69.部活勧誘会!
時計が午後一時を指すと、舞台上に一人の男性が現れた。
誰かと思えば、コーネリア校長だ。まさか校長が挨拶に顔を出すとは。
案内したときに教えてくれていても良かったのに……恥ずかしかったりしたんだろうかな。
『あー、テステス……新入生の皆、入学式ぶりだな。校長のコーネリアだ。勧誘会の挨拶を毎年頼まれちまっててな、こうして立たせてもらってるんだが』
校長は少し照れ臭そうに鼻を掻きつつ、オレたちの方を見つめて続ける。
『ま、俺から言えることは一つだけさ。大変なイマジネーター活動の息抜きとして、ここで自分の楽しめるものが見つかることを願ってる。さあ、楽しんでいってくれ!』
新入生と、それからブースで待機している上級生からも歓声が上がった。
コーネリア校長、場を盛り上げるのは得意だよな。味方の指揮を上げられる人物、ということでもあるんだろう。
校長が舞台から退くと、進行役を務める上級生が早速、各部活の紹介に移ると告げた。
一番手はフットボール部のようで、依頼掲示室にいたときとは違う、きちんとしたユニフォームを着たフィンクスさんが舞台に上がるのだった。
『どうもォ、フットボール部の部長フィンクス=サザール言います。依頼掲示室で会うたし知ってる思うけどね。このアトモス学園のフットボール部は結構長い歴史を持っててねェ、もう三十年近いんちゃうかな』
彼は小脇にボールを抱えていて、話ながらそれを足元にそっと置く。
そして、ボールを軽く足で蹴り上げると、見事な足捌きでリフティングをしてみせるのだった。
『よっと……。生徒数が限られてる上にイマジネーター稼業が忙しいもんで、この学園は部活に入る子も少なくてねェ。ウチの部活も毎年ギリギリになるから、興味のある子には是非入部してほしいんよ』
足先だったり膝だったり、時には頭や胸でもボールを受けながら、フィンクスさんは紹介を続ける。
『他の学校やら、時々は企業さんとの試合もしたりするし、やってみると楽しいもんやで。経験なくても丁寧に教えるし、上達したら――』
そこでフィンクスさんはいきなりボールを強く蹴り、フットボール部のブースの方へと飛ばした。
すると、ちょうどその場所に待ち構えていたセアルさんが胸でトラップし、彼も何度か華麗にリフティングをしてみせた後にフィンクスさんへ蹴り返したのだった。
『――こんな具合に格好ええコト出来るようになるからな』
この演出には、新入生たち――主に男子から拍手が上がった。今のが格好いい、というのはオレも思う。
しかし、悪いがスポーツはオレに向いていない。あんな風に目立つのも、気持ちよさより恥ずかしさの方が勝ってしまいそうだし。
『入部希望者は各部の紹介が終わったあと、ブースへ申し込みに来てな。ほんじゃ、そういうことで!』
最後にまたボールを小脇に抱えると、フィンクスさんはそんな風に締めくくって舞台から降りていった。
四つある部の中でも、多分ここが一番人気なんだろうな。ブースで待機している上級生も他より多いし。
「フィンクスさんが部長だったんだね。それはちょっと意外だったなあ」
「最初に会った時とは印象違って見えたな。事務作業で忙しくしてたから、フットボールとは結び付かなかったけど」
実際にはあんな風に、ボールを自由自在に操ることが出来ていた。見かけじゃ中々判断付かないもんだな。
「ルカはフットボール、興味ないのか?」
「うん? そうだなあ、ボクはあんまり……やったこともないしね」
意外にも、ルカは経験が無いらしい。これもまた見かけでは、ということか。
オレが直近まで彼女を男と誤認していたことが最たる理由ではあるけれど。
フットボール部に続いて紹介が始まったのは、文芸部だ。舞台に上がった眼鏡の男性が部長らしい。
『ええと、どうも……文芸部部長のトーマス=ディディと言います。入学二年目ですが、現在はオペレーターとして活動してますんで、皆さんと顔を合わせることは少ないのですが』
落ち着いた語り口のトーマスさん。その見た目も眉の下あたりまで伸びた黒髪にレンズの厚い眼鏡、ややフォーマル気味のスーツっぽい服装と非常に大人しい印象だ。
二年目で部長を務めているのは凄いと思ったが、ブースの方を見る限り部員自体が少ないらしい。フットボール部に比べると、半分以下に感じられた。
部員の雰囲気も、トーマスさんのように大人しめの人が多いように思える。……その中に、一人だけやたら派手なお嬢様みたいな女性もいるけれど。あの人も上級生のようだ。
――あれ?
