれ口を叩くものだ。

 それがコイツの独特なコミュニケーション手段という感じはするが、果たして上手くいってると言えるのかどうか……。

 朝食を取り終えたオレたちは、提案通り校長室へと向かうことにする。

 急に講義等の中止を伝えられたからか、キャンパス内の前庭などで駄弁っている生徒がちらほらいた。

 大抵はこれからどうするかとか、最近の趣味等についての他愛のない話だったが、聞こえてきた一つに、


「……まだ帰って来てないんだって。それで調査が必要になったみたいで……」


 という、どうも今の状況に関するものらしい気になる話もあった。

 詳しく聞きたくもなったが、どうせ話を聞くならコーネリア校長からの方が正確なのは間違いない。

 なのでオレたちは、道草せずに校長室を目指すのだった。

 B棟に入って三階に上がる。職員室を通り過ぎたが、中が少し騒がしかったような気もした。

 校長室の扉をノックすると、コーネリア校長のどうぞという声が聞こえた。オレたちは緊張しつつ、室内へ入っていった。


「どうした――って、お前たちか」

「おはようございます、コーネリア校長」


 オレはまず形式的に挨拶をしてから、


「昨日のお誘いについて、オレたちの意思をお伝えしようと思ってたんですが……今、何か問題が起きてるんですか?」


 と言う風に切り出した。コーネリア校長は頭を掻きつつ、


「いやあ、決断が早くて助かる。先に聞いておくが……イエスかノー、どっちだ?」

「――イエスです」


 校長はその答えによしと力強く頷き、オレたちにもう少し近くへ来るよう促した。


「その答えを待っていた。実はまさに今、お前たちの力が欲しかったところでな」

「……ということは」

「ああ。今朝から講義を中止したりさせてもらってるのは、イレギュラー絡みの問題が発生した可能性があるからだ」


 まさか早速、そんな事態に陥ってしまうとは。

 まだ可能性だというから、違ってくれるのが一番良いのだろうが……そんな楽観的な考えでいるわけにはいかないし、学園の業務を後回しにしてでも対処にあたっているのだ。


「具体的に、どんな問題が?」


 イオナが訊ねるのに、コーネリア校長は腕を組みながら、


「討伐依頼に向かった生徒たちが、通信不能になったまま一日経っても帰ってこない。通信機能も万能じゃないから、音声が届かなくなることはたまにあるんだが……通常そんなことになれば、生徒は帰還を優先するだろう。しかし、彼らは未だ帰ってこないばかりか連絡一つないままなんだ」

「未帰還の生徒、ですか……」


 まだ帰って来てないと、外で生徒たちが話していたのはこのことだったようだ。


「そういうのは滅多に無いんですか? 仮にあった場合は毎回こんな風に調査を?」


 エスカーはもう少し突っ込んだ質問をする。それに対しては、


「ほぼほぼ無い、と言っていいだろう。通信がまるで出来なくなるのも珍しいし、そこから帰還しなくなったとなれば猶更だ。何年かに一度、そんな事態があるかないか……というところか。だから、同様の事例については今回のように対処してきている。ちなみに対応は今朝からじゃなく、昨夜六時頃から既に始めているんだが」

「なるほど、結構深刻なんですね」


 イマジネーター稼業は危険と隣り合わせだからと言って、学園もそこまで放任主義ではない。所属する者の危機には全力で保護にあたるのが、雇用主としての務めでもあるのだ。

 既定の時間までに帰ってこなければ、すぐにでも動く。それが生徒の生死を左右することにもなり得るから……。


「ボクたちの力が欲しかったってことは、ボクたちはその異世界へ調査に向かうってことですよね? それって今のライセンスでも行けるところなんですか?」

「もちろんだ。そもそも、お前たちが昨日行った世界だからな」

「――え?」


 それを聞いて、嫌な予感がした。

 オレたちが昨日行ったのは異世界エイヴスだ。なるほど、そこにイレギュラーが出現したのだから、今起きている問題がイレギュラー絡みだと結びつけるのも変ではない。むしろ、言われるより先に気付くべきだった。

 ……昨日。エイヴスへと赴く前に、オレたちはアルカード星書院の事務員さんからある通知を受けていた。

 遠征先でイマジネーター同士がぶつかり事故を起こさないよう、その異世界に他のイマジネーターがいるかどうかという通知を。

 エイヴスには他のイマジネーターがいると聞き、オレはそれが誰なのかというのも詳しく訊ねて。

 事務員からは、良く知る人物の名前が返ってきたはずだ――。


「バラン……」

「……どこかで聞いたのか」


 コーネリア校長は、オレの呟きにそう反応する。

 疑問でも否定でもない。それは肯定のニュアンスだ。

 ……つまりは。


「そう、エイヴスで消息を絶ったのはお前たちの同期……バランチームだ」


 息が詰まりそうな宣告だった。

 まさか……身近な人物が問題に巻き込まれるだなんて。

 それに、マルの過去について知ったのもあるし、もし本当に彼らの未帰還にイレギュラーが関係しているとしたらと思うと、恐ろし過ぎる。

 サラルやテッドくん、エレンちゃんやエステルちゃんはもちろんのこと、あの傲慢なバランでも命が危ないとなれば心配にはなる。

 無事でいてくれと、願いたくなる。


「覚悟を決めてここに来てくれたこと、感謝している。そして早速で悪いが、その覚悟を示してほしい」


 オレたち一人ひとりをゆっくりと見回して、コーネリア校長は問いかけてきた。


「バランチーム救出に……異世界エイヴスで起きている問題の調査に、向かってくれるか?」


 答えは決まっている。


「ええ、もちろん」


 それが戦う道を選んだオレたちの、為すべきことなのだから。

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