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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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82.其れは、正体不明の

 オレたちが武器を構え、戦闘態勢に入ったのに反応して、歪なる魔物も明白な敵意をこちらへと向けてきた。


『******!』


 聞き取ることの出来ない声、或いは叫び。

 耳障りな砂嵐のような、それは異音だった。

 魔物の肉体は黒々としているものの、緩やかに色を変化させていて。

 時折その色が白黒の明滅を繰り返す、異様な瞬間があったようにも見えた。

 とにかく、常識でものを考えているとまずい気がする……。

 魔物は姿勢を低く構えると、間髪入れず飛び掛かってきた。

 オレは最前列へ飛び出し、盾でその攻撃を受けた――のだが。


「……うっ!?」


 衝撃が予想以上に早く来たせいで踏み込みが浅くなり、吹き飛ばされそうになる。

 何故だ、と魔物を観察してみたときに理由は判明した。

 こいつ、手足が伸縮している……!


「くおぉ……ッ!」

 

 辛うじて突進を弾き返し、オレは再度の攻撃に備える。

 あの手足の伸縮はそこまで劇的に変わるものじゃないらしいが、見た目とも相まって気味悪いことこの上なかった。


「てやあっ!」


 フェイから攻撃強化の魔法を貰ったルカが、勢い込んで魔物に飛び蹴りを放つ。

 しかし、魔物は腕を鞭のようにしならせ、彼女の側方から激しいカウンターを浴びせた。


「うあっ……!」


 何とか両腕を噛ませてダメージを緩和したものの、その体は三、四メートルは吹き飛ばされてしまう。

 地面をゴロゴロと転がり、痛みに呻く彼女へフェイがすぐさま駆け寄って回復魔法をかけた。


「あ、ありがと……」

「ええ。無茶はしないで……」


 幸い、魔法で癒せる程度のダメージのようだが、起き上がるまではどうしても無防備になる。

 魔物もそれを理解しているのか、二人に狙いをつけたままだ。

 再び攻撃を仕掛ける魔物。その前にオレが立ち塞がり、盾を構えてガードする。

 今度は連続した殴打。しなる両腕による打撃は、一発一発が痺れるほどの衝撃を加えてくる……!


「はあッ!」


 その背後から、エスカーが急襲を仕掛けた。

 氷の刃を手に、魔物の首と思わしき部分に狙いをつけて突き刺す――。


「む……?」


 捉えた、と思われた一撃。

 だが魔物は瞬時に片腕を後方へと伸ばしてその刃を受けていた。

 僅かに傷は生じたものの、期待されたダメージには程遠い。

 エスカーはすぐに追撃を諦め、氷を捨てて後方へ大きく飛び退いた。


「――クラッグス!」


 イオナの土魔法だ。

 オレたちと魔物の間に、壁のように岩の柱が突き出てきた。

 初動を察知したのか、魔物は一歩だけ身を退き、それによって岩にぶつからなかったようだった。

 ダメージは無かったが、退避する時間は稼げる。治療が終わったルカはフェイとともに立ち上がり、すぐさま散開した。


「くそっ、こっちの動きに対応してきやがるな……!」

「攻撃もかなり重いよ! 凄い痛かったもん!」


 直撃を受けたルカが言うのだから間違いない。盾越しにもその重さはよく分かった。

 パワーもスピードも兼ね備えた相手……しかも、未だに底が知れないのが恐ろしい。


 ――と。


「えっ!?」


 ふいに動きを止めた魔物が、ゆっくりと腕だけを突き出す。

 次の瞬間、その掌から火の玉が大きく膨らんでいき、こちらに向けて放たれた。

 魔物をずっと注視していたおかげで何とか火球を躱すことには成功したが、全く予想外の攻撃だった。

 というか、あれは普通の攻撃ではなく……。


「魔法……!?」


 そう――今のはまるで火属性魔法だ。

 ランク一の初級魔法のようではあったが、それを魔物が使ってくるなんてあり得るのか?

 大して魔物に詳しいわけでもないし、そういう奴もいるのかもしれない。

 けれど、少なくともここにいる全員が目を丸くして驚くような展開だった。


「……皆、次が来るぞ!」


 呆気にとられている間に、魔物は次の攻撃準備に入っていた。

 身体をバネのようにしならせ、エスカーの方へと一気に飛び掛かる。


「……おっと!」


 エスカーはすんでのところで襲撃を回避した。

 ただ、魔物の攻撃はその一打で終わらない。


「ふっ……!」


 腕をぶんぶんと振り回し、エスカーに連打を浴びせかける。

 四振り目を躱したところで、彼はくるりと後方へ一回転し、大きく距離をとった。


 ――そこに。


「何……!?」


 腕を振り抜いた姿勢のまま、項垂れるようにしていた魔物。

 そいつの頭が急にエスカーの方へ向くと、その口元にどす黒い粒子状の魔力が集束していき。


「……危ねえ!」


 何とかオレの防御が間に合う。

 魔物とエスカーの間に身を滑り込ませたその瞬間、魔物は口から黒の光線を撃ち出してきた。


「ぐ……ッ!」


 盾で光線を受け止める。

 ヤバいかと思ったが、思いのほか威力は強く感じられなかった。

 衝突したときの音は凄まじいものだったのだが――これは、もしかすると。


「……闇属性か!」


 入学二日目に行った能力測定で、オレは闇耐性がSランクだと判明していた。

 明らかに強力な光線をあっさり受けられているのは恐らく、これが闇属性の攻撃だからだろう。

 黒の光線は五、六秒ほどで消失し、それが通った地面には黒いもやのようなものがしばらく残った。

 ……とにかく、何とか無事にやり過ごせたのは喜ばしい。


「……ふう。助かったよ、リーダー」

「なに、大事な役割だからな」


 基本は防御役を買って出て、攻められるチャンスがあれば一気にかかる。

 そのスタンスが今のところ一番安定しているし、これは当然の役回りだ。


「――けど、どうするか……」


 接近戦も得意な上、魔法攻撃に光線まで放ってくる。

 遠近ともに隙の無い相手……難敵だ。

 一つ、有効な手段が思いつくとすれば……。


「……イオナ」

「うん、主力は私かな」


 彼女はオレの言わんとすることをすぐ理解してくれる。

 あの魔物が纏う歪んだオーラに、強力な黒の光線。

 これまでの感触からすれば、魔物は闇属性である可能性が高い。

 つまり、大きなダメージを与えるためには対極の属性――光魔法を撃ち込むのがベストだろう。


「今回も頼む」

「任しといて! ……代わりに皆、サポートはよろしくね」

「そりゃもちろん」


 イオナはニコリと笑むと、すぐさま魔法の詠唱に入る。

 触りだけ聞こえたが、多分前に発動させた光魔法、アウレオールの詠唱だろう。

 時間にして二十秒ほど稼げれば発動まで漕ぎつけられるはず。

 それまでは何としてでもイオナを守り、そして魔法を当てやすいよう魔物の動きを制限してみせなくては。


「――ここが正念場だな」


 息を整え、悪しき魔物を見据える。

 勝利か撤退か、全てはこの攻防次第。勝利をもぎ取るため、上手く立ち回ってみせようじゃないか。


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