77.学園生活、二週間目
第一の獣は緑綾なす地に。
信ずるものを違えるな。初めの愛を思い出せ。
――第■代 イオナ=ピルグリムの預言より
「――えいやっ!」
振り下ろされる鉄槌のような拳。
イマジネート能力、勇猛たる翼によって強化された肉体での一撃は、見事に敵の頭部を粉砕する。
衝撃に地面にぶつかって跳ね飛んだ魔物――シザービートルが再び起き上がってくることは無かった。
「こっちは終わり! エスカーは?」
そつなく戦闘を終え、清々しい表情で問いかけるルカ。
問われたエスカーはと言えば、今日も己の得意とするフィールド……樹上で敵をターゲッティングしていた。
「――氷槍」
彼は自らの両手を左右に広げ、その間に氷の槍を生成する。
これまで使っていた氷刃に比べると、当然ながら大きさは四、五倍ほどはあった。
エスカーが槍を投じ、狙い澄まされたその一投は正確に魔物を捉えた。
シザービートルの硬い甲殻の継ぎ目に槍は突き刺さり……断末魔の声を上げた後、魔物は動かなくなるのだった。
「片付いたよ。楽勝だね」
互いに魔物を仕留めた二人は近寄っていき、勝利を称えるハイタッチでもするものかと思いきや、自分の方が手際が良かったと主張し合っている。
まあ、あの二人はそれでこそ二人らしいというか。ちゃんと互いの力量は認め合っているようだし。
「おつかれ、皆」
戦闘を終え、オレはメンバーに声を掛ける。
イオナにルカ、エスカーにフェイ……チームの全員がオレの言葉に頷いてくれた。
「これで依頼達成、だね」
イオナが嬉しそうに微笑んで言う。
そう、これでシザービートルの討伐数は五匹。今日の依頼は達成だ。
休みが明けた、アトモス学園での生活二週目。午前の座学を済ませたオレたちは、午後からの時間で魔物の討伐依頼を受託していた。
シャロー森林で、材木になる木を駄目にしてしまうシザービートルを駆除してほしいという依頼。
見た感じ高効率なこの依頼をすぐさま請け負って、列車に乗り込みここまでやって来たという次第だった。
一ツ星の中では難易度が高めだとフィンクスさんには言われたが、結局怪我をすることもなく討伐は完了してしまった。
やはりというか、オレたちは着実に成長しているらしい。
忘れずに収集品の回収をしてから、さて帰ろうかと号令をかける。
すると、そのときだった。
「あっ、何あれ!?」
茂みの方を指差すルカ。その指し示す方角には、周囲の魔物とは異なる特殊な見た目をした奴がいた。
体表が金色なのである。
『皆さん、今の魔物は特殊個体のようですよ。私は定期的に懸賞金がかかっている魔物やレア素材の情報を確認していますが、そこに載っていた個体に間違いないかと』
「マジか。情報提供助かる、マル。……そいつは是非とも討伐しておきたいところだな」
『ええ。こちらは急ぎ当該魔物の情報検索をかけてみます』
魔物はオレたちの気配を感じ取るなり、反対方向へ逃げてしまった様子だ。
あれは恐らくリスの姿をした魔物。そこまで大きくは無かったし、逃げ回るのなら追うのは難しそうだな。
「ルカ、マナを追えるか?」
聞くまでもなく、ルカはマナを探り始めていた。ブラッドベア討伐時の経験もあるし、判断が早くなっているのも一つの成長に違いない。
「今のところは真っ直ぐ逃げてると思う!」
「よし、追いかけよう」
なるべく音を立てないよう気を付けつつ、オレたちは追跡を開始する。
討伐依頼、ボーナスステージだ。
『出ました。ゴールドスクワール、リス型の魔物ですね。通常個体はフィアスクワールといって凶暴な魔物のようですが、極稀に体表が金の個体が生まれるようです。性格も対照的で臆病らしく、ひたすら逃げ回るようなので苦労しそうですけど、その毛皮は高級品として重宝されているとのことです。依頼掲示室にあったのも、討伐依頼ではなく毛皮買取の情報でした』
「ま、あんな派手な柄してるんだからそうだろうな。毛皮、獲得出来りゃいいが」
討伐に成功しても、収集品として毛皮を獲れるかは分からない。
どれだけ該当部分を傷つけずに討伐出来たかが影響する、というのは分かっていても、いざ戦闘になったら気にするのも難しいし。
「じゃ、斥候役でも引き受けさせてもらおうかな」
エスカーは地上を走るのが間怠っこしいようで、さっさと木の枝を伝って先に行ってしまう。
ルカのような強化能力を持ってるわけでもないのにあんな風に動けるのは、やっぱりどう考えても普通じゃないよなあ。
