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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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87.過去の傷痕

 マルの姿を実際に見たのは、これが初めてだった。

 いつもはオペレータ―室でオレたちへの支援を行ってくれているが、食事などにもこれまで顔を出すことはなかったのだ。

 それがまさか、こんなところで初対面を果たすとは。

 しかも、何やらジャンヌさんとの間に浅からぬ縁があるようだが……。


「どうしてマルがここに……?」

「どうも、皆さん。……テスタマイザー越しにジャンヌさんとの話を聞いていましたので、こちらに来させてもらいました」


 マルはこちらに一瞥をくれると、


「私も一応チームの一員ではありますし、重要な話をしているなら同席するのが筋かと。……まあ、本音を言えばある種の諦めでもあるんですけどね」


 諦め……とはどういう意味だろう。

 その答えは、恐らくジャンヌさんが持っている。


「……ジャンヌさん、お久しぶりです」

「ああ、久しぶり。そうだね……もう四ヶ月ほどになるかな?」

「ええ……その節は、ありがとうございました」


 マルはジャンヌさんに対して、深々と頭を下げる。

 ……始めのやり取りからしてあまり好ましくない関係なのかと思いきや、ストレートなお礼が出てくるとは。

 本当に、この二人の間で何があったのか。


「君がオペレーターとして活躍していると聞いて安心したよ。よく決心してくれた」

「辞めるのも逃げるみたいで嫌でしたから。……その上で訪ねたいんですが、ジャンヌさん。私をこのチームのオペレーターとして選んだのは貴方なんじゃないですか?」


 その問いかけに、ジャンヌさんは数秒の間沈黙していた。

 代わりにコーネリア校長が口を開こうとしたところで、ジャンヌさんはそれを手で制する。


「……いいのかい?」

「このままにしていても、いずれは知られてしまうでしょうし。……チームでやっていくのに、隠し事があるのも後ろめたいと思ったので」

「そうか。……フフ、そう思えるチームということだね」

「さあ、どうでしょう」


 マルの返答は素っ気ない。

 けれど、嘘や方便じゃなさそうだというのは何となく感じられた。

 ……マルの隠し事、か。

 イレギュラーと対峙した際、何か事情があるのかもとは思っていたが……それとジャンヌさんが関わるというなら。


「実際、君が優秀なオペレーターにもなり得るというのは疑っていなかった。だから見込みのあるチームに所属させようと考えていたのは確かだよ」

「……オペレーターにも?」


 エスカーがその言い回しに引っ掛かりを覚えて繰り返す。

 オレも、今の言葉は気になった。それだとまるで……。


「……まあ、いいです」


 マルはまた一つ溜め息を吐いてから、オレたちに驚きの事実を告げる。


「皆さんにお伝えしておくと、私は去年までイマジネーターとして活動していた、アトモス学園の九十九期生なんですよ」

「え? マルってイマジネーターだったの?」


 その告白に、ルカは思わず聞き返す。

 マルは今言った通りだとばかりにジトっとした目でルカを見つめた。


「自分で言うのも何ですが、私は評点トップのチームに所属していて、それなりに貢献も出来ていました。けれど、ある異世界での依頼遂行中に重大なトラブルが発生してしまったんです」

「……もしかして、それが」

「ええ……イレギュラーが出現したんですよ」


 順調に成績を伸ばし、イマジネーターとして出世街道を駆け上っていたような時期。

 そんな彼女らの元に、突如として現れたイレギュラー……。


「チームは、マル君を残して全員が死亡するという痛ましい悲劇だった。マル君はその事件がきっかけでイマジネーターとしての力を喪い、活動が出来なくなってしまったんだ」

「私自身、死は覚悟しました。ですが、本当にギリギリのところでこの人……ジャンヌさんが駆けつけてくれたんです」


 ……つまり、マルもオレやルカと同じ経験をしていたわけだ。

 命の危険に晒されたところを、ジャンヌさんに救われたという。

 それも彼女は、ほんの数ヶ月前に。

 しかし、彼女以外の仲間は助けられなかった……。


「イレギュラー発生の連絡を受けてから、最速で向かったつもりではある。ただ、一年目のイマジネーターが対峙するにはあまりに強力な相手だった。私が辿り着くまでに、マル君以外の生徒は皆、イレギュラーの餌食になってしまっていた」

「……何度も言いましたが、私はそのことを恨んでなんていませんからね。命を救ってくれたこと、心から感謝しています」

「そう言ってくれると何よりなんだが」


 ジャンヌさんは拳をぐっと握り締める。

 救えなかった命。マルだけでなく彼女にも、悔しい思いは残っているのだ。

 だから、マルも責めたりはしない。

 己の命だけでも救われたこと、それをありがたいと感謝している……。


「事件後、マル君はしばらく静養することとなった。しかし、最近になってオペレーターへ転向したという話を聞いたんだ。だから、その熱意が――世界の平和を守るという熱意が消えていないというのなら、どうだろうかと思ったのさ。もう一度、イレギュラーに立ち向かっていく道を選ぶのは」

「……ジャンヌさん」


 かつて目の前で仲間を殺され、自身の命すら奪われかけた憎き存在。

 ジャンヌさんがマルへ提示してみせたのは、そんな相手ともう一度向き合う道なのだった。


「……フ。さっきも言ったが、これは大きなターニングポイントだ。きみも含め、皆で話し合って結論を出すといい。イレギュラー問題は由々しきものではあるが、きみたちの意思が最も尊重されるべきだからね」


 オレたちは――もちろんマルも――全員で顔を見合わせる。

 その場の勢いだけで決めるべきではない。よく話し合わなければと皆思っているのは明白だった。


「……急な話ですまん。だが、近頃イレギュラーの出現頻度が増加傾向にあってな。ジャンヌさんと相談の上、こういう方針を打ち出させてもらったんだ。お前たちのことは最初から見込みがあると思っていたし、良い返事を期待したいもんだが……ま、ゆっくり話し合って決めてくれ。ジャンヌさんも言ったように、俺たちはお前たちの出す答えを尊重する」


 コーネリア校長は、いつになく真剣だった。

 むしろ、これが校長という役職を担う彼の、本来の姿なのだろうが。

 少なくとも、コーネリア校長もジャンヌさんも、オレたちへ真摯に向き合ってくれているとは思う。

 だからこそ、こちらも十分に考えた上で、確かな結論を二人に提出しなくてはならないだろう。


「そうですね。……オレたちの答えが決まったら、改めてお伝えするってことでお願いします」

「ああ、それで構わない。……そうだな、コーネリア君は大概校長室にいるだろうから、諾否は彼にしに行くといいだろう」

「否定はしませんが。……すぐにまたどこかへ行くつもりで?」

「いや、しばらく長期の遠征は控えるよ。ただ、私も可能な限りの活動は継続しないとね」


 ジャンヌさんがイレギュラー案件のスペシャリストだというなら、彼女がここへ留まる間はその対応の進捗度合にも影響があって当然だ。

 それでも未来へ繋げるためと、オレたちに教えをつけようとしてくれるなら……その気持ちに背くような返事はし辛いけれど。

 何にせよ、オレたちの活動がハイレベルなものになるのは間違いないこと。

 あくまで自分たちを中心に据えて検討するのが肝要だ。


「今日のところは、ひとまずお開きとしよう。どうなるかは分からないけれど、また笑顔で会えるのを楽しみにしているよ」


 ジャンヌさんのその言葉を胸にしまいこみ、オレたち六人は会議室を後にするのだった。


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