76.5 その夜
ダイン=アグナスとイオナ=ピルグリムが見ているのと同じ月を、コーネリア=セントリオもまた宿舎の自室から眺めていた。
生徒としては休日といえども、大人たちに明確な休みは存在しない。
どこかで魔物の脅威が発生すれば、急ぎ対応に当たらなければならないのが常である。
校長としての役割を仰せつかったコーネリアは、その責務を重々理解していた。
ゆえ、この日も生真面目に各地の魔物情報を調査したり、WSの僅かな変化も見逃さぬよう、警戒度の再チェックを指示するなど業務に明け暮れていたのだった。
「……ま、この役についちまった以上はねえ」
誰にともなく、コーネリアは呟く。
そして仕事終わりのエールを煽り、その喉越しと美味さを愉しんだ。
「――さて、と」
彼は、ある人物からの連絡を待っていた。
入学式の夜にも会話を交わした、彼をして憧れる人物である。
ちょうど、通話機に注意を向けたところで着信音が鳴る。
もう一度だけエールを飲んでから、コーネリアは受話器を取った。
「もしもし、コーネリアだが」
『やあ、こんばんは。見てるかい? 今宵は素敵な月だね』
通話の相手は朗らかな口調で話す。
彼女もまた、コーネリアと同じように月を見ているらしかった。
「それには同意しますが……結局どうなんです、そっちは?」
『ああ、万事順調だ。そろそろまた学園に戻れるだろう。コーネリア君も一週間ご苦労だった』
「ふう。それを聞いて一安心ですよ」
コーネリアの言葉は本心からのものだ。
彼の指導者人生において、今ほどの重圧を感じたことはかつてなかった。
それが百期生――この記念すべき年に訪れようとは。
「終末――ですか」
『未だに信じられない?』
「いえ。信じてしまえるから、悩ましいんですよ」
『……なるほどね』
初めて聞かされたときは、確かに困惑もした。
何を根拠にその悲劇的な終焉を語るのだろうかと。
けれど、世界の在り方を理解した今となっては。
ただ真摯に、語られた終末の刻に備えて動くしかないと、彼は固く決意しているのだった。
「だとしても、イマジネーターとして……人として全力で戦うしかない。終末だろうが何だろうが、俺たちはそれを超えていく。そのつもりですよ」
『フ……やはり君が校長でいてくれて良かった。大丈夫、私たちも同じ気持ちであり、そして同じく武器を取って戦わせてもらうさ』
だから、と彼女は続ける。
『共に見よう。この世界の新たな夜明けを――』