そういう特殊訓練でも受けてたのかと疑いたくなるレベルだ。その秘密を聞いても答えてくれなさそうだが。
『ゴールドスクワールはその臆病な性格ゆえ、常に自らの巣から極端に離れることはなく、危険を感じれば巣へ戻ろうとする傾向があるようです。落ち着いて巣になりそうな場所を探れば、見つけられるんじゃないでしょうか』
「逃げた方向に大きな木や洞穴があれば、そこが巣とみてよさそうねえ」
フェイの言う通り、その可能性が高いだろう。
比較的小型の魔物だったので、隠れられそうな穴などは見逃さないよう注視していかなくては。
「あ、エスカーだ」
イオナが前方の樹上を指差す。そこにエスカーの後姿が見えた。
彼もまたこちらに気付くと、すぐ近くの大木を指し示す。……どうやら巣穴を見つけてくれたらしいな。
真正面に佇む大木、その中間あたりにぽっかりと穴が空いている。
じっと見ていると、微かに金色の煌めきが覗いた気がした。
「さてと……どうするか」
こちらへ合流しつつ、エスカーは呟く。
巣の中にターゲットはいるものの、迂闊に近づくとすぐ逃げられてしまうだろう。
こういう場合、遠隔攻撃が有用だろうが。
「氷だと当たらないこともありそうだからねえ」
「それなら魔法の出番かな?」
ここが腕の見せどころとばかりに、イオナはぐるぐると右腕を回してから、魔法の発動準備に入る。
「ダイン、あの入口って塞げる?」
「出来なくはないと思うけど……一丁やってみるか」
イオナが使おうとしているのは水魔法。であれば、タイミングが重要だ。
隣に立つ彼女の息遣いすら聞き逃さぬよう集中して、その瞬間を待つ。
「――アクア!」
魔法が放たれ、巻き上がった水流がゴールドスクワールの巣に向けて奔る。
その水が飛び込んだのと同時に、オレは黒霧の力で洞の入口に蓋を作り出した。
水責めだ。
魔法の水によって満たされた巣の中で、ゴールドスクワールが藻掻く音が何度も聞こえた。
しかし、それも二、三分が経つ頃にはすっかり無くなってしまう。
イマジネートを解除し、蓋が消え去っても、巣の中からゴールドスクワールが出てくることはない。
中を覗くと、濡れ鼠ならぬ濡れ栗鼠となった死骸が横たわっているのだった。
「ま、いい連携技だったんじゃない?」
「お褒めいただき感謝いたします、エスカーさん」
「お二人、何かあったのかい?」
「なーんにも?」
息をピッタリ合わせられたってだけでエスカーは変に勘繰るような質問をしてくる。
それをイオナもイオナで、挑戦的に返答するのもどうかと思うが。
「てか、お前も似たようなことは出来るんじゃないのか」
「俺の能力も万能そうには見えるかもしれないけど、性質は氷だからねえ。上手く蓋を作れるかというと……ああ、でも氷漬けには出来るかも」
エスカーの能力は結晶のような尖った氷を形成するのが基本の能力らしく、他にはその場に水があればそれを氷に変質させることは出来るらしい。オレが霧を板状にして蓋を作ったように柔軟な造形をするのは難しいようだ。
……しかし、氷漬けってのも中々恐ろしい倒し方だな。
「……それより! ほら、戦利品だよ!」
ルカがテスタマイザーの画面を示す。
どうやらエスカーと話している間に素材を獲得してくれていたらしい。そこには、
『ゴールドスクワールの毛皮:1枚』
という表示が確かにあった。
「おー、ちゃんとゲット出来たね!」
「やったわねえ。これでいくらくらいになるのかしら?」
『一枚で千五百ペンドはあったかと。低ランクで獲得出来る素材としてはトップクラスでしょうね。加えて、評点も一ポイント加算されるようです』
「臨時ボーナス、だねえ」
シザービートル五匹の討伐依頼でも同じく千五百ペンド、評点が二ポイントの加算だったし、ちょっとの手間で報酬が倍増してくれたようなものだ。
今日の稼ぎとしては十二分、といったところだな。
「……さ、依頼も済ませてレアモンスターも倒せたことだし、学園に帰るとするかね」
「はーい。結構いい時間になっちゃったしね」
時刻は三時半になろうかというところ。移動時間を考えると仕方ないが、午後から依頼をこなすなら二、三件が精一杯という感じかな。
講義がなくなる四年目からは、もっと制限なく動けるようになるのだろう。若手の間は勉強と仕事、上手く両立してやってかないとな。
「今日は贅沢するかーっ」
喜ぶルカを生暖かい目で見つつ、オレたちは帰還の途につくのだった。




