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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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71.夜の呼び出し


 勧誘会の後、夕食までの短くない時間を自室で静かに過ごしてから。

 六時になって再び集まった面々と、どの部に入ったかという報告に花を咲かせた。


「ルカちゃんは結局スイーツ同好会に入ることにしたのよねえ」

「甘いものの魅力には勝てないでしょ、そりゃ。そういうフェイは文芸部だったよね?」

「ええ。やっぱり、出版された作品の著者が気になるところだったし……少なくとも、その人の書くものが読めるのは間違いないもの。意外だったのはイオナちゃんね」


 そう言うと、一同の視線はイオナの方へ向けられる。


「やっぱりあの後、生徒会に届け出を出したのかしら?」

「う、うん。悩んだんだけど、せっかくなら挑戦してみたいなあって」


 生徒会の仕事に興味があるというのは昼食の席でも話していたが、あの紹介から入会を決めるとは。

 率直に言ってシエラさんの演説じゃ、生徒会って辛い仕事なんだなという印象しか持てなかったのだが。

 イオナが余程献身的な性格をしているのか……或いは、シエラさんやスティング姉妹と一緒に仕事をしたいのか。後者の可能性はまあ少ないだろうけど。


「で、我らがリーダーは堅実に撤退したと」

「撤退ってな……まあ、保留にしたのはそうだけどさ」


 エスカーから、やっぱり気楽なのが一番だよねと言われる。

 こいつと同意見なの、あんまり嬉しくないんだよなあ。

 まあ、そういうわけで部活等に入ったのはこの中で女子三人だけ。

 イオナが生徒会でルカがスイーツ同好会、フェイが文芸部という内訳だ。

 オレはこの先どうするか分からないが、エスカーは絶対どこにも入らないだろうな。それは分かる。


「自由時間に関しては各々好きなように過ごす。そんだけだろ」


 溜め息交じりに、オレは話をそう纏めるのだった。





 夕食を終え、各々の部屋へと帰っていってから。

 オレはイオナと二人、エレベーターホールに戻って来ていた。

 食事中、イオナが何度かオレに目配せして来たので、何となく意図を察して戻ったのだ。

 これで勘違いだったら恥ずかしいところだったが、ちゃんとイオナもいて、安堵の表情を浮かべていた。


「えへへ、ごめんね」

「いや、別に。……どうかしたか?」


 オレが問いかけると、イオナは指をもじもじさせながら、


「その……入学式のことだけどさ。もう気にしてないかもしれないけど、助けてもらった割に私、ちゃんとしたお礼もしてないなと思って」

「……今更過ぎねえか?」

「だって、訓練ある日はヘトヘトだったし」

「まあ、それもそうか」


 もうかなり前のことにも感じられるが、入学式はたった五日前のことだ。休みになったら改めて言おうと考えるのも変じゃないか。

 しかし、思い返せば確かに、お詫びとお礼に施設案内をすると言ってくれていたが、結局案内をしてくれたのはコーネリア校長だった。

 オレはとっくに忘れていたけれど、イオナはずっと心に引っ掛かりがあったんだろう。


「それでね? 貴重な休みの時間をもらっちゃうのはそれで申し訳ないんだけど、明日にでも二人でお出かけしないかなーって。ほら、ダインがほしいものがあったら一つ、おごってあげるからさ」

「二人でお出かけって……街にか?」

「どこでもいいけど、やっぱお買い物ならセント・ロウディシアじゃないかな?」


 実際、外出するならセント・ロウディシアに繰り出すのがベターだろう。二人で農村や鉱山の町なんかに行ったって、娯楽になるようなものは少ない。風景を楽しみたいとか明確な目的でも無ければ。

 しかし、休みの日に女子と二人で街に、ねえ……。生憎それに近しい経験、人生で一度たりともないんだよな。


「お礼だから考慮してないのかもしれねえけど、オレと出かけても楽しめるって保証はないからな? むしろ退屈にしかならねえ気がする」

「あはは、そんなのいいんだよ。私がそうしたいだけなんだから」


 そうしたいだけ、か。……本当にそれでいいのかよと思ってしまうが、しつこく聞いたって鬱陶しいだけだ。

 イオナがそれでいいって言うなら……オレに断る理由はない。


「特に予定があるわけでもないし……そこまで言ってくれるなら、同行するよ。欲しいものが思いつくかは分かんねえけどな」

「やった! 欲しいものはお店巡りして見つけるのもいいと思う。最後まで思いつかなかったら、また今度の機会にでもいいし」


 今度の機会って、お礼の品をおごれるまで一緒に出かけるつもりなのか?

 いや、流石にそんなつもりじゃないだろうけど……分からん。


「じゃ、明日の九時五十分に駅前で合流しよ! 待ってるからね」


 にこやかに手を振り、イオナは言うだけ言って女子寮へ戻っていってしまった。

 後は半ば呆然としたままのオレだけが取り残される。


 ――そりゃあ、嬉しくないわけじゃあないけども。


 女子から二人で出かけようと誘われるシチュエーションなんざ、滅多にないことだ。

 中等学校までは、そんな経験に恵まれたこともなかったというのに。


 ――デートしてるみたいじゃない?


 昼間のルカの言葉がふと脳裏に蘇る。

 ……本当になぜそんなシチュエーションが、この短い間に連続するんだよ。


「……はあ」


 思わず、溜め息を一つ。

 申し訳ないが、オレには女心というのを察する才能も、接する技量もないのだ――。


 そして、悪夢を見ない代わりにまた寝苦しい夜が、過ぎていった。


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