一瞬見覚えのある顔が見えた気がするが、勘違いだろうか。
もう一度視線を向けてみても、同じ顔は見当たらなかった。
『文芸部は名前の通り、詩や小説好きが集まって論評したり、或いは自分たちでも執筆活動をしてみたりするところです。一応、隔月で合同誌も出していまして、そこで連載していた作品が出版社の目に留まって出版された、なんてこともあったりします』
ほう、そんなめでたいこともあったのか。まだ学生なのに、自分の書いた作品が世に出るような人がいたとは驚きだ。
いつ頃のことなんだろうかと思っていると、
「それは『機械館の不思議』のことね。私も読ませてもらったことがあるの。面白かったわ」
フェイが教えてくれた。彼女も結構な読書好きなようで、年に三、四十冊程度は小説を読破しているのだという。
機械館の不思議という作品は著者名のところがアトモス学園文芸部となっており、それだけでも注目を浴びたのだが、内容もかなり本格的なミステリで高評価だったのだとか。
「出版されたのはつい最近だったから、あの部長さんか部員の人が書いたんでしょうねえ。サインが欲しいくらい」
「はは、フェイがそこまで言うんなら面白いんだろうな。興味が湧いてきた」
「あら、学園に持ってきたからいつでも貸してあげられるわ。また今度持ってくるわねえ」
「マジか。じゃあお言葉に甘えるよ」
すぐに貸してあげると言うあたり、誰かに広めたいレベルの作品なんだろう。
フェイと小説の談義をするのも面白いかもな、なんて思ってしまった。……しかし、そうやって話しているとルカやイオナがやたらこっちを見てくるのは何故なんだ。紹介に集中しろってか。
フェイは元々文芸部への入部を考えているらしく、それから最後までトーマスさんの話を熱心に聞いていた。
彼女の中では多分、入部の意思が固まったんだろう。紹介が終わってからの彼女の視線は、もうブースの方に向いていた。
『次は美術部による部活動紹介です、どうぞ』
……お、今のところ一番気になっている部活だ。ほんのたまにだがオレも絵を描くことがあるので、趣味に合うのはここかなと考えていた。
どんな人が部長なのかなと思っていると、舞台に上がったのは小柄な――かなり小柄な男の子、だった。
『やあ、新入生諸君。オイラはトバル=ファイン、美術部の部長を務めてるぞ! こんな見た目だけど十八歳、れっきとした学園九十七期生だからよろしくな!』
九十七期生、つまりトバルさんはオレたちより三つも上の先輩ということになる。
ただ、彼の身長は百四十センチちょっとしかなさそうだし、顔もかなり童顔だ。
赤茶色の髪がツンツンと跳ねているけれど、それもあまり身長の足しにはなっていない。
……もしかしてトバルさん、種族の違う人なのか。
『オイラはドワーフの血を引いてるからこんな感じでな。これでも身長は高い方なんだぞ。ま、それはさておき美術部についてだけど、活動内容は簡単。好きなものを造れ! これに限る』
ドワーフ……主に鉱山地域に住んでいる地底種と呼ばれる種族のことだ。採掘を生業にしてきたゆえか身長が低く、寿命も普通の人よりは僅かに短いのが彼らの特徴だったはず。
エルフと同様、世界全体としてはそこまで人口が多いわけではない、いわゆる少数民族というやつだ。
ちなみに、エルフでもドワーフでもないオレたちのような人間のことは普遍種――ヒューマンと呼ぶこともある。専門用語なので、学校以外ではあまり聞く機会もないけれど。
『オイラは昔から石を彫ってたこともあって、彫刻をメインに創作をしてる。小っちゃいけどこういうヤツだ』
トバルさんはそう言うと、待機していた部員に指示を出して自身の作品を舞台上に持ってきてもらう。
それは高さ一メートルほどの、とても精巧に彫られた鎧の騎士だった。
ここからでもその精緻さは分かるが、もっと近くで見たくなる美しい作品だ。
彼の腕前が確かなものだというのはそれだけで理解出来た。
『もちろん他の部員は絵を描いたり、写真を撮ったり、それから木を組み立ててオブジェを造るなんてのもやってるぞ。誰もが思い思いの芸術を生み出せるのが美術部だ、ぜひ入部してくれな!』
ブンブンと手を振って話を締めると、トバルさんは彫刻を抱えて舞台から降りていった。……自分が持つのはちょっと重そうだったな。
しかし、美術部か。普通に絵を描いてる人もいるみたいだし、オレには一番馴染んでいそうだ。
だからって、今すぐ入りたいと食指が動くわけでもなかったが。
どちらかと言えば――ああ、やっぱり。
エステルちゃんは美術部に入る気満々のようだな。早く入部手続きをしたそうにウズウズしていた。
「さて……」
これで過半数の紹介が終わり、残すはスイーツ同好会と生徒会の二つだけになった。
どっちもイオナが興味を持っていたけれど……彼女、どっちかを選ぶんだろうか。
まあ、オレはのんびり見させてもらうだけだ。あともう少し、楽しむとしよう。




