71.夜の呼び出し
勧誘会の後、夕食までの短くない時間を自室で静かに過ごしてから。
六時になって再び集まった面々と、どの部に入ったかという報告に花を咲かせた。
「ルカちゃんは結局スイーツ同好会に入ることにしたのよねえ」
「甘いものの魅力には勝てないでしょ、そりゃ。そういうフェイは文芸部だったよね?」
「ええ。やっぱり、出版された作品の著者が気になるところだったし……少なくとも、その人の書くものが読めるのは間違いないもの。意外だったのはイオナちゃんね」
そう言うと、一同の視線はイオナの方へ向けられる。
「やっぱりあの後、生徒会に届け出を出したのかしら?」
「う、うん。悩んだんだけど、せっかくなら挑戦してみたいなあって」
生徒会の仕事に興味があるというのは昼食の席でも話していたが、あの紹介から入会を決めるとは。
率直に言ってシエラさんの演説じゃ、生徒会って辛い仕事なんだなという印象しか持てなかったのだが。
イオナが余程献身的な性格をしているのか……或いは、シエラさんやスティング姉妹と一緒に仕事をしたいのか。後者の可能性はまあ少ないだろうけど。
「で、我らがリーダーは堅実に撤退したと」
「撤退ってな……まあ、保留にしたのはそうだけどさ」
エスカーから、やっぱり気楽なのが一番だよねと言われる。
こいつと同意見なの、あんまり嬉しくないんだよなあ。
まあ、そういうわけで部活等に入ったのはこの中で女子三人だけ。
イオナが生徒会でルカがスイーツ同好会、フェイが文芸部という内訳だ。
オレはこの先どうするか分からないが、エスカーは絶対どこにも入らないだろうな。それは分かる。
「自由時間に関しては各々好きなように過ごす。そんだけだろ」
溜め息交じりに、オレは話をそう纏めるのだった。
*
夕食を終え、各々の部屋へと帰っていってから。
オレはイオナと二人、エレベーターホールに戻って来ていた。
食事中、イオナが何度かオレに目配せして来たので、何となく意図を察して戻ったのだ。
これで勘違いだったら恥ずかしいところだったが、ちゃんとイオナもいて、安堵の表情を浮かべていた。
「えへへ、ごめんね」
「いや、別に。……どうかしたか?」
オレが問いかけると、イオナは指をもじもじさせながら、
「その……入学式のことだけどさ。もう気にしてないかもしれないけど、助けてもらった割に私、ちゃんとしたお礼もしてないなと思って」
「……今更過ぎねえか?」
「だって、訓練ある日はヘトヘトだったし」
「まあ、それもそうか」
もうかなり前のことにも感じられるが、入学式はたった五日前のことだ。休みになったら改めて言おうと考えるのも変じゃないか。
しかし、思い返せば確かに、お詫びとお礼に施設案内をすると言ってくれていたが、結局案内をしてくれたのはコーネリア校長だった。
オレはとっくに忘れていたけれど、イオナはずっと心に引っ掛かりがあったんだろう。
「それでね? 貴重な休みの時間をもらっちゃうのはそれで申し訳ないんだけど、明日にでも二人でお出かけしないかなーって。ほら、ダインがほしいものがあったら一つ、おごってあげるからさ」
「二人でお出かけって……街にか?」
「どこでもいいけど、やっぱお買い物ならセント・ロウディシアじゃないかな?」
実際、外出するならセント・ロウディシアに繰り出すのがベターだろう。二人で農村や鉱山の町なんかに行ったって、娯楽になるようなものは少ない。風景を楽しみたいとか明確な目的でも無ければ。
しかし、休みの日に女子と二人で街に、ねえ……。生憎それに近しい経験、人生で一度たりともないんだよな。
「お礼だから考慮してないのかもしれねえけど、オレと出かけても楽しめるって保証はないからな? むしろ退屈にしかならねえ気がする」
「あはは、そんなのいいんだよ。私がそうしたいだけなんだから」
そうしたいだけ、か。……本当にそれでいいのかよと思ってしまうが、しつこく聞いたって鬱陶しいだけだ。
イオナがそれでいいって言うなら……オレに断る理由はない。
「特に予定があるわけでもないし……そこまで言ってくれるなら、同行するよ。欲しいものが思いつくかは分かんねえけどな」
「やった! 欲しいものはお店巡りして見つけるのもいいと思う。最後まで思いつかなかったら、また今度の機会にでもいいし」
今度の機会って、お礼の品をおごれるまで一緒に出かけるつもりなのか?
いや、流石にそんなつもりじゃないだろうけど……分からん。
「じゃ、明日の九時五十分に駅前で合流しよ! 待ってるからね」
にこやかに手を振り、イオナは言うだけ言って女子寮へ戻っていってしまった。
後は半ば呆然としたままのオレだけが取り残される。
――そりゃあ、嬉しくないわけじゃあないけども。
女子から二人で出かけようと誘われるシチュエーションなんざ、滅多にないことだ。
中等学校までは、そんな経験に恵まれたこともなかったというのに。
――デートしてるみたいじゃない?
昼間のルカの言葉がふと脳裏に蘇る。
……本当になぜそんなシチュエーションが、この短い間に連続するんだよ。
「……はあ」
思わず、溜め息を一つ。
申し訳ないが、オレには女心というのを察する才能も、接する技量もないのだ――。
そして、悪夢を見ない代わりにまた寝苦しい夜が、過ぎていった。




