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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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76.預言者と呪われた運命


 楽しかった外出の時間も終わり、世界はすっかり闇夜の中にあった。

 今宵は満月。まん丸な月と、煌めく星々が夜空を飾り立てている。

 ……あれから公園での休息を終えたオレたちは、そのまま列車に乗ってアトモス学園に帰還した。

 互いに感謝の言葉を述べつつ、けれどもまだ何かが足りないような気持ちを感じつつ……とりあえず、その場は解散したのだった。

 その後の夕食の席にイオナは現れず、エスカーもオレたちが食べ終えるギリギリのところでやって来たので、同席したのは実質ルカとフェイだけだった。

 ルカは勘が鋭いのか何なのか、オレが今日誰とどこへ行ったのか、しつこく問い質してきたな。

 嘘を吐くのも怖いし、そもそも吐く理由もないので素直に話したが、それでも彼女はご機嫌斜めな感じだった。デザートをおごってやると、多少はマシになったけれど。


「――はあ」


 夕食後、風呂を済ませたオレは、夜風で涼むために寮の屋上へとやって来ていた。

 ここはときどき生徒たちがバーベキューなどイベントを開いたり出来るよう、開放されている場所だった。

 普段は誰もいないので、心を落ち着けたいときには来てみよう、と思っていた。今が適切なタイミングだ。

 頬を撫ぜる風を感じながら、オレは彼女の――イオナの話を思い返す。

 予想もしていなかった彼女の素性。抱える重荷。そして――。


「呪われた運命……ね」


 それは、笑い飛ばすにはあまりに悪魔的な、まさに運命と諦めたくなるような歴史なのだった。





「……記録では、星歴九五年に最初の代行者が発見されているらしくて、現在……星歴二二〇年の私で六人目なんだ。イオナ=ピルグリムという名前はいわゆる世襲制で、新しい代行者に代々継がれてきたって感じだね」


 自身が――イオナ=ピルグリムという存在が背負ってきた歴史を、彼女は語ってゆく。


「最初のイオナは一歳のときに始まりの預言を詠んだ。当時は代行者の存在なんて把握していないから、教会も動いてなかったものの、偶然家族で礼拝に来ていたときに預言が始まってね。それはもうドタバタだったらしいよ」


 教会の司祭たちは必死になって少女の預言を記憶し、全てが終わった後に全員で擦り合わせを行って文書にまとめたのだそうだ。

 それから、少女を女神が遣わした代行者なのだとして、教会で保護し育てることを決定した。

 代行者としてはその少女が初代の『イオナ』なわけだが、オリジナルのイオナ……つまり女神こそが初代イオナなのだということで、代行者の少女は二代目イオナとされたらしい。

 教会もややこしい定義をするものだ。


「その子の家族にも納得してもらって――と言うか、自分の子がそんなことしたんだから納得せざるを得なかっただろうけど――教会はその子にイオナ=ピルグリムという名を付け、成長を見守った。けれど、彼女は二十歳を迎えた後、原因不明の病で亡くなってしまった」


 教会は嘆き、そしてまた混乱したという。過保護なほど注意を払い育ててきたのに、どうして二十歳という若さで死を迎えてしまったのかと。

 死の原因を究明するべきかどうか、教会は議論を重ねた。しかし、そこに新たな情報が飛び込んできたのだ。

 桃色の髪の女の子が生まれたという知らせが。


「教会はすぐさま赤ん坊を引き取って、二人目の代行者イオナとして育てることにした。二人目は四歳になる頃、最初のイオナと同様に世界へ一つの預言をもたらした……」


 預言を記録した教会は、前回の二の舞にはなるまいとより慎重に少女を育てた。

 しかし……少女の運命が変わることはなかったのである。


「二人目……教会の定義的に三代目が亡くなったのは一三八年、彼女が二十一歳のときだった。ここに至って教会は理解したの。女神の代行者は早世する運命にある……その理由など、人間には到底分かるはずもないとね。ただ、一人の代行者には一つの預言しか与えられず、世界に新たな預言が必要な時が来れば新たな代行者を立てねばならなくなるのではと、そんな予想だけは出てきたりもしたけれど」


 新たな預言のために、古き代行者は命を奪われ、新たな代行者が生を宿す。

 イオナ=ピルグリムという存在は……そうして継がれてきたのだ。


「以降も代行者イオナは、生まれては二十歳前後で亡くなるという運命を繰り返した。預言を一つ、世界に遺して。七代目になる私も幼い頃に預言を詠んで……今で十五歳。もうあと四年か五年もすれば、過去のイオナと同じ運命を辿るかもしれない――」


