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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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6.照らし出す光

「行けえっ!」


 元気よく声を張り上げ、彼女は杖を振るう。

 その杖から稲妻のように光が噴き出し、ガーゴイルの左肩を射抜いた。


『グガアァッ!』


 光速で放たれた攻撃に対応出来なかったガーゴイルは、傷口を押さえながら悲鳴を上げる。

 ぽっかりと空いた穴からは緑色の血が零れ落ち、玄関ホールの床を汚していった。


「まだまだ!」


 更に杖を振るい、続けざまに放たれる光弾。小さいながらもその威力を身を以て知ったガーゴイルは、必死になって回避する。

 しかし、一度躱したはずの光弾は瞬時に方向を変え、ガーゴイルの方へと戻ってきた。あの速さで方向転換まで出来るのか。

 

『グゥウオオンッ!』


 避けるだけでは埒が明かないと判断したのか、ガーゴイルはくるりと身を翻して光弾に対して鉤爪攻撃を放った。

 その皮膚を貫いた光も、強靭な爪までは破壊出来なかったらしく、塵のように消えてしまう。


「これくらいじゃ、やられてくれないか」


 クルクルと光の杖を回しながら、彼女は残念そうに言う。

 その口ぶりからして、まだ余力はあるのだろうが。


「――ライト!」


 杖を握っていない方の手を上空に突き出すと、彼女は力ある言葉を発動した。

 魔法スペル……イマジネーター誕生よりも前から存在する、古典的な戦闘術だ。

 現代に至っては、初級魔法などは一般人が日常生活の一助として使うレベルにまで落ち込んでいるのだが、才ある者が使えば十分魔物にも通用する。

 それにブースターは魔法に対しても強化機能を有しているため、今彼女が使ったような一番ランクの低い光魔法でも、戦術として役立てられるというわけだ。


『ウウッ!?』


 突如発生した強い光。オレもその眩しさに、思わず腕で目を覆ってしまったが、ガーゴイルにとってはそれだけで済まなかった。

 光の当たった部分から、まるで焼き鏝を当てられたように熱され、煙が生じる。

 そして、ガーゴイルが怯んでいるところに。


「終わりだよ!」


 杖からの光弾が、ガーゴイルの腹部を見事に貫いた。これは間違いなく致命傷だ。

 耳を塞ぎたくなるような、悪魔の叫び声。光に身体を焼かれるというのは、さぞかし激痛なのだろう。

 両手で腹部を押さえたまま、ガーゴイルはズシンという轟音とともに地面に沈んだ。

 彼女の宣言通り……これで終わりのようだ。


「凄い、な……」

「ふふ、それほどでも」


 謙遜の言葉を口にしながらも、少女は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 実際、余裕そうな戦いぶりだったものの、ジャイアントキリングだったのかもしれない。

 ガーゴイルなんて、都市部近郊では現れないレベルの魔物なはずだ。


「ま、私一人で何とかなって良かった。……それにしても、あなたはどうしてこんなところに?」


 おっと、戦いに見惚れていて大事なことを失念していた。

 そもそもオレは、彼女を心配してここへ来たはずなのに。


「いや、君が一人だけ列を離れてこっちに来るのを見かけたから……怒られないうちにと思って」

「え、わざわざ戻るように言いに来てくれたの……?」

「オレが見て見ぬふりして、君が後で怒られてるのを見たら後悔しちまうだろ」

「……そっか」


 彼女は一瞬だけ意外そうな顔をしたが、すぐに微笑んで、


「ありがとう。……私はイオナ=ピルグリム。あなたは?」

「ダイン=アグナスだ――って、()()()?」


 あれこれ驚くことばかりが続くが、彼女の名前にもまた驚かされた。

 何故かといえば、それは。


「イオナって……()()()の名前じゃねえか」

「ふふ、そうなんだよね」


 こともなげに、彼女はそう言ってのける。

 いやいや、まさか自分はその女神様なんですとか言うつもりじゃないだろうな?

 女神イオナと言えば、この世界を創り出した原初の神様とされている伝説上の存在だ。

 イオナを信仰するセラフィス教会というのが古くからあって、それこそ世界中の人から認知され、信仰されている存在なんだぞ……?


「あーいや、私は女神様だ! なんて言うわけないよ? よく親もこんな大それた名前を付けたもんだよなあって常々思ってまして」

「まったくだな……そんな名前の子がいるなんて衝撃だよ」


 自分の子どもに、世界で最も名の知れた神様の名前をつけるとは。

 今までイオナという名前を持つ人に出会ったこともなければ、メディアとかで聞いたこともない。

 そう考えると、彼女の両親はよほどの怖い物知らずではと思えた。

 何というか、付けられた子どものことをもっと考えてやれよというか……。


「人の名前をとやかく言うつもりはないけど、その……苦労してそうだな」

「んー、まあ。それでもここまでしっかり育ちましたが!」

「はは……」


 どうやら、彼女は結構ポジティブな性格らしい。苦労があったのは事実だろうし、それでもめげずに頑張ってきたのには素直に感心する。

 しかし、イオナちゃんねえ……名前を呼ぶのにこっちが抵抗を感じてしまうな、これは。


「けど、まさか君が普通に戦って魔物を倒しちまうなんて……追いかけて損したな」

「ごめん、ごめん。見られるかもとは思ってたけど、追いかけてくるほどのお人よしがいるとまでは予想してなくて……」

「別にお人よしじゃない。寝覚めが悪くなるのがヤだったんだよ」

「ふふ、そーですか」


 ……真面目に聞いてくれてないな、この子。


「まず、新入生の君がどうしてブースターとか、その腕のデバイスとか持ってるんだよ。後で支給されるものじゃねえのか?」

「普通はそうなんだけどね。私、特待生なんだ」

「特待生……」


 そういう制度がある、というのだけは知っていたが、この子は特待生だったのか。

 ずば抜けて優秀な成績で試験に合格したり、特別な能力や経験があったりした生徒に一定の優遇措置をとる、というものだったはずだが。


「それで事前に支給品、か」

「そういうこと。能力が使えるのも、事前に試させてもらってるからだよ」


 光の杖……確か『照らし出す光(リベレイション)』だったか。

 率直に言って、とても綺麗な力だった。戦いに対して抱くような感想ではないのかもしれないが。

 でも……それこそあのときの、金髪の女性イマジネーターが使った能力のような。


「あのレベルの魔物との実戦経験はないから、内心ヒヤヒヤしてたんだけどね」

「やっぱあの魔物、生半可なヤツじゃないんだな。……ガーゴイル、で合ってるのかな」

「だと思う。いやあ、倒せて一安心。これなら多分、怒られなくて済むでしょう」


 ……ん? ちょっと待て。


「君は戦闘員扱いだから来たってワケじゃねえのか?」

「違うよ。役に立てるかなって思ったから来ちゃったんだ。で、ちょうど魔物を退治出来たってわけ!」

「……マジかよ」


 それ、倒せたところで命令無視っつって怒られるんじゃないのか。


「あのなあ……」


 呆れてしまい、オレは嘆息を吐いてしまう。

 そして、きっと怒られるぞと言おうとした、そのとき。


 ――あれ? 


 今、視界の中でイオナちゃん以外の何かが動いたような――。


「危な――」


 二度目の呼びかけは、間に合わなかった。


「きゃあッ!!」


 横ざまに振り抜かれた剛腕が、イオナちゃんを吹き飛ばす。

 それは、ガーゴイルの腕に違いなかった。

 まさか……あれだけの傷を負いながら、ヤツはまだ動けたのか……!


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