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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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81.原生林にて


 ロウディシアのシャロー森林やコリンシアの森林など、これまで魔物の討伐を行ってきたのは似通った景色の場所であったが、エイヴスの森はまた一味違っていた。

 原生林――人が踏み入ることのない自然そのものが残る地帯。それもエイヴスの土壌ゆえか、一つ一つの草木がとても大きく育っていた。

 樹齢百年以上に思える巨木が屹立し、首が痛くなるほど見上げなければ頭上を覆う枝葉が見えないくらいだ。

 ただ、スケールが大きい分間隔も開きがあって、思ったよりも移動はし易かった。

 草の生えていない地帯は、割と見通しも良い。


「……しかし、特殊個体ねえ。本当に見ただけで分かるかな」

「見たら分かるレベルって言われたけど、アテがないもんねー」


 ルカがそう言って小さく溜め息を吐く。

 取っ掛かりが無い以上、これまで役に立っていた彼女の限定スキルも使いどころがない。


「マルにもこれ以上の情報はないんだよな?」

『ええ……あくまで皆さんが聞いたのと同じ情報のみです。ただ、もしかしたらというのはありますが……』

「それは?」


 彼女が思い浮かんでいるものが何か、聞いてみたかったのだが、


「……リーダー、近くに魔物がいる」


 その途中、エスカーがそう忠告を入れてくる。

 ……周囲に意識を向けると、確かに怪しい気配があった。

 残念だが、まずはこちらの対処をすべきか。


『グルル……』


 茂みから現れたのは、二匹の獣。キラーウルフに近いが僅かに体が大きく、体毛が艶のある黒をしている。

 その真っ赤な瞳には、獲物を逃がすまいとする闘争心がハッキリと感じられた。


『ダークウルフ……黒い体毛が特徴の個体ですね。ご想像通り、キラーウルフよりランクが一つ上の魔物だと考えていいかと。行動パターンは基本的に変わりませんので』

「了解。残念ながらコイツが依頼の対象ってことは無さそうだな。普通だし、二匹もいるし」

「だね。この魔物に苦戦してるようじゃ本番がキツいだろうし、軽く倒しちゃわないと」


 イオナの言葉には同意だ。どう見ても、ダークウルフは危険度の高い魔物ではない。

 この原生林にはこの程度の魔物がよく出没することだろうし、簡単に退治出来ないのなら明らかに実力不足だ。


「皆、行くぜ」


 オレが号令をかけ、全員が頷く。

 イマジネート、門を開く者(アルニオン)を展開――剣と盾を出して準備完了だ。


「来るわ!」


 フェイが注意を促す。

 ダークウルフは二手に分かれ、器用に木々を擦り抜けながら迫ってきた。素早く、捉えにくい動きだ。

 やはり森に棲む獣の方に地の利があるよな……!


