73.楽しいショッピング?
「あ、これいいなあー! こっちのも可愛いけど……」
ここ最近出来たばかりの大型ショッピングモール。
その服飾店にオレとイオナはやって来ていた。
ターゲットが明らかに若い女の子向けで、もちろんオレは入るだけでも気まずいところだ。
人生で一度も立ち寄ったことのないそんな店に、オレはイオナに付き添って入店したのだった。
「ねえダイン、どっちがいいと思う?」
「え、ええと――」
オレに聞かれても。……なんて心の中で呟きながらも、一応自分なりに似合いそうだなと思った方を指す。
イオナは満足げに笑うと、じゃあこれに決めたと商品をカゴに放り込んだ。
「いいのか、そんな決め方で」
「自分じゃ選べないから、他の人の評価も参考にってね。どっちも可愛いし、どっちでも間違いじゃ無いのだよ」
実際に嫌な顔は全然していないし、それならオレが気にするのも野暮か。
しかし、店に入って十分ほどでもう二着目。そのうえ他にも商品を物色している。
「こっち――は流石に良くないか」
「……そりゃそうだろ」
女性ものの下着コーナーじゃねえか。
同伴だとしてもそこには入っていきたくないぞ。というか、イオナも嫌だろ。
「これはまた今度にしよっと。……あ、最後にこれ買っちゃおうかな!」
近くにあった短めのソックスを手に取り、そのままカゴへひょいと入れる。
まだ未練はありそうだったが、あまり長くなるのもと思ってくれたのか、イオナは物色を終えてカウンターへ向かった。
「いやあ、自分の稼ぎで買い物出来るっていいもんですね」
「そこは同意だけど。結構買ったな……」
「物持ちは良い方だから大丈夫。それにこのブランド、値段はお手頃だし」
「へえ……」
確かに、勘定を隣で見ていたけれど、三点で四千ペンドを超えない程度の金額だった。
一つがソックスだったとしても、お安い価格ではあるか。
「……ダインさん、ダインさん。申し訳ないんだけど」
「うん?」
「もう一軒寄らせて貰ってもいい?」
「……はいはい。付き合いますよ」
……これ、単純にイオナがショッピングに来たかっただけじゃないのか?
というわけで、結局その後オレはイオナと二軒ほど店を回ることになった。
化粧品の店に音楽レコードの店。彼女に音楽鑑賞の趣味があったのはここで初めて知ったが、オレは最近の流行りに疎かったのであまり話を広げ辛かった。
そんなオレに対し、イオナはそれならばと音楽の良さを訴えてくる。
「音楽っていいものだよ。そのときなりたい気分になりやすくしてくれるというか。やる気を出せる曲、落ち着ける曲、明るくなれる曲……ダインもちょっとずつ聞いていきなよ」
「ん……まあ、イオナがそう言うなら。落ち着ける曲ってのは見つけたい気もするし」
「うんうん。良ければ今度、古いプレーヤーなら譲るよ。学園に来る前新しいの買って、とりあえずはどっちも持ってきてたんだけどさ」
「プレーヤーって高いだろ。そこまでしてくれなくても……」
「いいのいいの。これもお詫びの一つってことにしてよ」
……流れるように話が進んでしまった。レコードプレーヤーか……ピンキリだろうけど、高いものなら一万ペンドは下らないのではないか。
それだけでもお釣りが出てしまうくらいのお詫びな気がする。ちゃんと音楽に興味を向けて、この厚意に応えないといけなさそうだ。
フェイに本を貸してもらったのもあるし……かなり忙しくなるのでは?
「よし、私は満足したし今度こそダインのだね。画材はあんまり詳しくないので付いて行きます」
「オレも特に詳しいとかじゃないが……メジャーな店があればな」
施設内のフロアマップを確認してみると、昔利用したことのある画材屋が入っていた。
元々この近くにあったはずなので、移転してきたのかもしれない。これ幸いと、オレはそこへ行ってみることにする。
店舗の内装は記憶とほとんど変わりなかった。配置に変化がないなら、商品選びも楽そうだ。
「はえー、色々あるんだねえ」
「品揃えはかなりのものだろうな。オレは素人だし、沢山並んでても何が何なのか良く分かんねえが」
自分はあくまで水彩画だけが範疇だ。
学生でも使ったことのあるような絵の具くらいしか買った経験はないし、多分これからも他のジャンルに手を出すことはないだろう。
残りが少ない絵の具があったのと、筆も予備を買い足しておこうと思い、オレは普段使いのものをささっとカゴに入れていく。
別段他のものに目移りすることもない。こういうのは、使い慣れた道具の方がいいんだと自分では思っていた。
イオナに比べると、買い物にかけた時間は半分以下だ。必要なものだけ選び終え、オレはカウンターへと向かう。
「ここは私が、ね?」
「あ――ああ。そう言ってくれるんなら」
おごってくれるという話ではあったが、レコードプレーヤーの件があるのでやっぱり自分が出そうかなと、テスタマイザーに半分手をかけていた。
けれど、それをイオナが手で制し、約束通りきっちり払ってくれたのだった。
「……でも、消耗品だからそんな掛からなかったね」
もっと出しても良かったのにと、イオナは残念がる。
そんなにおごられるほど悪いことをされた気は全くしないんだが……彼女は初日のこと、相当引き摺っているんだろうか。
「こういうのは金額の多寡じゃないだろ。おごってくれただけで十分嬉しいさ。……別に、入学式のことは貴重な経験だったなってくらいにしか今は思ってないんだし」
「……ふふ、そっか。じゃあこれで良しとしておきます」
「そうしてくれ」
納得してくれたようでホッとする。ともかくこれで、どちらの目的も終えられたということだろう。
時刻も正午になろうかという頃だし、ここらで一区切り付けるのが良さそうだ。
「さてさて、お昼ご飯はどこで食べよっか?」
「昼ねえ……外食が少ないからあんまり知らないんだよな」
あまり外食の必要がなかった家庭だし、自炊をしたりもしていたし。
イオナの方がそういうのは詳しいんじゃないかと思うのだけど。
「……この区じゃなくていいなら、家族でたまに行ってた店はあるけど」
「ほうほう、アグナス一家御用達のお店だね。行ってみたいな」
「御用達ってな……言っとくが、シャレた店とは対極の場所だぞ」
「いいよいいよ、そういうところの方が興味あるもん」
「そうかい……」
オレが行ったことのある店は、女の子を連れていくようなところなど一つもない。
多少はリサーチしておけば良かったか、なんて思ったけれど、時既に遅しだ。
イオナが構わないというなら、とりあえず案内することにしよう。
「じゃ、向かうとするか。混まないうちに着きたいもんだ」
「はーい。レッツゴー、だね」
終始ごきげんなイオナにやれやれと溜め息を吐きつつ、オレは目的の店へと移動を始めるのだった。




