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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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80.異世界エイヴス


 独特の――決して心地良くはない感覚にしばらく身を委ね、転送は完了する。

 コリンシアのときは、緑色の輪郭が次第に森林を形作っていったのだが、今回は全く異なるものだった。


「……ここは……」


 転送後のオレたちが立っていたのは、室内だった。

 部屋の中心に本の浮かぶワープゲートがあるものの、それ以外にはほとんど物が置かれていないホールのような空間。

 床は磨かれた黒のタイル、壁はコンクリート造のようで天井とも白く塗られている。

 隅の方には長方形のテーブルが一脚あり、椅子も両側に合わせて六脚置かれていて、傍らには会議に打ってつけのホワイトボードもあった。

 四方に扉があったので、とりあえずその向こう側を覗いてみると、それぞれトイレだったり台所だったりと、居住スペースに必要な場所になっており、ベッドが六つ並んだ寝室まで見たところで、ここはまさに『家』をコンセプトとした拠点なのだな、と確信するのだった。


「ハハ、森の中だったコリンシアとは随分違うねえ」

「建物の中に転移出来る方がありがたいな。コリンシアは晴れてたから良かったけど、土砂降りだったら最悪だっただろうし」

「言えてる」


 異世界の住民との親交具合だったり、或いはその文明の発達度合によって拠点の扱いも変わってくるのかもしれない。

 だとしたら、エイヴスはコリンシアよりも積極的な交流をしているとか、近代的な文明を築いているということになる。


「とりあえず、まずは外に出てみないとな」


 扉の一つは玄関に繋がっていて、両開きの玄関扉を開くとようやくこの世界の陽射しを浴びることが出来た。


「――おお」


 異世界エイヴス……果たしてどんなところかと身構えてはいたが、いざその風景を目にしてみると何てことはない。

 例えるなら、まるで農村グロリヤのよう。とても長閑な世界が眼前に広がっていた。

 木造、或いはレンガ造の家々が建ち並び、石畳の道路を人や馬車が行き交っている。

 街全体に高低差があるようで、転送拠点はその下層部分に位置しており、見上げれば上の方まで住宅の屋根が覗いていた。

 また、遠くの方を見やれば北西の方には小高い山々の稜線が目に入る。無数の鳥たちが空を飛び交い、遠くからは微かに波の音も聞こえてくるようだ。

 穏やかでどこか懐かしい島国。

 これが、異世界エイヴス……。


「おんや、またお客さんがいらっしゃったかい」


 風景に目を奪われていると、誰かに声を掛けられる。

 慌てて近くの方へ視線を戻すと、そこには杖を突いたお爺さんがいて、こちらへ歩いて来ていた。


「ど、どうも。こんにちは」


 現地の人が気さくに話しかけてくるとは思っていなかったので、オレはやや詰まり気味になりながら挨拶する。


「こんにちは。あんたたちもここは初めてのようだねえ」

「ええ、そうなんです。あんたたちもってことは、他の人にも?」


 オレとは違って物怖じすることなくエスカーがそう訊ね、


「儂は畑仕事しとるもんでね、さっき畑に向かうのにここを通ったときも、ちょうど同じ人数の子らに会うたよ」

「なるほど」


 ということは、このお爺さんがさっき会ったのはバランたちか。

 まあ、受付でもバランチームが向かったと言ってたし、それ以外ってことは有り得ないだろう。


「ここは何という街なんです?」

「うむ、この街はアーテミーという。長い歴史を持つ国の中心部だよ」


 国の中心部、か。このアーテミーという街がエイヴスで一番大きく活気があり、そして政の全てを担っているらしい。

 オレたちの世界におけるセント・ロウディシアのような、首都にあたる場所というわけだな。


「しかし、あんたたち若いのに大したもんだ。こうして遠い国にまで、遥々魔物退治に来てくれるんだからねえ」

「いえ、そういう仕事ですから」


 このご老人のニュアンスからすると、オレたちはどうやら上層の異世界ではなく遠い国からやってきた異邦人、という認識らしい。

 まあ、この世界が本の中に存在するものだというのは説明し辛いのに違いないし、真実を告げないことも、異世界と上手く付き合っていく上で重要なのだろう。


「ところでお爺さん、この辺りで魔物が出没するような場所ってありますか?」


 イオナの問いかけに、お爺さんはそうだねえと悩んでから、


「魔物が出るとしたら、そりゃ森だろうなあ。特にクレイス原生林の方まで行くとかなりの数がおりそうだが、そこまで行く人がまずおらんからね」

「クレイス原生林ですか。あっちの方ですかね?」


 木々の生い茂る北西の方をイオナが指さすと、お爺さんは小さく頷いた。


「行くなら十分気を付けなさいな。魔物のこともあるが、森にはエルフの一族もおるからね」

「……エルフの?」


 エルフというワードをこちらで聞くのは予想外だったので、オレは思わず聞き返してしまう。

 お爺さんはそうだよと相槌を打って、


「森に住んどるエルフらは排他的だからねえ。それでも、昔よりは態度も軟化してきたようだが」

「そうなんですか……」


 こちらの世界でも、ロウディシアと同じくエルフは外部との交流に消極的な種族らしい。

 正直なところ、オレは異世界というと種族から文化まで違っていて当然という考えだったので、ロウディシアと近似した種族問題があるのは意外だった。


「教えてくれてありがとうございます。気を付けて探索するようにしますよ」

「ああ、頑張ってな」


 ほっほ、と朗らかに笑って、お爺さんは去っていった。

 こうして現地の人が親しげに接してくれ、情報までくれるのはありがたいものだな。

 長年友好世界として交流を続けてきた賜物、ということか。


「……さて。街を観光してみたい気持ちもあるけど、目的は魔物の討伐だ。森の方に行ってみるとするか?」

「そうだね。時間かかっちゃうかもしれないし、さっさと行っちゃおう」


 ルカがそう同意し、他のメンバーからも特に異論は出なかった。

 ということで、オレたちは早速お爺さんが教えてくれた魔物の出没する森へと向かうのだった。

 

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