「ルカは左に、エスカーは右に対応してくれ!」

「おっけ!」

「はいよ」


 指示を受け、二人はそれぞれ位置につく。

 二人が抜けられ後衛に攻撃が迫ったときにはオレが凌ぐ。安定の配置だ。

 もちろん、オレとて狙えるときは率先して敵を攻撃するが。


「――氷刃」


 エスカーは木々の合間に氷柱を生じさせ、敵の動きを制限する。

 ダークウルフは次第に伸びていく氷に戸惑い、僅かにスピードを緩めた。


「――ミスティゲイン」

「ありがと、フェイ! ――サンダー!」


 フェイの補助魔法を受け、イオナが雷属性の攻撃魔法を放つ。

 動きの鈍くなったダークウルフへサンダーは綺麗に命中し、その衝撃で全身が痙攣した。


「……終わりだね」


 一連の攻防の中、右手でじっくり氷の刃を作っていたエスカーは、最後にダークウルフへ急接近してその喉元を掻き切った。

 気配を殺す技術の高さは、流石と言う外ない。


「負けてらんないなあ……!」


 ルカはルカで、高速で駆け回るダークウルフに自身のイマジネートを以て肉迫している。

 だが、やはりこの場所を縄張りとする獣の方が、動きに細やかさがある。だんだんとルカが振り回されるような恰好になっていた。

 一匹はエスカーが処理してくれた。なのでここは迷うことなく助太刀に入る。


「挟むぞ!」

「あ、うん!」


 剣を構え、あえて愚直にダークウルフへ向かって突進する。

 突然迫ってきたオレに対し警戒を強め、奴はすぐさま後方へ飛び退いた。


「……そこだあっ!」


 ちょうどダークウルフが身を退いた地点に、既にルカは待ち構えている。

 気付いた敵は慌てて身を捩るが、空中では方向転換など叶うはずもない。

 出来るのは最早、攻撃に備えることくらいのもので。


『ギャウッ!!』


 ダークウルフの腹部に、強烈なアッパーが直撃した。

 口から血を吐き出しながら、その体が空中へ浮き上がる。

 再び地面を蹴り、とにかく逃げようともがくダークウルフだが、それはもう許されない。

 何故なら、オレの剣がもう奴を捉えているからだ――。


「喰らえ……!」


 必殺の一閃。

 全力の刺突が無防備になった腹部に突き刺さり、背中まで貫通する。

 悲鳴とともに大きくビクリと体を痙攣させたダークウルフは、それを最期に動かなくなった。

 その目もう、生気は宿っていない。


「……ふう。これで終いだな」

「ありがと、ダイン!」


 タッチを求めてくるルカに、オレも手を合わせる。

 ルカとの連携も、中々板についてきたんじゃないだろうか。


「お疲れ!」


 全員が集まったところで、イオナがそう労いの言葉を掛けてくれた。

 ダークウルフの速度には多少面喰ったものの、無傷で倒すことが出来て一安心だ。


「流石はリーダー、人をよく見てるねえ」

「お前も大したもんだろ。手伝ってやる隙がねえ」

「アハハ、素直に褒められるのはやっぱりむず痒いなあ」


 言いながら、エスカーは身震いするような仕草をみせる。

 たまにポジティブな感想を言ってやるとこれだから、やりにくいんだよな。

 溜め息を吐きつつ、オレは忘れないよう戦利品の回収を行っておく。

 ダークウルフの毛皮が二枚……二匹両方から収集出来たのは上々だろう。

 だが、オレたちの主目的は討伐依頼だ。こんなもので喜んでもいられない。

 なるべく早めに、対象の魔物を発見したいところなのだが――。


「……ねえ、ダイン」

「どうしたルカ?」

「いや……何か暗くなってきてないかなって」


 上空を見上げながら、ルカは不安げに言う。

 言われてみると、確かに辺りが暗い気はするが。


「木の密度が増して陽射しが入らなくなってきたんじゃないかな」

「うーん、そうかも? あと、ちょっと肌寒さも感じるんだよねえ……」


 それも陽射しが遮られているせい、と言えばそれまでなのだが、どことなくそれだけではない、奇妙な気配はあった。


「……何だろうな」


 時刻はまだ午後三時前。エイヴスへ来てから一時間と経ってはいない。

 ロウディシアより陽が沈むのが早い、と言うわけでもなさそうだし、やはり奥へ進んでいるから以外の理由は思いつかなかった。

 ……しかし。


「――皆。何か、いる」


 前方に目を向けるイオナ。その表情には緊張が走っていた。

 ぞくりとする感覚。……まさか、この薄ら寒いものの原因は、この先にいる何かなのか……?


「こっちに来るわ……!」


 ゆっくりと……そいつの姿が露わになる。

 まるでその存在によって空間に歪みが生じているかのような、毒々しいオーラを纏った魔物。

 その体は獣や植物などではなく、どちらかと言えば人間のよう。二本足で立ち、ふらつく足取りでこちらへ接近してきている。

 まだ見たことはないが……似た魔物を挙げるとしたらグールやゾンビのような、ヒトガタの魔物か……?


「……へえ」

「エスカー、平気なの? ボクちょっと怖いんだけど……」

「まあ、ヤバそうな奴には違いないね」


 これまで戦ってきた魔物とは、どこまでも異質な存在。

 そもそも、こいつを魔物と呼んでいいのかどうかすらも疑ってしまいそうな。


「……マル、一応は確認しておきたいんだが……」

『……はい。今皆さんの目の前にいるソレが、今回の討伐対象で間違いないでしょう。……なるほど、これは特別な依頼に違いありませんね』


 テスタマイザー越しの声でも、マルの表情が強張っているだろうことは想像出来た。

 無理からぬことだ。オレもこの魔物を前にして、嫌な汗が滲むのを感じている。


「何なんだ、こいつは……?」

「……分かんない。でも、並の魔物と別格なのは間違いなさそう……!」


 誰にもその正体が分からない謎の魔物。

 ただ一つ感じるのは……ここに在ってはならないような、そんな拒絶感を催す魔物であるということ。


「倒せるの、かしら……」

「それも分かんないけど、依頼な以上は戦うしかないよ……!」


 イオナは自身の武器をぐっと強く握る。

 恐怖はあれど、戦う遺志までは失っていない。

 彼女が勇気を振り絞ってくれているのだ、オレも怖気づいてはいられないな。

 あくまでも冷静に状況判断しながらだが、とにかく討伐は試みることにしよう。


「倒せそうにないなら、依頼とはいえ撤退も選択肢だ。安全を最優先に考えて戦うぞ」

「……了解!」


 そしてオレたちは、正体不明の魔物との戦闘を開始する――。

 

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