 彼女の声が、震えていることに気付いた。

 折り合いなど付けられるはずもない、悲劇的な未来への怖れ。

 それでも、と彼女は続ける。

 これを運命と諦めたくないんだと、声を振り絞る。


「もし、新たな預言のためにイオナが生まれ変わらないといけないならさ。預言が必要ない世界になればいいんじゃないのって思うんだよ」

「それって……」

「うん。契約の筐について聞いたことがあるなら、知ってるよね。初代イオナ=ピルグリムの預言、その最後はこう締められてる。『そして、新たな夜明けを迎えるとき。この言がどうか力失わんことを』……って。これはきっと、女神様も預言なんか無い方がいいって思ってる証なんだよ。そして預言が無くていいなら、代行者が早くに命を落とすこともまた、無くなるに違いないんだ」


 新たな夜明けを迎えるとき、預言が力を失うことを願う。

 ならば、預言を無くすためには『新たな夜明け』なるものを迎えなくてはならないことになる。

 それは、一体どんなものなんだろう。

 その『夜』を明けさせられたなら、今ここにいるイオナの命を救うことが、出来るのだろうか。


「だから、私は戦う。どうすることが夜明けに繋がるのかは分かんなくても、戦い続けてやるんだ。この運命染みた何かに、絶縁状を叩きつけてやるためにさ」


 隠し続けてきた胸の内は、きっとボロボロに違いないというのに。

 イオナはそんな強がりを口にし、オレに向かってニコリと笑ってみせたのだった。





 ……午後の公園での一幕。

 思い返すたび、溜め息が口を衝いて出てきてしまう。


 ――何がお返しだよ。


 父親がいないというオレのエピソードなんて、可愛らしいものに思えた。

 彼女が抱えていたのは、オレの過去とは比べ物にならないほど過酷な宿命だった。

 そんな世界の裏事情があることなんて、知るはずもなく。

 つまり彼女は、今まで誰にも知られないまま、生きていくしかなかったのだ。

 自らを保護したセラフィス教会の人以外には……。


「オレなんかで、良かったのか」


 もっと打ち明け甲斐のある、頼れる人はいたんじゃないのか。

 それこそ学園の教官とか……コーネリア校長とか。心の支えになってくれそうな人は、結構いると思うのだけど。

 いや――既に話している大人はいるのかもしれない。

 その上で、同年代の誰かにも打ち明けておきたかったのかもしれない……。

 そう。信頼してくれたことを、嬉しく思う。

 打ち明けられるような存在に、この短期間でなれたことを光栄に思う。

 だけど、手放しには喜べやしない。

 彼女の命という砂時計がさらさらと流れ落ちていくのを、突きつけられたような気持ちになってしまったから……。


「――あ」


 ふいに、後ろから声が聞こえた。

 慌てて振り返ると、そこにはイオナの姿があって。


「……ああ、こんばんは」

「ふふ、こんばんは。……気持ちいい風だね」

「だと思ってさ。お前はよくここに?」

「ううん。今日が初めて」


 ということは、オレと全く同じなわけだ。

 意外と性格の根底は、似通っているのかも。


「えと、ごめんね。晩ご飯一緒に食べなくて」

「気にすることじゃないさ。一人の時間も大事だろ」


 オレも一人になりたいときはよくあるし、ましてやあんな話の後では当然というものだ。


「……なあ、イオナ」


 月を見つめたままで、オレは名前を呼んだ。

 彼女の視線がこちらへ向けられるのを感じつつ、オレは言葉を紡ぐ。


「正直オレは、お前が背負ってきたものをどれだけ軽くしてやれるか……自信はない」

「……ダイン」

「でも」


 オレなりに、かけておきたい言葉は見つかっていた。


「リーダーになっちまったからな、チームメンバーを守るのは責務だろう。……だから、イマジネーターとして一緒に戦って、一緒に卒業して。それから先の未来も、のんびり楽しくやってこうじゃねえか」

「……えへへ、そうだね……」


 共に、未来を想う。

 共に、未来を創る。

 そのために、戦っていきたいと。

 オレは心から、そう感じていた。


 月は、ゆっくりと昇っていく。

 ただ、それを見つめながら静かな時は流れゆく。


 その静けさの中に。

 オレはやがて訪れる災厄の予兆を、感じていたのかもしれなかった――。


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