70.部活勧誘会! ②
四番目に登場したのは、スイーツ同好会だ。やはり生徒会は部活というわけでなし、最後に回されているらしい。
同好会の紹介に登壇したのは小さな女の子。ただ、トバルさんの前例もあるので見た目通りと思うのは良くないな。
『みなの者、ワシの名はメイト=ラシェルと言う! 九十八期生じゃからお主らの二つ上じゃな。スイーツ同好会の会長をしておるので、覚えて帰ってくれると嬉しいぞ』
……一人称、ワシなのか? 彼女は彼女でかなり濃いキャラをしているな。
身長はトバルさんより若干高いくらいなので百五十あるかないか、体の線もほっそりしている。
エメラルドのような髪は短めのボブカット、目は澄んだ青でクリクリとして可愛らしく、全体としてお人形のような雰囲気だった。
『さきのトバルに似ておるが、ワシはエルフの血を若干引いておってな。実際の年齢よりも若く見えるというわけじゃ。ふふん、じゃが何歳かと言う質問をしたら許さんからな?』
ニヤリと笑いながら言う彼女だが、その瞳の奥に何やら恐ろしいものを感じてゾクリとなった。
もしも聞いたら本当に命でも奪われそうなんだが。怖い怖い……。
実際、エルフの血を引くなら見た目の倍くらいの年齢は想定してもいい。それでも二十歳になるかならないか、というところか?
九十八期生は通常通り十五歳で入学したとすれば、十七歳。違和感はないが、どうももう少し年上な感じもするんだよな。トバルさんのことを呼び捨てにするあたり……。
って、余計な詮索をしてても仕方ないか。年を気にしてたらマジで痛い目を見かねない。
『我がスイーツ同好会の活動内容は二つ。食べること、そして作ることじゃ! 各地の店を巡り、スイーツを食べて論評するのに留まらず、流行りのものからマイナーなものまで、食べたいスイーツを自分たちで作るということもしておる。文芸部のように隔月ではないが、紹介誌も不定期で出しておるのじゃぞ。スイーツ好きは必読の一冊じゃから、知らなかった者は今度手に取ってみるがよい』
スイーツの紹介誌……か。学園内でだけ読めるようなものなんだろうが、それはちょっと気になる。
セント・ロウディシアに戻ってから行ってみたいお店が増えるかもしれない。
その後、しばらく活動実績について語ったメイトさんは、
『この部はまだまだ出来立てでな、絶賛部員募集中なのじゃ。皆の入部を心待ちにしておるぞ!』
元気良くそう締めくくって、舞台から去っていくのだった。
「活動内容は想像通りだね。でも、面白い人が部長だなあ」
「割とどこの部活もそうじゃないか? トバルさんも中々だったし、トーマスさんもらしい雰囲気はあったし」
「はは、そうかも。……こうして聞いてると、どこの部活も気になっちゃうや」
イオナは困ったように笑う。それでも、一番興味を惹かれていそうなのはスイーツだろうな。
「スイーツ、かあ」
隣でほとんど独り言のように呟いたのはルカ。……ひょっとして、こいつもスイーツ部に心惹かれているのか?
どうも、あの一件以来彼女の知らない面にどんどん触れていっている気がする。
「……あ、次が最後だね」
進行役が大トリを務める生徒会に登壇を促す。
舞台に上がってきたのはシエラさん……と、他にあと二人の女性がいた。顔が非常に良く似た、多分双子の姉妹だ。
『やあ諸君。私はアトモス学園の生徒会長を任されている、九十七期生のシエラ=ホーバーという者だ。この二人は私より一つ下で、役員のスティング姉妹……左がアクアくん、右がスキアくん。どうぞお見知りおきを』
紹介を受けて、スティング姉妹は軽く一礼する。
姉妹とも水色の髪が特徴的だが、アクアさんの方はショートカットで、スキアさんの方は肩より少し長めのロングヘア。
顔立ちもアクアさんはパッチリとした目をしていて腕白そうな感じ、対してスキアさんは優しく微笑みかけるような目で、落ち着いた印象を放っていた。似ているけれど、しっかり区別のつく姉妹だ。
『私たち生徒会は、アトモス学園で行われるイベントの企画や予算管理、部活動に対する費用交付や場所使用の許可取り等々、多くの事務手続きを行わせてもらっている。無くてはならない組織ではあるのだが、しかしその役回りから進んで入ってくれる人が少なくてね。今もこの三人だけで回しているのが現状なのさ』
……マジか。生徒会って今、三人しか所属していなかったのか。
それで企画や予算の管理をキッチリするとなると大変そうだ。シエラさんが休暇にも関わらず働いていた理由もよく分かった。
『だがまあ、生徒会の辛い部分だけを説明したとて入会してくれる者が来るはずもないだろうね。そこで幾つか生徒会のやりがいについても伝えたいと思う。まず第一に、学園から支給金が出る。あくまで一人当たり月に一万ペンドほどだが、それでもタダ働きにはならないということだ。第二に、金銭感覚や交渉能力が身に付く。これが存外大事でね、学園を卒業して社会に出てから役に立ったという声が結構あるんだよ。そして最後は』
そこでシエラさんは一度言葉を切り、腕組みをしてから、
『私たちの下で働ける、ということだ。フフ……美しい女性に囲まれた職場と思えば俄然やる気も出るだろう。さあ、新入生の諸君。是非とも生徒会へ入り、私たちと良き青春を送ろうではないか!』
何というか……自信たっぷりの演説だったな。
確かにシエラさんは美人だし、スティング姉妹もそれぞれ個性的で素敵な女性に違いない。
仕事の大変さはさておき、一緒に何かをしてみたいと思っても不思議ではないが。
はてさて、何人の新入生が入会を希望するのやら。……オレには流石に荷が重いな。
『皆さん、楽しんでいただけたでしょうか? そして入ってみたいと思うところは見つかったでしょうか? とにかくご覧いただきましてありがとうございます。ここからはご自由にブースを回っていただき、気持ちが固まりましたら入部届を提出していただければと思います』
これでひとまず部活動紹介はおしまい、か。後は進行役の人の言う通り、入部届を出すかどうかだが……オレは現時点じゃどこかへ所属しようという気持ちにもなれなかった。まあ、いずれ気が向いたら検討すればいいだろう。
入部に前向きだったのは、オレ以外の三人の方だ。それぞれ元から興味があったのか、或いは紹介で興味をそそられたのか、とにかく入ってみたいと思えたものがちゃんとあったようだった。
「皆はこれからブースを覗いてく感じだな?」
「そうねえ。ダインくんはいいの?」
「ああ。面白そうな部活はあったけど、今は気楽な方がいいかな」
「そっかあ。一緒に来てくれたら楽しそうだったのになあ」
ルカが残念そうに言い、イオナも、
「良い経験になるだろうしね。ま、入りたくなったら入ればいいと思うよ」
「そのつもりさ。つーわけで、オレはここで退散させてもらうとするかな」
実際、すたすた帰っていく新入生も一定数いる。琴線に触れるものが無かったか、最初から物見遊山だったかは分からないが。
ここまで来て入らない奴が珍しい、というわけでもないだろう。
「じゃあ、またな」
「はーい。お疲れ様、ダイン」
「またね、ダイン!」
三人と別れの挨拶を交わし、オレは何人かの新入生と同じように、演習場を立ち去るのだった。




