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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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72.二人で街へ

 日曜日の空は、雲一つない快晴だった。絶好の外出日和だ。

 ただ、あれこれ考え過ぎて中々寝付けなかったのはマイナスだった。結局、眠れたのは深夜一時頃だった気がする。

 時刻は八時。身支度を整えてから、いつものごとく朝食をとりに向かう。

 イオナを誘うべきか悩んだが、駅前で集合と言っていたし、あえて呼ばなくてもいいだろう。

 早めの時間だったので、来ていたのはフェイだけだった。彼女も寝不足らしかったが、オレなんかとは理由が違って、文芸部に入ると決めてから未読の本を消化していこうと思い立ち、遅くまで読み耽ってしまったんだとか。微笑ましい理由だ。

 そんなフェイから、別れ際にすっと小説を差し出された。タイトルは『機械館の不思議』。……ああ、そう言えば昨日、貸してくれるという話になってたな。行動に移すのが早くてびっくりだ。

 ちゃんとお礼を言って、彼女と別れる。感想を聞きたそうにしていたし、キッチリ読んで感想とともに返さないと。

 ……女の子と物を貸し借りすることすら無かったのに、今はこんな簡単に出来てしまっている。

 考えてみると空恐ろしい。オレってこんなに社交的だったかな……。

 部屋に戻り、フェイから借りた本は一旦本棚へ入れておく。

 普段ならこのまま読書タイムにしてもいいかなというところだが、今日だけは別だ。

 もう一度身なりを正し、満足をつけてからオレは自室を出た。


 学園前駅までやって来たのは九時四十分。少し早いが、こういう場合は早めくらいがいい。

 果たしてイオナの方も、五分前にはやって来た。彼女を待たせなくて良かったとホッとする。


「おはよう、ダイン。今日はありがとね」

「こちらこそ。楽しい買い物になればいいんだが」

「ねー。良いもの見つけてくださいな」


 あくまでオレの欲しいものがメインか。一晩考えてはいたけれど、今どうしても欲しいってアイテムは無いんだよなあ。

 強いて挙げるなら、画材でも眺めていれば一つか二つ、使ってみたくはなるかもしれないか。


 ――それにしても。


「……ん? どうかした?」

「いや……何でもない」


 イオナの装いが普段とは違うのに、知らず見惚れていたとはとても言えない。

 昨日まではどちらかと言えば動き易さを意識したような落ち着いた服装だったが、今日はとても華やかなものになっている。

 ブラウスの上に春めいた淡い赤のカーディガン、丈の少し短い膝あたりまでのフレアスカート。

 艶めく桃色の髪は、朝の陽光に照らされキラキラとしていた。軽くメイクもしているのか、顔つきも明るい感じがする。


「ふふ。それじゃ行きますか」

「あ、ああ。列車の出発時刻もあるし、そろそろ入らないとな」


 イオナに促されるようにして、改札口を抜けホームに入る。

 列車は既に到着していて、出発の時を待っていた。

 オレたちはその列車にさっさと乗り込む。他の生徒の姿もちらほらあるが、見知った顔はないようだ。


「あ、そろそろ出るね。久しぶりの街へレッツゴー」

「二日前に経由はしたけどな。散策するのは実際、久々かも」


 オレたちを乗せた列車は、時刻ぴったりにアトモス学園を発つ。

 それからは約三十分、まったりとした移動時間が過ぎゆくのだった。





 セント・ロウディシア駅。

 平日も人は多かったが、休日にはやはり家族連れの割合が多い。

 都内の鉄道は全て地下に潜っていて、各街区をぐるぐると巡る形になっている。

 隣の区ぐらいなら徒歩でも行けるが、二つ離れると大体の人は乗り物を利用する傾向だ。

 列車を降りたオレたちは、改札を抜けて地上へ出る。

 そこには見慣れた、けれども少し懐かしくなる光景が広がっていて。


「戻ってきた――って感じだな」

「一週間、密度の濃い日々だったもんね」


 全くだ。ドタバタの入学式から始まり、イマジネーターの力を得て。

 色んな人と出会い、交流し、ときたま衝突し……一昨日は異世界にまで進出したんだものな。


「変わらない街並みを見ると落ち着くってもんだ」

「あはは、それはちょっとお年寄り染みてる台詞な気もするけど」


 イオナには笑われたが、あまりにも今までとは違う環境に置かれていたのだ。

 見慣れた景色に落ち着きを感じるのも無理からぬことだろう。

 首都セント・ロウディシアの中心部――セントラル・スクエア。開発区と称されるこの一帯はその名の通り開発が繰り返される最先端の街区で、商業施設や大企業のオフィスなどの他、学校や自然公園などあらゆる機能が集まるところだ。

 眠らぬ街と呼ばれることもあり、夜でも常にどこかしらで明かりが灯っている、まさに賑わいの中心地である。反面、住宅はほとんど建っていない。

 首都はこの『開発区』のように、都市を幾つかの区で分けて特色を付けている。

 北は星定議会のある『行政区』、東は開発区に次いで店や企業の多い『商業区』。

 南は住宅の密集する『居住区』、西は教会やギルド、学校などの公共施設や倉庫などが点在する『特別区』といった具合だ。

 中央の開発区はつまり、各区の上澄み部分が進出してきていると思えば間違いじゃない。


「さてと……ショッピングがメインならここか商業区かだろうな。東に向かってぶらぶら歩いてみるか?」

「うん、そのつもり……なんだけど、ちょっと行ってみたいお店もあるから先導するね」


 そう言うとイオナは、ニコリと笑って先に歩き始めた。嬉しそうに鼻歌まで歌っている。

 ……そんな風に上機嫌でいてくれたら嬉しいけれど。オレと一緒にいて、ずっとそれが続くもんかなあ。


「……ま、善処しますか」


 苦笑混じりに独り言ち、オレは彼女の後に続いて歩き出すのだった。

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