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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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67.魔術工房イマジナル

 カインズ商工会を出たところで、時刻は十時半近くになっていた。

 正面に演習場が見えるのだが、そこでは何やらブースの設営が始まっている。


「ホラ、午後から部活動の勧誘イベントがあるんだよね。その設営だと思うよ、上級生の人がいるから」


 ルカが言うように、テントを立てているのは上級生だ。知らない人ばかりだが、中にはフィンクスさんの姿もあった。

 それから……シエラさんも奥の方にいる。生徒会も部活動と同じように勧誘活動するんだな。


「ねね、ダイン。せっかくの休みなんだし、一緒に見に行かない? 入らなくても、どういう部活があるのか見るだけでも面白いだろうしさ」

「ああ、構わないけど。……楽しそうだな」

「そりゃあもちろん」


 気になっている部活でもあるんだろうか。体を動かすのが好きそうだし、フットボール部は似合いそうな気もするけれど。

 ただ、多分ブースの準備をしているのがフィンクスさんで、周りには男子ばかりだ。ちょっとその辺りで気後れしそうでもある。


「よし、午後の予定も押さえたことだし、昼ご飯までどう過ごそうかな? ……あ、そうだ」


 一旦解散してもこちらはいいのだが、ルカにその気はなさそうだ。

 何故かオレの腕を掴みながら、商工会の隣にある店舗を指差す。


「あっちにも行ってみようよ。後学のためにさ」

「魔術工房か……確かにオレも気になってるからな。行ってみるか」


 魔術工房イマジナル。世界にイマジネーターという存在を誕生させた始祖と言っても過言ではない工房。

 当然ながら現代においても、イマジネーターにとって切っても切れない関係だ。ブースターを始めとした様々なアイテムを、魔術工房は提供してくれている。

 本部はカインズ商工会と同じくセント・ロウディシアにあるが、こちらもイマジネーターとの取引が円滑に出来るよう、学園内に出張所があるわけだな。

 オレとルカは、早速工房内へ入ってみる。広さはさっきの商工会出張所とまるで変わらなかったが、やはり内装は全然違うものだった。

 真ん中あたりのカウンターを境にして、こちら側にはブースターや各種装備が陳列されていて、奥側には巨大な炉や素人では用途の分からない機械などが設置されていた。あれらを使って、色々な武具が作られるのだ。


「……いらっしゃい」


 工房でオレたちを迎えてくれたのは、サンズさんとは打って変わり、寡黙な職人という雰囲気の男性だった。

 群青色の短髪を、目にかかることが無いようハチマキで留めている。深紅の目は吊り上がり気味で意志の強さが感じられた。

 身長は平均的だが、武具の制作過程で重たい道具を使うためだろう、やはり体格はがっしりとしている。

 工房という場所に相応しい存在感の男性なのであった。


「どうも。……ええと、オレたち新入生で、ちょっとどんなものか見させてもらいに来たんですけど大丈夫ですかね」


 男性はブースターを専用の装置にかけ、何やら作業をしている。ひょっとしたらお邪魔なのかもしれない。

 どうしたものかと思っていると、


「その……歓迎する。好きに見て行ってくれて構わない」


 ほんの僅か、分かるかどうかというくらいに彼は口元を綻ばせる。

 ……多分この人、とんでもなく感情表現が苦手なだけだ。別に、誰かと話すのが嫌いというわけではなさそうだった。


「ありがとうございます」


 まあ、許可を得る必要なんてなかったかもしれないけれど。しばらく好きに店内の商品を見させてもらうとしよう。


「へえ……ブースターにランクなんてあるんだね」

「最初の訓練でメルシオネ教官が、高品質な物を買ったりカスタムしたり出来るとは説明してたけど……こんな風にランク付けされてるんだな」


 ショーケースに並ぶブースターの数々。見た目も様々で、豪奢なものもあれば古めかしいものもある。

 また、黒を基調としたものは闇属性が、白を基調としたものは光属性が強まりやすいなどの効果を持つものもあって、中々バラエティ豊かなんだなと感動した。属性がついているものは恐らく、そのようにカスタムされた一品なのだろう。


「……ランクについては、学園内の依頼ランクに対応すると思ってくれていい」

「わ。……そ、そうなんですね。ありがとうございます」


 いつの間にか店員の男性が後ろに立っていて説明をくれたので、ルカはびっくりしながらもそう返した。

 この人、静かだから気配も感じ取りづらいな。


「私は、マルゼス=コマンダーという。ここを一人で切り盛りしていて……手が離せないこともあるが、可能な限りは君たちの力になりたいと思っている」

「いや、大丈夫です。それにしても、一人で販売から製造、カスタムまでやってるんですか?」


 マルゼスさんはオレの問いに、こくりと頷く。


「大変ですね……」

「好きでやっている。だから、君たちも何でも言ってくれて構わない」


 ……なるほど、頼りになる職人さんだ。

 マルゼスさんは、ランクによってブースターの性能がどう変わってくるのかを詳細に教えてくれた。

 まず、最初に説明してくれた通り、ランクは学園の依頼とほぼ連動していて、一ツ星である初期ブースターなら一ツ星依頼を請けるのに適切と思えばいいという。同様に、二ツ星ブースターなら二ツ星依頼を、三ツ星ブースターなら三ツ星依頼を……という感じだ。

 しかし、それなら買える限り高ランクのものを買っておけば、そのランクの依頼をこなせるくらい力が増すのかと言われるとそれは違う。

 ランクによって大きく変わるのはブーストされる力の上限であり、ブースト率そのものは微々たる変動でしかないとのことだった。

 たとえば、仮にイマジネートの力が百のイマジネーターがいるとする。その人の所有するブースターが百五十までの力までしか引き出せないとすると、当人の力が二百になったとしても、イマジネートの力は百五十までしか出せない。

 逆に、そういう人が千や二千まで力を出せるような高ランクのブースターを持っていたとしても、当人の力が百や二百だとそこに僅かなプラスをした力くらいしか結局は出せないというわけだ。

 若手が高ランクのブースターを買えるような大金を易々稼げるわけでもなし、身の丈に合わないものを買っても宝の持ち腐れで、苦労することになる。己の力量を知り、適切な装備を整えるのが重要なのだな。


「勉強になります」

「うむ……我々の造るものをよく知り、使いこなしてくれることが、私にとっての喜びでもある。今後も分からないことがあれば聞いてくれ」

「ええ。頼りにさせてもらいます、マルゼスさん」


 その後も、オレとルカはマルゼスさんからの説明を挟みつつ商品を見ていったり、工房で行われるサービスの紹介を受けたりした。

 ブースターのカスタムについてはかなり幅が広く、結果にランダム性もあるために、満足するためには大量の素材が必要となる場合もあるというのも新たな知見だった。

 自分好みのカスタムを行うにはまだ早いが、そのうち上位ランクのブースターは欲しくなりそうだ。

 まだ手の届く値段ではあるし、全員分を揃えられるよう着実に稼いでいきたいものだな。

 今日買えるものは何もなく、冷やかしのようになってしまったものの、マルゼスさんは嫌な顔をすることもなかった。

 むしろ、何も無くとも来てくれていいと言ってくれたほどだ。


「次はこれを買おう、こんな改造を試してみよう……色々考えている子らを見るのも楽しみの一つだ。そしてその子らの期待に応えるのもな」

「はは。ここをどんどん利用していけるよう、頑張らなくちゃな」

「君たちの活躍、期待しているよ」


 マルゼスさんのそんな言葉に胸が温まるのを感じながら、オレとルカは工房を後にするのだった。

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