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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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74.イオナという存在

「美味しいー!」


 満面の笑みを浮かべながら、イオナは炒飯をもぐもぐと食べている。

 隣には大きめのラーメン鉢も置かれていて、既に中身は半分ほど減っていた。


「嬢ちゃん、良い食べっぷりだねえ」

「えへへ、ありがとうございます」


 オレが案内したのは商業区にある、下町情緒溢れる小さな食堂だ。

 炒飯やラーメンといった庶民的かつ短時間で出てくるようなメニューばかりの店で、家族での買い物終わりには時折ここを利用していた。物心ついたときから知っているし、かれこれ十年以上は通っているのか。

 どちらかと言えば上流階級のお嬢様のようにも思えるイオナだから、こういう店には馴染まないと勝手に考えていたのだが、彼女はここの料理をお世辞抜きに気に入ったらしい。変に身構えていたけれど、杞憂に終わったようだ。


「けど、こういう料理はあんまり食べたことないんだな?」

「うん。ちょっと規律が厳しいというか、そもそも出てくる料理がしっかりし過ぎてるというか……。だから学園の食事も、あんまり食べたことないものを楽しんでるんだよね」

「……お前って、貴族の家系か何かなのかよ」


 立ち入っていい話なのかどうか分からないので、あえて素っ気なく質問を投げかける。

 イオナは困ったような顔をして、小声で答えを返した。


「というより、宗教的な関係で?」

「……なるほど」


 彼女の言わんとしていることは、何となく察せられた。

 薄々思ってはいたことだけれど、どうあがいても隠し遂せるものではないだろう。

 その名前が持つ重みは。


「しかし、ダインくんがまさかこんな美人の彼女が連れてくる日が来るとはねえ」

「か、彼女じゃないよ大将。アトモス学園で知り合って、一緒のチームになったんだ」

「そうそう、お前さんイマジネーターになったんだもんな。なるほど、お仲間さんか」

「そう、仲間……」


 彼女と勘違いされ、胸がドキリとしてすぐさま否定したが、大げさ過ぎただろうか。

 バレないようにちらと隣を見ると、彼女扱いされたイオナは僅かに眉をひそめて苦笑していた。……感情が読み辛い。


「青春だねえ」

「もう余計なこと言わんでくれ、大将……」

「はは、こういう性格なもんですまんな。ほれ、こいつをサービスしてやるから」

「あっ、チャーシューだ! やった」

「ホント、よく食うなあ……」


 オレも結構お腹いっぱいなのだが、イオナもオレと同じかそれ以上に食べている。

 見た目によらないというか何と言うか。エスカーがいたら、体重気にしたら? なんて皮肉を飛ばしてきそうだな。

 イオナは結局、一人前の炒飯とラーメン、それに追加で来たチャーシュー三切れも残さず平らげた。良い食べっぷりだ。

 そうしてすっかりお腹いっぱいになったところで、大将に感謝を述べつつ店を後にするのだった。


「割り勘で良かったの?」

「むしろここを紹介したのはオレだし、今のはおごりにしようかと思ってたくらいなんだが」


 支払いを済ませた後、イオナはちゃっかり半額をこちらに振り込んでくれたのだ。

 それを返すなんてのも野暮だし、ここはありがたく割り勘とさせてもらったのである。


「……で、どうしようかね。買い物は済ませたし、学園に帰ってもいいっちゃいいけども」

「そうだねー。……それもアリだけど」


 イオナはそこで、ふいにオレの手を取ってくる。

 それがあまりに突然だったので、オレは目を丸くして彼女の方を見つめた。


「あともう一ヶ所、一緒に行きたいところがあるんだ」


 オレにはもちろん、その提案を断る理由などなかった。





 セント・ロウディシア、特別区。

 午前中に滞在した開発区や商業区とは打って変わり、ここは建物自体が少なく辺りはとても静かだ。

 学校は休みだし、倉庫への搬入もない。ギルドもそこまで人の出入りがあるわけではなく、つまり人の気配はほとんどなかった。

 今、オレたちは区内の公園にやってきている。開発区にある公園と違って、こちらの方がより自然というか、人工物が少なく緑が映えていて。並木道を歩いていると、とてもリラックス出来るのだった。


「賑やかなのもいいけど、こういう場所もいいでしょ」

「オレはむしろこっちの方がいいさ。喧噪は好きじゃないからな」

「ふふ、だと思った」


 あそこに座ろう、とイオナがベンチを指差す。……ちょっと小さめで、二人で座るのがちょうどよいサイズだ。

 了解して座ってはみたものの……彼女と微妙に体が触れて、少々気まずくなる。


「はー、充実したお出掛けだったなあ」

「お互い目当てのものは買えたしな。昼飯も、まさかあんなに満足してもらえるとは」

「大満足だよ。ダインの好みもまた一つ分かったし」

「それはプラスなのか……?」


 もちろん、とイオナは声を張る。

 そんなに勢いこんで言われても、何と返していいやら。


「収穫の多い一日でした」

「そりゃ結構。……で、どうしたんだよ?」

「どうしたって?」

「なんか、話したいんだろ」


 オレがそう投げかけると、イオナは驚いたように見返してくる。

 それから、照れたように頭の後ろを撫でて、


「あはは……そういうところは察しがいいんだねえ」

「そういうところってなんだよ。……それで?」


 うん、と一つ頷いてからイオナは、


「どこまで内緒にしておけるかなって悩んではいたんだけど……どうせ隠し切れないことだし、誰にも言わないのもしんどいだけだしって思って」


 暖かな午後の陽射し……手をかざしながら青空を見上げ、


「あのね、ダイン」


 彼女は、自身の秘密を吐露する。


「私って、女神イオナの生まれ変わりなんだってさ」

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